第91回 兼業している65歳以上の方の雇用保険
副業や兼業を行っている方が増えてきています。副業や兼業を行っている理由は、「収入を増やしたい」、「1つの仕事だけでは生活できない」、「自分が活躍できる場を広げたい」、「さまざまな分野の人とつながりを持ちたい」、「現在の仕事で必要な能力を活用・向上させたい」などといった内容が多いようです。
また、副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による個人事業主と多種多様になってきています。今後も、さらに副業や兼業を行う方は増えていくでしょう。
このような状況の中で、雇用保険の適用に関して法改正が行われます。現在、雇用保険の適用要件は、1社における所定労働時間の長さによって加入するかどうかを判断することになっています。そのため、複数の会社で短時間労働を行うと、場合によっては雇用保険に加入できないといったケースが生じています。
そこで、令和4年1月1日から「65歳以上の方を対象」として雇用保険法の改正が行われることになりました。
<現在の雇用保険の適用要件について>
次の要件すべてを満たしている労働者は、全員雇用保険に加入する義務が生じます。ただし、昼間学生等は除きます。
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
2)31日以上継続して雇用することが見込まれること。
この適用要件については、雇用形態(正社員やアルバイト等)や年齢に関係なく適用されます。複数の会社で就労する場合は、それぞれの事業所ごとに適用要件を判断することになっています。言い換えれば、たとえば3か所でアルバイトしていて、それぞれ週16時間の雇用契約になっていたとすると、いずれの会社でも雇用保険に加入できないということになります。
<法改正内容について>
現行のルールでは、複数の会社で働いていたとしても労働時間の合算は行われません。そのため、複数の会社で短時間労働を行っている方だと、場合によっては雇用保険に加入できないといったケースが生じていました。このような方の雇用保険適用を促進するために、令和4年1月1日から法改正が行われます。
この複数の会社で勤務した場合の法改正後の適用要件は、以下のようになっています。
1)65歳以上である
2)労働者本人が加入の申出を行っている
3)2つの事業所の所定労働時間を合算して週20時間以上になる
今回の法改正は、「65歳以上の方」に限定されており、すべての労働者が対象になっているわけではないという点は注意が必要です。
以下のようなケースを例に考えてみたいと思います。
労働者の年齢:67歳
A事業所:週所定労働時間14時間
B事業所:週所定労働時間10時間
このケースでは、A事業所とB事業所の所定労働時間を合算すると、20時間以上となるため、労働者の申し出があれば雇用保険が適用されることになります。
仮に、A事業所を離職した場合は、所定労働時間が20時間を下回ってしまうため、雇用保険の被保険者ではなくなります。なお、給付については、A事業所で支払われていた賃金だけをもとに高年齢求職者給付が行われることになります。
今回の法改正は、あまり話題になっておらず、十分に周知されているとは言えません。
65歳以上のアルバイトを雇用している会社では、令和4年1月以降、本人から申し出があるかもしれませんので、法改正の内容を把握しておくようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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所在地 | 港区 |