第21回 管理職への残業代の支払い
給与計算業務において、重要な作業のひとつに割増賃金(残業代)の計算があります。残業代の計算は、ケースによって割増率が変わるので複雑になる場合があります。
しかし、残業代は従業員にとって実際の勤務実績に応じて支給される大切なものです。計算ミスを繰り返してしまうと会社への信頼が揺らぎ、労務トラブルに発展したり、退職してしまったりといった問題が発生することさえあります。
そのため、残業代の計算は正確に行なう必要があります。具体的な残業代の計算方法については、2014年6月のテクニカルコラムを参考にして頂ければと思います。
今回は、「管理職」の残業代の計算についてみていきたいと思います。
管理職の残業代をめぐるトラブルは、実務上しばしば発生します。管理職の給与は高額なことが多く、そのため残業代の未払いのトラブルになると、その請求金額も高額なものになります。
そのため、労働基準法上で認められる「管理監督者」なのか、あるいは社内では「管理職」と呼ばれていても管理監督者とは認められない立場なのかを線引きをする必要があります。
<労働基準法における管理監督者>
「課長以上は、管理職だから時間外手当はつかない。」~みなさんの会社ではこのような取扱いをしていませんか?
労働基準法第41条では、監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)について、労働時間、休憩および休日に関する規定の適用を除外することを認めています。
そのため、管理監督者については、割増賃金(残業代)と休日割増賃金(休日出勤手当)の支払いは不要です。
しかし、実務上よく問題になるのが「会社で管理職とされている」=「労働基準法上の管理監督者」になるとは限らない点です。
通達では、管理監督者とは、「経営と一体的な立場にある者の意であり、これに該当するかどうかは、名称にとらわれず、その職務と職責、勤務態様、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か等、実態に照らして判断すべき」とされています。
この通達を読むだけでは、どのような管理職が管理監督者に該当するのかイメージすることが難しいと思います。
具体的には、以下の1)~4)の項目に該当するかどうかがポイントになります。
1)経営方針の決定に参画している。
2)労務管理上の指揮権限を有している。
3)出退勤について厳格な規制を受けず自己の勤務時間について自由な裁量がある。
4)職務の重要性に見合う十分な役付手当等が支給されている。
実務上、課長以上を管理監督者として扱っている会社が多いようですが、例えば、始業・終業の時刻を管理され、遅刻・早退があれば給与から控除されていれば、まず間違いなく管理監督者とは認められません。また、社員の雇い入れや解雇などの人事管理に関する権限がなかったり、あってもパートタイマーの人事管理に対する権限しかない場合も難しいでしょう。さらに、賃金についても残業代より少ない役職手当の支払いで済まされていたり、管理職手前の一般職の残業代を含めた賃金より少ない場合も、管理監督者とは認められない可能性が高くなります。
<管理監督者であっても必要な深夜手当>
労働基準法上の管理監督者であったとしても、午後10時~翌午前5時までの深夜勤務については、労働基準法の適用を除外されません。
ときどき、「管理職だから深夜手当も関係ない。」と考えている会社を見かけますが、労働基準法の適用を除外されていない以上、管理監督者であっても深夜勤務に対する割増賃金の支払いが必要です。
ただし、管理監督者の深夜手当は、社員の場合とは計算方法が異なります。
通常、一般職の深夜残業の場合は、「時間外勤務の割増1.25+深夜勤務の割増0.25=1.5」の割増率で計算しますが、管理監督者は「残業」の概念がないので、計算式のうち「時間外勤務の割増」は不要です。つまり、深夜残業であったとしても、時間当たり賃金に「深夜勤務の割増0.25」だけを乗じれば良いことになります。
同様に、休日深夜勤務の場合であっても、一般職はあわせて「1.6」の割増率になりますが、管理監督者は「0.25」の割増率だけで良くなります。
このように、たとえ労働基準法上の管理監督者にあたる管理職であっても、深夜時間についてはしっかりと勤怠管理を行い、深夜手当を支払っていくことが重要です。
近年では、管理職を労働基準法上の管理監督者と認めるか否かについて、会社にとって比較的厳しい見方をする判例が多く見受けられます。管理監督者と認められない場合は、当然遡及して残業代の支払いを命じられることになります。
給与計算を自ら行なっている経営者はもちろん、担当者であっても特に人事関連も任されている方は、「○○さんは、管理職だから残業代は出ない。」と決めつけるのではなく、労働基準法で定められている管理監督者の要件にしっかりと該当しているかどうかを一度チェックした方が良いでしょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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