第130回 フリーランス新法における取引条件の明示
2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が施行されました。
前回に引き続き、フリーランス新法についてみていきたいと思います。
<フリーランスと発注事業者の定義について>
前回のおさらいになってしまいますが、法律を理解するためには、言葉の定義が重要になるのでもう一度みてきます。
この法律では、フリーランスのことを「特定受託事業者」と呼びます。業務委託の相手方である事業者であって、次のどちらかに該当する場合です。
1.個人であって、従業員を使用しない者
2.法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない者
自身の経験や技術を生かして収入を得る個人だけでなく、1人社長といった形態の法人もフリーランスに該当することになります。
発注事業者については、「特定業務委託事業者」と「業務委託事業者」の2種類に分類することができます。
特定業務委託事業者の定義は、次のいずれかに該当する場合となります。
1.個人であって、従業員を使用する者
2.法人であって、2人以上の役員がいる、または従業員を使用する者
一方、「業務委託事業者」は、役員の人数や従業員数に関係なく、特定受託事業者に業務を委託する事業者のことをいいます。したがって、個人事業主や一人会社であったとしても、業務委託事業者に該当します。
<取引における義務と禁止行為について>
フリーランス新法では、履行すべき義務と禁止事項は、「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つのパートで構成されています。
それぞれ、業務委託事業者、特定業務委託事業者、特定業務委託事業者が一定期間以上の期間業務委託する場合で、履行すべき義務と禁止事項は変わってきます。
それぞれのケースにおける義務や禁止事項は次の項目になります。
業務委託事業者が業務を委託する場合
1.取引条件の明示義務
特定業務委託事業者が業務を委託する場合
1.取引条件の明示義務
2.期日における報酬支払義務
3.募集情報の的確表示義務
4.ハラスメント対策に係る体制整備義務
特定業務委託事業者が一定期間以上の期間行う業務を委託する場合
1.取引条件の明示義務
2.期日における報酬支払義務
3.発注事業者の禁止行為
4.募集情報の的確表示義務
5.育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
6.ハラスメント対策に係る体制整備義務
7.中途解除等の事前予告・理由開示義務
ここでいう一定期間とは、取引の適正化については1か月、就業環境の整備については6か月とされています。
<取引条件の明示義務>(取引の適正化)
フリーランスに対し業務委託をした場合は、直ちに、取引の条件を、書面または電磁的方法により明示しなければなりません。取引条件の明示義務は、フリーランス同士の取引も対象となります。
明示する方法は書面か電磁的方法のみが認められています。電話など口頭で伝えることは認められていないので注意しましょう。
どちらの方法とするかは、発注事業者が選択できます。電磁的方法とは、電子メール、SNSのメッセージ、チャットツールなどがあげられます。
取引条件の明示は、フリーランスに仕事を発注する場合はすべての場合で対象となります。発注するときは、必ず行うようにしましょう。
明示すべき事項は、次の8項目です。
1.業務委託事業者および特定受託事業者の名称
発注事業者とフリーランス、それぞれの名称を記載します。
名称は、ニックネームやビジネスネームでも構いませんが、商号、氏名もしくは名称または番号、記号等であって業務委託事業者および特定受託事業者を識別できるものを記載する必要があります。
2.業務委託をした日
発注事業者とフリーランスとの間で業務委託をすることを合意した日を記載します。
3.特定受託事業者の給付の内容
業務の内容を記載します。
給付の内容には、品目、品種、数量(回数)、規格、仕様などを明確に記載する必要があります。
また、フリーランスの知的財産権が発生する場合で、業務委託の目的である使用の範囲を超えて
知的財産権を譲渡・許諾させる際には、譲渡・許諾の範囲も明確に記載する必要があります。
4.給付を受領または役務の提供を受ける期日
いつまでに納品するのか、いつ作業をするのかを記載します。
5.給付を受領または役務の提供を受ける場所
どこに納品するのか、どこで作業をするのかを記載します。
6.給付の内容について検査する場合は、検査を完了する期日
検査を完了する日を記載します。
7.報酬の額および支払期日
具体的な報酬額を記載することが難しい場合は算定方法でも可能です。ただし、支払期日は具体的な支払日を特定する必要があります。
フリーランスの知的財産権の譲渡・許諾がある場合には、その対価を報酬に加える必要があります。フリーランスの業務に必要な諸経費を発注事業者が負担する場合、「報酬の額」は諸経費を含めた総額が把握できるように明示する必要があります。
8.現金以外の方法で報酬を支払う場合は、支払方法に関すること
手形の交付等によって、報酬を支払う場合は、手形の金額や満期について記載します。
今回は、フリーランス新法の取引条件の明示義務についてみてきました。フリーランスに業務を発注している事業者はすべての場合で対象となるので、項目の漏れがないようにして、必ず明示するようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問

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