第8回 年末調整その1 年末調整の意味と対象者
今年も年末調整の時期が近付いてきました。年末調整は複雑で良く分らないという方も多いと思います。年末調整で誤りがあると、1年間の徴収すべき所得税の金額が正確に算出できません。所得税のみならず、この金額によって翌年の住民税等も計算されますので、こちらにも影響が出ることになります。
年末調整での計算ミスは、再度年末調整を行うことになったり、ケースによっては従業員に確定申告をしてもらうことになります。このような事態を招かないように、担当者は細心の注意を払い、正確な対応をすることが求められます。
今回・次回と年末調整について、2回に分けて説明をしていきたいと思います。
<年末調整とは?>
会社は、給与計算の際、「源泉徴収税額表」に基づいて、給与や賞与から所得税を源泉徴収しています。ところが、この「源泉徴収税額表」の税額は、1年間の年収を想定して算出した概算の税額であり正確な税額ではありません。つまり、給与や賞与で源泉徴収した税額の合計額と、本来納めるべき税額とは一致しません。
なぜ、毎月の税額の合計額と納めるべき税額が違うのでしょうか?一般的には次のようなことが挙げられます。
①源泉徴収税額表では、1年を通して毎月の給与の額に変動がないものと仮定して税額が
決まっているが、実際は年の途中で給与の額が変動する場合がある。
②年の途中で扶養親族などに異動があっても、その異動後の月の支払い分から修正する
だけで、遡って各月の源泉徴収税額を修正しないことになっている。
③配偶者特別控除や生命保険料控除、損害保険料控除などは、年末調整の際に控除する
ことになっている。
本来納付すべき所得税は1年間の給与総額により決まりますので、給与総額が確定する年末にその年に納めるべき税額を正しく計算します。それまでに徴収した税額との過不足は、差額を徴収するか、あるいは、還付することにより清算します。この清算の処理のことを『年末調整』といいます。
税金の申告と清算は税金を納める社員本人が行うべきですが、一人ひとりが確定申告を行うと国の処理も大変なものになるので、この作業を会社が代わりに行なうことになっているのです。
社員にしてみれば、会社が税金の計算や追徴・還付をしてくれるので手間が省けますが、会社にすると「社員の税金を間違わずに計算をして納付する」という責任と作業負担が生じます。
<年末調整の対象となる人>
次に、年末調整の対象となる人を見ていきましょう。年末調整は、原則として会社に『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を提出している人全員について行います。したがって、一般社員だけでなく役員やアルバイトに対しても行います。ただし、例外的に年末調整の対象とならない人もいます。年末調整の対象となる人とならない人は次の通りです。
<年末調整の対象となる人>
①1年を通じて勤務している人
②年の途中で就職し、年末まで勤務している人
③年の途中で退職した人のうち次の人
1)死亡により退職した人
2)著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期から見て本年中に再就職ができないと見込まれる人
3)12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職をした人
4)いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先などから給与の支払を受けると見込まれる場合を除く)
④年の途中で海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人
(非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人などをいいます。)
<年末調整の対象とならない人>
①年末調整の対象となる人のうち、本年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人
②年末調整の対象となる人のうち、災害により被害を受けて、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」の規定により、本年分の給与に対する源泉所得税の徴収猶予または還付を受けた人
③2か所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人や、年末調整を行うときまでに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(月額表または日額表の乙欄適用者)
④年の途中で退職した人で年末調整の対象となる人の③に該当しない人
⑤非居住者
⑥継続して同一の雇い主に雇用されない、いわゆる日雇労働者など(日額表の丙欄適用者)
このように年末調整は、原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した全員について行います。しかし、年末調整の対象とならない人は、一定の場合、自分で確定申告を行う必要があります。
今回は年末調整の意味と対象者について説明しました。次回は、年末調整で行う作業内容等を具体的に見ていきたいと思います。
すでに年末調整に最低限必要となる書類の「平成27年分給与所得者の扶養控除(異動)申告書」や「平成26年分給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」は国税庁のホームページで公開されています。
10月20日には自動車や自転車などの交通用具を利用する従業員への非課税限度枠の変更が官報公告されました。年末調整担当者は、早めに用紙の配布を行うとともに、法改正事項の確認を済ませておきたいものです。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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