「スキルベース組織」とは結局何なのか?そして何ではないのか?

スキルベース組織という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
国内企業が「ジョブ型!ジョブ型!」と躍起になり始めたところ、今度は欧米ではスキルベースの組織が話題になりはじめました。
欧米では、ユニリーバやIBMなどがスキルベース組織(の一部)を導入していることで有名です。
人事部門からすると「今ジョブ型検討しているんだよ勘弁してよ」という本音もあるかもしれません。
「日本の職能型人事制度とは違うの?」
「うちはスキル管理もやっているけど、スキルベース組織なの?」
など、いまいち手触り感のないこの概念ですが、本記事ではなるべくかみ砕き、結局このスキルベースなる組織、人事制度とは何であって、何でないのかを解説します。
より細かい「スキル」というメッシュで人と仕事をマネジメント
端的に言うと、仕事と人のそれぞれをスキルに分解して、スキルでマッチングしましょう、という仕組みです。
例えば、ユニリーバでは、部門の仕事が、プロジェクトやタスク 、成果物に細分化されつつあります 。
そして社員は、スキルを持った人材が、柔軟に各プロジェクトやタスクに異動・配置されるような仕組みを導入しています。
出所:Therese Raft,“Unilever is turning the work week towards skills building,” Financial Review April 27 2022
ん?それって、メンバーシップだろうがジョブだろうが今もやっているのでは?と思われるかもしれませんが、多くの企業(の人事や上司)は「頭の中」でやっています。
例えば、メンバーシップ型では、上司や人事が各人の能力や経験をなんとなく思いを巡らせ、様々な仕事や役割を当たえます(いわゆる適材適所)。
つまり、最初に人があり、その人に「できそうなこと」「成長のためにやらせたいこと」をやらせます。
その過程において、スキルという概念は実はあまり言語化されたり、表出されません。
仕組みやルール上、スキルを管理することは必須とされていないのです。(もちろん、別にスキルセットも管理している企業もあります)
また、ジョブ型は仕事が先にあり、その仕事を実施するために必要なスキルも定義されていますが、そこへのアサインは社員個々人の自律的な手上げであったり、人事や上司からの推薦だったりします。
社員の手上げも、人事や上司からの推薦も、実は厳密に社員本人が保有しているスキルを言語化することは必須ではありません。
(こちらも、もちろん別にスキルセットも管理している企業もあります)
スキルベース組織は、仕事と人をスキルという単位に分解し、それでマッチングをしていくルールです。
といっても仕事や人間が物理的にスキルに分解されて、ミニ人間が仕事をしだす、ということではもちろんありません。
例えば、人事業務の業務マニュアルの作成という仕事がある場合、その仕事に必要なスキルを「人事業務理解」「業務フロー作成」「ドキュメンテーション」の3つに分解します。
また、人側も人事部のAさん(人事オペレーション長い人)、企画部のBさん(業務改革経験あり)、Cさん(やる気のある若手!)のスキルをそれぞれ可視化します。
- Aさんは「人事業務理解」「給与計算」などのスキル。
- Bさんは「業務フロー作成」「ファシリテーション」などのスキル。
- Cさんは「ドキュメンテーション」などのスキル。

そうすると、人事業務マニュアル作成の仕事は、このAさん、Bさん、Cさんをアサインすれば対応できる、となります。
もちろん、3人アサインしますから、工数も分担してやっていくことになります。(ので、Too muchなアサインだな、ということではないです)
メンバーシップ型だと、何となく「Aさんやっとけ!」になりそうですし、ジョブ型だとやる気のあるCさんが手上げで担当して炎上しそうです。
このように、何となく人側、仕事側、ないしは両方のスキルがあいまいな状況でマネジメントしてきた仕組みを、「スキル」という共通言語でやっていこう、というのがスキルベース組織です。
スキルを評価し、処遇する仕組みである
スキルが共通言語化されると、これを基軸とした人材マネジメントに変わります。
いわゆる人材マネジメントの「採用」「配置」「育成」「評価」「処遇」「代謝(退職)」の観点で整理します。
人材マネジメントフロー
- 採用:求められるスキルセットに応じた採用。プロジェクト・タスクやスキルの適合性が重視され、柔軟なスキルマッチングが前提。
- 配置:社員のスキルセットを基にプロジェクトやタスクに柔軟に配置。変化するタスク・プロジェクトに応じて人材が流動的に配置される。
- 育成:社員が自身のキャリア目標やプロジェクト・タスクに応じて必要なスキルを自主的に強化できる仕組みを整備。リスキリングや学習機会が多い。
- 評価:プロジェクト・タスクごとの成果やスキルの成長を評価。スキルの習得度やプロジェクトでの貢献(成果)が評価される。
- 処遇:スキルレベルやプロジェクトへの貢献度に応じた報酬体系。スキルの成長や価値が報酬に反映され、自己成長が処遇にも直結。
- 代謝(退職):新しいスキル需要に応じてリスキリングが進むが、対応できない場合やスキルの需要がなくなると退職も選択肢に。スキルマッチングの結果、退職が促されることもある。
このマネジメントを行うと、人は会社に求められているスキルをどんどん習得し、できる仕事を増やしたい、そして評価・処遇されたいというインセンティブが働きます。
一方会社では、自社に不足しているスキルや、将来必要なスキルなども明確にできるため、「スキルミスマッチによる人材不足」を解消する方向に向かえます。
更には、タイムリーに人と仕事をマッチングし、より素早く配置を行えます。
環境変化と技術進展により変化する必要スキルに、アジャイルに適応していく人事制度が、スキルベース組織といえます。
メンバーシップ型やジョブ型の延長ではない
スキルという言葉だけを聞くと、何となく職能感(メンバーシップ感)漂う仕組みですが、人材マネジメントについても違いが生じます。
また、スキルベース組織を実践するためには、ジョブと人をスキルに分解し、常にそれをアップデートし続ける必要があります。
したがって、運用のイメージもいわゆる職能型・メンバーシップ型や、ジョブ型とは異なります(どっちかというとジョブ型のほうが近い)。
全社に一気にスキルベース導入はかなり困難
次世代的な、今風の人事制度にも思えるスキルベース組織ですが、運用はなかなか大変です。
この人材マネジメントの前提になるのは、スキルのみ管理すればよい、というわけではなく、仕事も、人も、タイムリーに管理する必要がある(というかそうしないとスキルを管理できない)、ということです。
欧米にてジョブ型の限界を感じられるようになった1つの要因が環境変化、技術革新であり、ジョブ型よりもっと素早く、流動的に人と仕事のマッチングをしたいというニーズからでした。
この俊敏さ(アジリティ)を担保するためには、常に人(の稼働状況やパフォーマンス)と仕事(のゴールやタスクの内容)を管理し、それぞれをスキルに分解しておく必要があります。
つまり、ジョブ(仕事)をすっ飛ばしてスキルベースで、とはいかないのです。
したがって、純粋にスキルベース組織を実践しようとすると、かなり運用・管理工数がかかります。
ゆえに、スキルベース組織を導入するにあたっては、人、仕事のそれぞれに紐づくスキルを管理するツールやシステム、そしてこれをマッチングするAIなどの技術を活用されることが通常です。
例えば、IBM は、スキル等の人材の属性に基づいて最適な営業チームを提案する AI ツールを開発し、チーム編成に応じた成功率を予測しています。
*出所:IBM,“Building a winning team using AI,” March 16 2018
導入すべき組織を特定する
ということで、このような運用負荷をもってでも導入すべき組織を特定するのが良し、ということになります。
どのような組織がよいか?それは先に述べたような、プロジェクトやタスクが流動的に発生するような組織です。
具体的には、下記のような組織は考えられます。
(続きはダウンロード資料のリンクから読むことができます)
- 経営戦略・経営管理
- 労務・賃金
- 人事考課・目標管理
- マネジメント
- 情報システム・IT関連
経営コンサルティングと、クライアント企業メンバーのリスキリングを同時に推進する、伴走支援型のコンサルタントです。
デロイトトーマツコンサルティングにて、14年間のコンサルティング経験を経て、GrowNexusを設立。
多様な業界の大手企業・官公庁・自治体に対し、人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。
小出 翔(コイデ ショウ) 株式会社GrowNexus 代表取締役
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