人的資本とは?背景や情報開示、アクション案を解説(前編)
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近年、企業における「ヒト」に対する意識は大きく変わりつつあり、経済の発展とともに、物的資産や金銭的な資源だけでなく、従業員が持つスキルや知識、価値観等も企業価値に直結する重要な資本として捉えられるようになっています。この「ヒト」の資本を指すのが「人的資本」です。特に、企業の成長においてこの資本をどう最大化するかが問われる時代となり、その重要性はますます増しています。
本コラムでは、人的資本の基本的な概念から、その背景となる経済的な流れ、そして企業が今後どのように人的資本の情報開示に取り組むべきかについてご紹介します。前編では、人的資本の定義や関連する概念、企業にとっての意義とその背景に焦点を当て、後編では実際にどのようなアクションが求められるかを掘り下げます。
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前編目次
・人的資本とは?
・「人的資本」と「人的資源」の違い
・人的資本経営とは?
・人的資本の情報開示が重要とされる背景
‐企業の市場価値の構成要素が有形資産(モノ・カネ)から無形資産に移行
‐投資家による重要性の認知
‐情報開示に対するニーズの増加
・人的資本の開示に向けた指針となる「ISO30414」
・日本企業に求められる開示内容
後編目次
・人的資本開示の指針となる「ISO30414」
・日本企業に求められる開示内容
・人的資本開示に向けた3つのアクション案
・人的資本開示が先行している企業のアクション
・人的資本の開示は人事部門の変革のきっかけになる
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人的資本とは?
人的資本とは、「モノ・カネ」のように、「ヒト」の持つ能力を資本としてとらえた経済学の用語です。具体的には、個人が身につけている技能・技術資格・能力等のことを指し、人的資本への投資は、生産力や経済活動への貢献につながると定義されます。
たとえば、子育てや教育、保健衛生に対して投資を行い、結果として、経済的な成功や豊かな生活を享受することで社会的な成長が得られたとしましょう。この場合、投資の対象、つまり資本は「ヒト」であり、投資によって得られた対価が社会的な成長です。
これを企業に当てはめると、採用や研修、多様性の維持や労働安全といった「ヒト」にまつわる様々なエリアに投資を行い、売上や利益の向上、ブランデングや価値の創造を行って企業の成長という対価を得られると考えられます。
人的資本への投資は、健康状態の改善、個人の幸福感の向上、社会的結束の強化等、多くの非経済的利益をもたらす重要なものです。しかし最終的には経済的利益につながると広く定義されることもあります。
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「人的資本」と「人的資源」の違い
これまで、人事領域において、「ヒト」は「人的資源=Human Resource」という考え方が主流でした。「資源」は、あくまでコストとして消費されるものであり、可能な限り効率的に、できるだけ少なく回すのがよい、という考え方です。
一方、「人的資本=Human Capital」は、「ヒト」を磨くことで利益や価値を生む存在としてとらえています。そこで発生する費用はコストではなく投資として認識され、投資により「ヒト」を最大限活用できるという考え方です。
人的資本経営とは?
人的資本経営とは、人材を企業における重要な資本の一つとみなし、企業が成長し続けるための価値を創造する主体としてとらえる考え方です。
経済産業省では以下のように定義しています。
「人的資本経営とは、人材を『資本』としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」
出典:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~|経済産業省
「人材=資源」という従来の考え方の場合、すでにあるものを「使う・消費」するという方向性となり、人材をどう使うか、いかに管理するかという点に着目されがちです。また、「資源」に対しての教育や育成にかかる費用は、「コスト」とみなされます。
一方、「人材=資本」と考える場合では、人材の知識や能力、意欲を高めることが、組織力の向上に繋がる必要不可欠なものです。人材に対して積極的に企業が成長を促すことで、技術革新や付加価値が生まれると考えます。
そのため人的資本経営では、ビジョンや目標に合った人材戦略により、経営成果を最大化しながら継続的な企業成長を目指します。そのため、持続的な改善を行いながら、進化させていくことが重要です。
企業で人的資本の情報開示が重要とされる背景
人的資本の情報開示は下記2点の理由により重要視されています。
・企業価値における無形資産比率の向上
・ESG投資の重要性向上
人的資本の考え方は、「国」における教育や職業訓練といった要素を投資ととらえ、国内総生産、投資、消費、貯蓄および国民純資産といった集計値(経済的利益)へいかに繋げるのかというものです。
これを基本として「国」を「企業」に置き換えると、企業における人材戦略・人事施策への投資や成果、つまり人的資本の状況が、企業の持続的な成長や企業価値に影響を与えると考えられるでしょう。これは証券市場においても共通認識となりつつあります。
ここでは、上記2点の理由を裏付ける統計をそれぞれご紹介します。
1.企業の市場価値の構成要素が有形資産(モノ・カネ)から無形資産に移行
人的資本の情報開示要求は、証券市場を起点としており、投資家にとっての投資判断における各企業の人材戦略や人事施策の重要性が、年々増加しています。
これは、企業の市場価値の構成要素が有形資産(モノ・カネ)から無形資産に移行しつつあることが理由です。
特にグローバル企業においては、8割以上が無形資産・無形要素になるというレポートがあり、研究力、著作権、ブランド、それを生み出すアイデアや情報、つまり「ヒト=人的資本」の力が企業の価値や競争力につながっています。
参考:伊藤レポート2.0 持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会報告書
2. 投資家による重要性の認知
EGS投資の重要性
ESG投資の根幹は、企業経営のサステナビリティ=持続性を評価することですが、近年重要性が認知されていることも理由のひとつに挙げられます。
そもそもESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことです。
企業を長きにわたって支えている人材(人的資本)は「S(社会)」に関連すると位置づけられ、投資家は、財務状況と同様に人的資本の情報を確認し、企業への投資の判断材料としています。
開示されている短期的な人的資本状況が堅調であったとしても、人材育成がおろそかにだったり、人材戦略がビジネスモデルや経営戦略と一致していなかったりすれば、長期的にはリスク要因となる恐れがある、と認識されるでしょう。
結果として「S(社会)」に関するレーティングが高い企業は、株価のパフォーマンスが高いという傾向も発表されており、人的資本に関する項目は、ますます企業価値に直接的にリンクすると考えます。
情報開示に対するニーズの増加
投資家にとっての着目点のトップは「人的資本」とされており、開示に対するニーズも増加しています。人的資本に関して、投資家が優先的な開示を期待する事項と企業の開示状況と比較すると、まだまだ乖離が大きい状況です※。
※参考:内閣官房.非財務情報可視化研究会(第5回)配布資料.資料1「指針(たたき台)」
ですが、議論なされている人的資本開示の内容が、肝心の受け手である投資家や市場に取って価値あるものにできるかどうか、最終的には各企業の工夫に委ねられることになりそうです。
一方で、意欲のある企業にとってはチャンスといえます。
他の企業が通り一遍の義務的な対応をしているのであれば、市場のニーズに即した、意味のある開示内容を提供することで差別化や優位性を生み出し、企業価値やブランディングに繋げやすいともいえるでしょう。
人的資本の開示に注目しているのは投資家や市場だけではありません。
昨今では就職活動においても、企業のESGへの取り組みが求職者にとっての判断材料に含まれるようになりました。
就職活動を行っている学生にとって、自分が入社するかもしれない会社がどのような人事施策を取っているか、は非常に気になるポイントとなるはずです。ここで他社との差別化を行うことは優秀な従業員の獲得にも好影響を与えることになるのではないでしょうか。
企業における人的資本は、単なるリソースではなく、競争力を生み出す源泉となります。今後ますます、企業が持続的な成長を実現するためには、ヒトへの投資をいかに最大化するかが重要となります。次回の後編では、企業がこの人的資本をどのように経営に活かしていけるのか、実際に取り組むべきステップやアクションについて掘り下げていきます。
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WHI総研
大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、約1200法人グループのユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信。
伊藤 裕之(イトウ ヒロユキ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研シニアマネージャー
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