スキルベース組織を動かすエンジン

以前投稿した『「スキルベース組織」とは結局何なのか? そして何ではないのか?』というHRレポート&コラムの中で、スキルベース組織の全体像やメリット・運用の難しさについて触れました。
今回は、その“スキルベース組織”を支える核心的な仕組みである「スキルタクソノミー」について、具体的な企業事例や導入の苦労・工夫について考察します。
スキルタクソノミーとは何か?
スキルタクソノミー(Skill Taxonomy)とは、企業の業務や職種に必要なスキルを体系化・分類した大きな“地図”のことです。
前回の記事でも触れたように、「スキルベース組織」では“より細かいメッシュのスキル管理”がカギ。
しかし、その前提となる「スキルの定義」が曖昧だったり、更新作業が形骸化したりすると機能しません。そこでカギとなるのが、このスキルタクソノミーです。
企業事例:海外ではどう運用されている?
スキルタクソノミーの活用は、特に欧米の大手企業で進んでいます。
Siemens(独シーメンス)
導入背景
デジタル技術の急速な進歩に伴い、従業員のスキルを継続的にアップデートする必要性が高まった。
取り組み
約800種類の職務ロール × 1,800以上のスキルを「My Skills」プラットフォームで管理し、AIと連動。
300名超の「スキル管理者」が日常的に更新し、従業員の自己評価と上長承認を経てデータを信頼性高く保持。
出所:https://www.pwc.com/gx/en/issues/upskilling/first-skills-report/report/WEF_CNES_Putting_Skills_First.pdf#:~:text=Siemens%20leverages%20My%20Skills%20and,organizational%20capabilities%20and%20sustainable%20employability
Unilever(英ユニリーバ)
導入背景
「学位や肩書ではなく、従業員が持つスキルを社内の共通通貨とする」という考え方を推進。
社内人材の柔軟な配置や潜在力の引き出しを目指す。
取り組み
600種のスキル項目を設定し、デジタルプラットフォーム(Degreed)と連携。
従業員は自己評価×上長承認でスキルレベルを1~5段階評価し、社内公募などでマッチング。
経営層が「スキル文化」を強力に発信し、スキルデータの活用(不足スキルのヒートマップなど)を根付かせている。
出所:https://www.pwc.com/gx/en/issues/upskilling/first-skills-report/report/WEF_CNES_Putting_Skills_First.pdf#:~:text=and%20recognized,of%20feedback%20for%20missed%20opportunities
HSBC(英HSBC銀行)
導入背景
22万人超の従業員を抱える世界的大手銀行。部門ごとのサイロを解消
し、機動的な人材活用が課題。
取り組み
「人材マーケットプレイス」にスキル情報を登録し、各プロジェクトや内部求人に自動マッチング。
従業員が伸ばしたいスキルや新たに習得したスキルを可視化→柔軟な異動や成長機会を提供。
グローバル規模の人材プールをスキルで管理し、ビジネス環境変化に即応。
出所:https://resources.gloat.com/resources/hsbc-customer-success-story/#:~:text=HSBC%20utilizes%2C%20cementing%20its%20integral,%E2%80%9D
導入にあたりありがちな部門からの抵抗と形骸化の危機
スキルマップ、スキルリスト、スキルタクソノミーと呼称は色々あれ、特に工場のオペレーターやIT人材、DX人材において導入が検討されるツールですが、そこにはドラマがあります。
ここでは、実際によく起こりがちな“抵抗”や“形骸化”について、弊職のいくつかの経験を混在させ、ストーリーで提示します。

とある企業での背景
会社概要
メーカー大手。最近、DX部門を新設し、スマート工場やオンライン販売の事業拡大を進めている。
導入のきっかけ
従来の「部署ごとの職務記述書+上司の経験値頼みのアサイン」では、急成長中のDXプロジェクトに必要な人材を探し出すのが難しくなってきた。
- デジタルマーケティングに精通した人材を社内から発掘できない
- エンジニアリング部門のスキル偏在が把握できず、プロジェクトが遅れがち
そこで、経営トップが「スキルタクソノミーを導入し、人をスキル単位で可視化して柔軟に配置しよう」と宣言。
人事部が旗振り役となり、全社的なスキルベース運用を始めようと試みた。
部門の抵抗:現場から出た“3つの声”
しかし、実際にスキルタクソノミーの設計に着手すると、各部門から強い抵抗が…
「そんな手間ヒマかけたくない」
上長やベテランが「ウチの業務は特殊だし、細かくスキルなんて定義できない」と批判。
Excelベースのスキルシート記入を依頼しても、期限までに返ってこない。
「現行制度で十分やれてる」
人事制度として古くからある“職能資格”や“コンピテンシーモデル”と何が違うの?と疑問視。
「うちの部署は異動が少ないし、個々のスキルは上司が全部把握してるよ」と言われる。
「そんなことより日常業務が優先」
現場は忙しく、スキルの自己評価や更新作業に割くリソースがない。
“形だけのスキル登録”になり、更新されず放置されるリスクが高い。
ありがちなのが汎用的・抽象的なスキル記述のため、部門からは「使えない!」といわれることですよね。
一時は形骸化の危機に…
こうした抵抗により、スタートして3か月ほどで「タクソノミーが形骸化」する兆候が出始める。
人事部が作成した「共通スキルリスト」は約300項目に及び、従業員からは「これ全部埋めるの?」「なんで似たようなスキルがこんなにあるの?」という戸惑いの声が続出。
(続きはダウンロード資料のリンクから読むことができます)
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経営コンサルティングと、クライアント企業メンバーのリスキリングを同時に推進する、伴走支援型のコンサルタントです。
デロイトトーマツコンサルティングにて、14年間のコンサルティング経験を経て、GrowNexusを設立。
多様な業界の大手企業・官公庁・自治体に対し、人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。
小出 翔(コイデ ショウ) 株式会社GrowNexus 代表取締役
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