第109回 賃金のデジタル通貨払い
厚生労働省は2022年9月13日に開催された労働政策審議会で、2023年4月より、電子マネーで給与を支払うデジタル通貨払いを解禁することを決めました。
現在の給与支払い方法は「現金」もしくは「口座振込」の2パターンですが、今後はデジタル通貨での支払いが加わることになります。
4月から解禁といってもデジタル通貨払いの送金先となる資金移動業者の指定申請の受付が始まるだけなので、実際にデジタル通貨で支払いが開始されるまではまだ数ヶ月の猶予があります。
デジタル通貨での賃金支払いを行うためには、労使協定の締結や就業規則の変更を行う必要があります。今回は、デジタル通貨払いを実施するために必要な労使協定や就業規則の内容を説明していきます。
<労使協定の締結について>
賃金のデジタル通貨払いを事業所に導入する場合は、労使協定の締結が必要になります。今回、紹介する労使協定のひな型は、すべての従業員を対象としていますが、対象となる従業員を例えば正社員だけに限定することも可能です。会社の実情に合わせて設定してください。
_ 資金移動業者口座への賃金の振込に関する協定書
株式会社○○○○と、その従業員の過半数を代表する者は、資金移動業者口座への賃金の振込について、次のとおり協定する。
(対象となる従業員の範囲)
第1条 本協定に基づく資金移動業者口座への賃金振込は、すべての従業員に適用する。
(従業員への説明および同意)
第2条 会社は、資金移動業者口座への賃金振込を希望する従業員に対して、次の事項を書面により説明する。
(1)資金移動業者口座の資金
(2)資金移動業者が破綻した場合の保証
(3)資金移動業者口座の資金が不正に出金等された場合の補償
(4)資金移動業者口座の資金を一定期間利用しない場合の債権
(5)資金移動業者口座の資金の換金性
(6)上記の他、説明が必要な事項
2 会社は、前項の説明を行った従業員について、説明内容を踏まえ、従業員が同意する場合に限り、第3条に定める資金移動業者口座に賃金を振り込むこととする。
(口座振込み等の対象となる賃金の範囲およびその金額)
第2条 資金移動業者口座への振込の対象となる賃金は、次のとおりとする。
(1)月例給与:対象とする
(2)賞与:対象外とする
(3)退職金:対象外とする
(取扱資金移動業者の範囲)
第3条 賃金の振込先となる資金移動業者は、内閣総理大臣の登録を受けた第二種資金移動業者のうち、厚生労働大臣の指定を受けた次の資金移動業者(指定資金移動業者)とする。
(1)株式会社○○○○(サービス名:○○○○)
(2)株式会社○○○○(サービス名:○○○○)
(有効期間)
第4条 本協定の有効期間は、令和○年○月○日より令和○年○月○日までとする。ただし、有効期間満了日の1ヶ月前までに、会社または従業員の過半数代表者のいずれからも申出がないときには、本協定は更に1年間有効期間を延長するものとし、以降も同様とする。
_ 令和○年○月○日
_ 株式会社○○○○
_ 代表取締役 ○○○○
_ 従業員代表 ○○○○
<就業規則の変更について>
賃金の支払方法は、就業規則の絶対的必要記載事項です。デジタル通貨払いを導入する場合に、就業規則の内容も変更する必要があります。変更が必要な項目は、賃金支払に関する条文です。サンプルを作成しましたので参考にしてください。
(賃金の支払方法)
第○条 賃金は、通貨で直接本人にその全額を支払う。ただし、従業員の同意を得たときは、その指定する金融機関等の口座への振込みにより賃金の支払いを行う。
2 第1項について、会社があらかじめ従業員の過半数代表者との間で書面による協定を締結し、かつ従業員が同意した場合は、厚生労働大臣の指定を受けた指定資金移動業者の口座への振込により賃金を支払う。
3 次に掲げるものは、賃金から控除する。
(1)源泉所得税
(2)住民税
(3)健康保険、介護保険、厚生年金保険の保険料の被保険者負担分
(4)雇用保険の保険料の被保険者負担分
(5)従業員の過半数代表者との書面による協定により控除することとしたもの
<不正取引や業者の破綻があった場合の対応>
デジタル通貨払い制度のスタートが近づくにつれて、不正取引があった場合はどうなるのか?といった質問を受けることが多くなりました。
不正取引がされた場合の補償については、従業員に過失がない場合は、全額補償されることになっています。反対に、従業員に過失がある場合には補償されないといったルールは設けられていません。このようなケースでは、個別に勘案をして対応するとされています。
損失発生日から一定の期間内に従業員から資金移動業者に通知することが資金移動業者による補償の要件となっている場合には、当該期間は少なくとも損失発生日から30日以上は確保することになっています。
また、指定資金移動業者が破綻した場合は、保証機関から弁済が行われます。
賃金のデジタル通貨払いを行うには、労使協定の締結や就業規則の変更、従業員の同意を得る必要があります。資金移動業者が厚生労働大臣に指定されるまでには数ヶ月程度の日数がかかるとされています。導入を検討している会社は、それまでに社内手続き等の準備を進めていったほうが良いでしょう。
また、デジタル通貨払いの導入後は、銀行口座への振込と、指定資金移動業者口座への入金をする必要があるため、今までより作業が煩雑になります。送金ミス等が発生しないように、事前の準備はしっかりと行いましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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所在地 | 港区 |