第68回 60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
働き方改革関連法の一環で、中小企業の月間60時間を超える残業に対しての割増賃金率の猶予措置が廃止されることになりました。この猶予措置の廃止は、ここ数年話題にはなっていましたが、今回の法改正により2023年3月末日で廃止されることが正式に決まりました。
これまで適用を猶予されていた中小企業にとっては、割増賃金の計算方法が変わることになります。それよりも、月間60時間を超える残業が発生している会社では、人件費の増加が見込まれます。施行はまだ先ですが、今回は、月間の残業時間が60時間を超えた場合の考え方についてみていきたいと思います。
<月60時間を超える時間外労働の割増賃金率について>
時間外労働の割増賃金率は、2010年4月の労働基準法改正により、1か月の時間外労働が60時間を超えた場合の割増率を5割以上とすることに改正されました。しかし、成立当時の社会情勢を考慮して大企業だけの実施にとどめ、中小企業はそれまで通り、60時間以下の残業と同じ2割5分以上の割増率が適用されていました。
適用が猶予されていた中小企業の条件は、以下の通りです。
1)資本金の額または出資の総額が
小売業 5000万円以下
サービス業 5000万円以下
卸売業 1億円以下
上記以外 3億円以下
「または」
2)常時使用する労働者が
小売業 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業 100人以下
上記以外 300人以下
1)と2)は「または」なので、「資本金」と「常時使用する労働者数」のどちらか片方が上の基準に該当していれば、猶予される「中小企業」ということになります。
今回の法改正では、この猶予措置が、2023年4月1日より廃止されることになったわけです。
<割増賃金率について>
それでは、あらためて時間外労働等の割増賃金率を確認してみましょう。
労働基準法上定められている労働時間は、1日8時間、1週40時間です。この労働時間を超えた場合には事業主は割増賃金を支払う必要があります。
法律で定める割増賃金率は、次の通りです。
1)時間外労働・・・2割5分以上(1か月について60時間を超える場合は5割以上)
2)休日労働・・・・3割5分以上
3)法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上
4)時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上(1か月について60時間を超える場合は7割5分以上)
5)休日労働が深夜に及んだ場合・・・6割以上
( )書きで記した部分の猶予措置がなくなりますので、すべての企業が月間60時間を超える残業に対して、5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなります。
給与計算の方法は、1か月の起算日(例:末締めの場合は1日)から残業時間を積み上げていき、60時間を超えた時点で、それ以降の割増賃金率を5割以上で計算します。
この60時間には、所定休日に労働した時間は含めますが、法定休日(注)に労働した時間は含めないという点には注意が必要です。
(注)労働基準法で定められた休日のことをいい、「週1日」または「4週を通じて4日」の休日を指します。なお、就業規則で特段定めていなければ、必ずしも日曜日が法定休日になるわけではありません。
法律上の考え方でいくと、「深夜残業で、かつ月間60時間を超えている残業の場合」の割増率は、なんと「7割5分以上の率」で計算しなければならないことになります。ただでさえ、60時間を超えた場合の割増率の5割以上でも、中小企業にとっては厳しい率です。しかし、これらは法律で決まっている割増率なので、少なともこの率は厳守しなければなりません。
現実的には、月間60時間を超える残業をしていると、深夜時間帯に及ぶケースも多いようです。深夜残業をしている業務が、「7割5分以上」の割増率を支払うに値する業務なのかを確認した方が良さそうです。
最初にも述べましたが、猶予措置の廃止までは多少の時間があります。今から残業時間を削減する方法や、会社によっては早出残業の活用なども検討しておきましょう。
- 法改正対策・助成金
- 労務・賃金
- 福利厚生
- 人事考課・目標管理
経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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