第103回 デジタル通貨での給与の支払い
厚生労働省は2022年9月13日に開催された労働政策審議会で、2023年4月より電子マネーで給与を支払うデジタル払いを解禁する方針を決めました。現在の給与支払い方法は、「現金」もしくは「口座振込」の2パターンですが、今後はデジタル給与払いが加わることになります。
デジタル給与払いを実現するためには、システムの安全性の確保等の課題をクリアする必要があるため、今後さまざまなルールが策定されていくと思います。
今回は、給与の支払いが労働基準法上どのようなルールになっているかを説明していきます。
<給与の支払いのルール>
現在の給与の支払い方法のルールについては、労働基準法第24条1項と2項で次のように定められています。
1.賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときにはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表するものとの書面による協定がある場合においては賃金の一部を控除して支払うことができる。
2.賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省で定める賃金についてはこの限りでない。
この条文の中には、5つの大きなルールがあります。このルールのことを、「賃金支払いの5原則」と呼びます。
1)通貨払いの原則
2)直接払いの原則
3)全額払いの原則
4)毎月1回以上払いの原則
5)一定期日払いの原則
<デジタル給与払いの課題>
電子マネー等で給与を支払うデジタル給与払いに影響があるのは、賃金支払いの5原則のうち「通貨払いの原則」になります。現行の法律や省令ではデジタル給与払いはできないので、今後法改正等が行われることになりそうです。
現在の「通貨払いの原則」はどのようなルールになっているか見ていきましょう。
通貨払いの原則「賃金は通貨で支払わなければならない。」
現在は、現金で給与を支払うよりも、銀行振込で支払っている会社が多くなりました。振込が当たり前と思っている方も多いと思いますが、労働基準法では、賃金は貨幣での支払いを原則としていて、振込は例外という扱いになっています。
銀行口座への振込で給与を支払うためには、社員の同意を得ることが必須です。同意を得て、はじめて社員が指定する銀行その他の金融機関の預金口座や貯金口座への振込ができます。
この同意は、社員の意思に基づくものであればその形式は問わないものとされています。口座振込を通貨払いの原則の例外として有効なものにするために、また正確な振込処理を実行するためにも、同意は口頭によるものではなく書面で行ったほうが良いでしょう。
実務上は、社員が銀行口座を記載した書面、あるいは通帳等のコピーを提出していれば、同意があったものとみなされると考えられます。
また、通達では、賃金は所定の賃金支払日の「午前10時頃まで」に払い出し、または払い戻しが可能になっていることを求めています。「給与の支払日に支払いを行えばよい」と思われている方がたまにいらっしゃるようですが、時間まで指定されているという点は注意が必要です。
今後は、給与の支払い方法は、現金、口座振込、デジタル払いの3種類の中から選択することになると考えられます。
「pay pay」や「nanaco」等の電子マネーの利用は一般的になりました。送金も簡単にできるため、今後はさらに利用者が増えていくことが予想されます。これは推測に過ぎませんが、法改正が行われ、マスコミ等で大きく取り上げられると、「電子マネーで受け取りたい」という声が従業員から上がる可能性は十分にあると思います。
デジタル給与払いが可能になるデジタル通貨の種類や、従業員の同意の方法などの取り扱い方法については、現時点ではまったく不明です。
担当者は、今後の情報を注視しておきましょう。
- 法改正対策・助成金
- 労務・賃金
- 福利厚生
- 人事考課・目標管理
経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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