【後編】ジョブ型人事制度:政府促進の背景や企業の向き合い方
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前編目次
・政府が促進するジョブ型人事制度の導入とは
・ジョブ型人事制度を促進する背景で政府が目指すもの
・日本企業のジョブ型人事制度の特徴
後編目次
・ジョブ型人事制度の「採用・異動・配置」への影響
・ジョブ型人事制度と賃上げ・キャリア自律の関係
・日本企業のジョブ型人事制度導入への向き合い方
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ジョブ型人事制度の「採用・異動・配置」への影響
前編記事で、ジョブ型人事制度(タイプB)は諸外国に近い形と述べましたが、タイプAも含め、採用や異動、配置に対する考え方は日本企業独自の職務を限定しない新卒一括採用や企業主導の人事異動は残ります。
仮にジョブ型人事制度を掲げていても、諸外国のように、新卒採用と中途採用を区別せず、自分から手挙げをしない限り職務が変わらない、あるいは企業主導の異動が全くないという日系企業はほとんど見られません。
ジョブ型人事制度と賃上げ・キャリア自律の関係
ここまでは日本企業のジョブ型人事制度の特徴について整理してみました。
本章では、日本企業でジョブ型人事制度が浸透すると、日本全体の賃上げやキャリア自律が促進されるかについて考えてみます。
■ジョブ型人事制度だけでは賃金は上がらない
ジョブ型人事制度の浸透で変わるのは、賃金を決める際の基準です。
本質的に各企業がそれぞれの業績や財務状況に応じて賃金を決めていることに変わりはないため、ジョブ型人事制度の導入のみで賃金が上がるわけではありません。
賃金を上昇させるには、企業の売上や利益が増加し、人件費を増加させる余力が生まれる必要があります。
また、ジョブ型人事制度が普及しても、各企業が個別に人件費を設定している限り、同じ職務でも転職によって賃金が低下するリスクはあります。
ジョブ型人事制度(タイプA)の場合、職務記述書の粒度もバラバラであり、職務に求められる役割も企業によって異なります。
ポジションごとに職務記述書を作成するジョブ型人事制度(タイプB)にしたうえで、職務別のモデルとなる職務記述書や全国で基準となる職務ごとの賃金水準を定める取り組みが必要です。
ただし、スキルを身に付け転職することで、賃金が上がることは十分考えられます。
政府が三位一体の労働市場改革の中で唱える、労働移動の円滑化とリスキリングの施策を大規模に実施することで、賃金水準が底上げされる可能性はあります。
賃上げに結びつく労働力の流動化やリスキリングの促進も、ジョブ型人事制度の導入のみで実現するわけではありません。ジョブ型人事制度以外の施策も複合的に実施する必要があるでしょう。
■従業員の自律的なキャリア形成も別途施策が必要
ジョブ型人事制度にしただけでは、従業員が自律的なキャリアを歩むようになるとも限りません。
ジョブ型人事制度によって職務記述書が整備されますが、あくまで目指すゴールが明確になるというだけに過ぎません。別途、社内公募制の募集枠を拡大したり、従業員の育成施策を実施したりすることで、従業員の自主性を促進し、スキルアップを図る必要があります。
また、筆者が三位一体の労働市場改革分科会の中でジョブ型人事制度の事例として取り上げられている20社を調査したところ、公募制を採り入れている企業は計17社(85%)、1on1を採り入れている企業が計15社(75%)でした。
従業員に自律的なキャリアを歩んでもらうための取り組みとして、公募制という手挙げ式のしくみや1on1におけるキャリア相談などの実施が日本企業で進められていると推察されます。
まとめ:日本企業のジョブ型人事制度導入への向き合い方
ここまで記載してきたように、ジョブ型人事制度の導入のみで従業員のキャリア自律が進むわけではありません。ジョブ型人事制度の特徴を理解し、ジョブ型人事制度による自社へのメリットを考えて慎重な判断が必要です。
ジョブ型人事制度を導入するためには、職務記述書の整備や職務に基づく給与制度の設計といった多大な導入工数がかかります。また、導入後の運用においても職務記述書を必要に応じて見直し、更新する手間が発生します。
制度の導入に伴って、賃金の減少が発生する可能性もあるので、従業員へ大きな影響が出ることも考えられるでしょう。
これだけの手間と従業員への影響を考え、ジョブ型人事制度によって自社がどう変化するかをあらかじめ経営陣も含め議論しておく必要があります。
たとえば、ジョブ型人事制度の導入を契機に、職務記述書の役割を満たしていない人材は年齢に関係なく降格する、逆に役割を満たしていれば若手でも抜擢する、といったように、目的と運用方法を明確にすることが重要です。
単に職務記述書を作成するだけではなく、昇降格を厳格に運用するという本質的な課題に向き合わなければ、ジョブ型人事制度のメリットは活かせません。
キャリア自律についても同様です。自社の従業員がなぜ主体的にキャリアを築けていないのか、課題を明確にしたうえでジョブ型人事制度が有効かどうかを見極める必要があります。
自社の課題の解決に、ジョブ型人事制度が有用となるかを判断するうえで、本記事が参考になれば幸いです。
- 経営戦略・経営管理
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WHI総研
政府系金融機関にて財務分析や融資相談、調査会社にて市場調査・企業誘致調査を行い、様々な企業を見てきた経験を活かし、Works Human Intelligenceにて経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決する研究活動を行っている。
井上 翔平(イノウエ ショウヘイ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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