メンタル不調による休職者の復職判断材料
「心理面の振り返りは重要だ」
この認識は、メンタル不調を要因とした休復職支援において共通のものとなりつつ
あります。
「心理面の振り返り」とは、休職に至った経緯についての振り返り作業を行う過程で、
環境側の要因だけではなく、本人側の要因について客観的に捉える作業を指します。
この取り組みには様々な方法がありますが、
A.休職者が、①休職に至った経緯、②自分自身の課題、③課題への対処方法の
3点について、文章化、図式化などをまとめ資料を作成する
B.作成した資料に基づき、心理士が一対一の面談を行い、自分自身を振り返り、
客観的に捉えるようサポートする
という2つの工程を複数回繰り返すことで、表面的な自己理解に留まらず、より深い
自己理解の実現を目指していく、といった方法が挙げられます。
企業側も復職の判断材料として「心理面の振り返り」があると再発防止につながる
との認識が高まってきています。
これは、
・再休職の要因が100%環境要因であることは極めて少なく、多少なりとも本人側
の要因が存在すること
・復職時に環境要因を排除しても、再発、すなわち、再休職を防ぐことができな
いこと
などが認識されるようになってきたためです。
実際に、復職支援やリワーク等において認知行動療法をはじめとする様々な自己理解
の取組みがあったにも関わらず、本人側の要因に迫り切れないまま復職し、再休職に
至るケースも少なくありません。
そもそも、メンタル不調に陥ったということは、自分一人での課題解決が困難であっ
た結果であり、他者からのサポートも無く、自力で要因に気づき、課題を克服するこ
とは容易ではありません。
そこで、ただ本人に休職原因のレポートを書かせるのではなく、心理士との対話を通
じてその手がかりを徐々に深めていくことが「心理面の振り返り」の本質的な作業に
なります。
心理士が「心理面の振り返り」を行う際には、
①休職に至った経緯について
(時系列で具体的に記載されているか、その状況や環境に自分はどう関わったのか、
どう影響をされたのか)
②自分自身の課題について
(表面的・抽象的でないか、自己理解の気づきを取り上げているか、休職に至った
経緯とつながりについて記載しているか)
③課題への対処方法について
(具体的かつ実現可能か、効果的な対処方法か)
といったポイントを確認し、記述が不十分であれば、面談を通じてさらなる自己理解
を促す作業を行っていくことになります。
一連の作業はメンタル不調による休職者にとって、決して簡単な作業ではありません。
これらの作業途中で、精神的に不調になる方も少なくありません。その際に、心理士
が随時その心身の変化に留意しながら、本人のペースに合わせて作業を進めていくの
が重要であり、専門家の関わりなく実施することは危険ですらあります。
ただ、この体験そのものが、本人の自信にもつながり、復職に対する不安の軽減及び
就労意欲の向上につながるものと考えられます。その結果、「心理面の振り返り」は
復職の判断材料として活用できるだけではなく、体験そのものが再発予防につながっ
ているとも言えます。
もしメンタル不調を理由に休復職を繰り返している社員がいる場合には、一度「心理
面の振り返り」について検討してみてはいかがでしょうか。
(コラボレーター 張 磊)
- 安全衛生・メンタルヘルス
公認心理師/臨床心理士/キャリアコンサルタント
【専門領域】産業精神保健、復職支援、海外赴任者支援、在日中国人メンタルヘルス支援
東京大学心理教育相談室、日本家族カウンセリング協会での臨床経験を経て、東京大学学生相談所に勤務。2011年よりEAP事業会社にて、中国におけるメンタルヘルス事業の立上げ、運用体制の構築及びEAP業務全般に従事。現在は休職者の職場復帰を支援。
張 磊(チョウ ライ) コラボレータ―
対応エリア | 関東(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県) |
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所在地 | 渋谷区 |