第70回 時間単位の有給休暇付与
働き方改革関連法の施行もあり、働き方や休み方のルールを見直そうとしている会社が増えてきました。その中で、年次有給休暇の時間単位付与の導入を検討している会社も少なくありません。
今回は、年次有給休暇の「時間単位付与制度」についてみていきましょう。
<有給休暇の付与日数>
有給休暇は、勤務日数に応じて付与されます。週の所定労働日数が5日以上の場合、雇い入れられた日から6ヵ月勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば10日の有給休暇が付与されます。次に、そこから1年ごとに11日、12日と付与される日数が増えていきます。
これに対して、週4日以下の勤務や週の所定労働時間が30時間未満の雇用契約を締結している場合は、週の所定労働日数(週で所定労働日数を決めていない場合は年間の所定労働日数)に応じた有給休暇が付与されます。
【週5日以上または週30時間以上で雇用契約を締結している場合の有給休暇の付与日数】
勤続勤務日数 付与日数
6ヵ月 10日
1年6ヵ月 11日
2年6ヵ月 12日
3年6ヵ月 14日
4年6ヵ月 16日
5年6ヵ月 18日
6年6ヵ月以上 20日
【週4日以下で雇用契約を締結している場合の有給休暇の付与日数】
週労働日数 年間所定労働日数 6ヵ月 1年6ヵ月 2年6ヵ月 3年6ヵ月 4年6ヵ月 5年6ヵ月 6年6ヵ月~
4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日
<有給休暇の時間単位付与とは>
労使協定を締結した場合は、上記の表のうち年5日を限度として時間単位で年次有給休暇を付与することができます。
この労使協定でかならず定めなければならない事項は、次の4つです。
1)時間単位年休を取得できる対象労働者の範囲
2)時間単位年休を取得できる年間の上限日数
3)1日分の有給休暇となる時間単位年休の累計時間数
4)時間単位年休を1時間以外の単位とする場合にはその時間数
時間単位年休を実施するためには、かならず労使協定が必要となります。この労使協定を締結せずに、時間単位で有給付与すると労働基準法違反になります。
よく利用されている「半日単位」の有給休暇は時間単位年休ではありませんので、有給休暇を「1日」と「半日」だけで運用している会社の場合は、労使協定は不要です。
ときどき有給休暇を「1/4日単位」で付与している会社を見かけますが、労働基準法上の年次有給休暇は労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的とするものであり、1日単位が原則です。ただし、行政解釈で「労働者の請求で使用者が任意に与える限り半日単位でもよい」とされていることから、1/4日単位というのは成立しません。このような会社では、労使協定を締結し、時間単位年休に移行するようにしましょう。
時間単位年休に前年度からの繰越しがある場合でも、その繰越し分を含めて「年間5日以内」しか時間単位年休は取得できません。また、時間単位年休を利用できる従業員の範囲を定めることができますが、対象とする労働者の選定は恣意的なものではなく、事業の正常な運営との調整を図る観点から判断をして合理的でなければなりません。
<時間単位年休の賃金計算>
時間単位年休の場合でも、通常の有給休暇における給与の支払方法と同様の考え方で賃金を計算します。
有給休暇の賃金の算定方法は、次の3つのいずれかの方法だけです。
1)平均賃金
2)通常の賃金
3)標準報酬日額(健康保険法)
一般的には、2)の「通常の賃金」としている会社が多いようです。
通常の賃金で支払う場合は、月給者であれば1日の有給休暇と同様に時間単位年休を取得した時間を労働したとみなして給与を支払います。簡単に言うと、時間単位年休の時間の賃金をカットしないということです。
時給者の場合は、「時間単位年休取得時間数×時給」を支払うことになります。
有給休暇の時間単位付与は、年次有給休暇を1日使うほど時間がかからない用事等などに使用できるため、従業員にとっては導入するメリットは高いかもしれません。給与計算上はそれほど手間がかかるとは考えにくいですが、取得した時間数を管理していくのは煩雑になります。
たとえば、1日8時間が所定労働時間の会社であれば、最大1年間で40時間の時間単位年休を使用することができます。時間単位年休を使用した時間をしっかり記録しておかないと、年休の繰越しの計算時に混乱が生じるので注意が必要です。
また、働き方改革の一環で実施された「年次有給休暇の年間5日間の取得義務」をクリアするために、時間単位年休の導入を検討している会社もあるようです。しかし、時間単位年休の時間については、取得時間が累計で1日に換算される時間数に達したとしても、年間5日間の取得義務を計算する場合の1日には含まれませんのでご注意ください。
年次有給休暇の時間単位付与制度の導入を検討する際は、従業員のニーズと会社の管理体制の両面から、導入の可否を検討するようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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