香港 vs. シンガポール:APAC拠点選定

シンガポールはIMD世界競争力ランキングで世界最も競争力のある経済にランクインしています。一方、香港は国際貿易およびビジネス法規制で世界トップの評価を受けています。
このため、アジア太平洋地域で拠点を設立しようとする国際企業の間では、この二つの都市が話題の中心になるのは当然のことです。
GoGlobalの法人マネジメント担当アソシエイトディレクター、マルコス・サルガドがよく寄せられる質問はもちろん、見落とされがちな疑問にもお答えします。
法人設立:迅速かつスムーズ ただし、ひとつ大きなハードルも
香港とシンガポールは、どちらも数営業日で設立可能な迅速な法人設立プロセスを提供しています。外国資本による完全所有も可能で、必要要件もほぼ同じです。
以下が、設立に必要な主な項目です。
- 香港
ローカルディレクター 不要
コーポレートセクレタリー 必要
登記住所 必要
- シンガポール
ローカルディレクター 必須
コーポレートセクレタリー 必要
登記住所 必要
両都市に共通する設立要件は多いものの、大きな違いは「現地ディレクター」の有無です。シンガポールでは、少なくとも1名の現地ディレクター(市民または永住者)の選任が義務付けられており、これが現地に拠点を持たない企業にとって障壁となる場合があります。ただし、多くのサービスプロバイダーがこの要件を満たす「現地ディレクターサービス」を提供しており、設立をスムーズに進める手助けをしています。
とはいえ、実際のボトルネックは設立手続きではなく「銀行口座の開設」です。シンガポールでも香港でも、法人口座の開設には数か月かかることも珍しくありません。厳格なKYC(顧客確認)、事業実体の証明、さらには対面での面談が求められることもあります。
スピーディーな立ち上げを計画している場合は、銀行手続きにかかる時間をスケジュールに織り込むことが重要です。マルコスは、事前のデューデリジェンスへの備えと、手続きに時間がかかる可能性を見越した準備を強く推奨しています。
グローバルなビジネス支援サービスを活用することで、こうしたプロセスを円滑に進めることが可能です。
「業種」よりも「市場アクセス」がカギ
「自社の業種がどこで伸びるか」ではなく、「顧客がどこにいるか」を軸に考えましょう。
マルコスによれば、以下のような場合には香港を検討する価値があります。
- 中国本土との間で調達または販売を行っている
- アジア域内での貿易ルートを構築している
- 中国南部の製造業エコシステムを活用したい
一方で、以下のようなニーズがある場合は、シンガポールの方が魅力的かもしれません。
- 東南アジア市場をターゲットにしている
- テクノロジー主導のビジネスを展開している
- 税制優遇のある知的財産(IP)構造やイノベーショングラントを活用したい
香港は貿易と物流に強みがあり、シンガポールはイノベーション、金融、地域外交に注力しています。
つまり、「どちらが優れているか」ではなく、どちらが自社の戦略に合っているかが重要です。最適な選択は、企業の具体的なニーズ・関心・目標によって異なります。
人材の移動:抜け道はなし、鍵は「戦略」
まず、よくある誤解を解消しましょう。香港とシンガポール間でビザの移行はできません。両都市はそれぞれ独立した入国管理制度を持っており、どちらの方向であっても一から手続きが必要です。
とはいえ、良いニュースもあります。どちらの国も基本的に国際人材の受け入れに前向きです。ただし、アプローチには違いがあります。
- シンガポール:透明性の高いポイント制を採用。予測可能で、デジタル申請にも対応しています。
- 香港:裁量ベースで運用されており、最低給与の規定はないものの、提出書類の充実度が重要です。
両国とも、世界中から優秀な人材を惹きつけたいと考えています。求められる書類や申請プロセスが異なるだけなのです。
香港 ≠ 中国本土(これは重要なポイントです)
マルコスによれば、この質問はいまだによく寄せられるとのこと。そこで、ここで明確にしておきましょう。
香港は中国の一部です。
香港法人は別途中国本土に法人を設立しなければ、中国本土で事業を行うことはできません。
主な違いは以下の通りです。
香港
法制度:コモン・ロー
現地人材の雇用:不可
直接事業運営:制限あり
中国本土
法制度:民法
現地人材の雇用:WFOE(外資独資企業)経由のみ可能
直接事業運営:現地法人の設立が必須
これらの要素を踏まえると、香港は「中国本土への玄関口」であり、「進出拠点」そのものではありません。中国との越境取引や中国市場向けの商取引には理想的ですが、たとえば深センで現地採用を行うといった「地に足のついた」事業展開には適していません。
起業家ビザ:すべての創業者へ
スタートアップ企業の立ち上げでも、本社の移転でも、香港とシンガポールは貴社を歓迎しています。
それぞれのビザ制度は以下の通りです。
- 香港:「投資による起業家ビザ(Investment as Entrepreneurs Visa)」
- シンガポール:「EntrePass」および「ONE Pass(Overseas Networks & Expertise Pass)」
各制度で重視されるポイント:
- 革新的なビジネスモデル
- 現地での雇用創出
- 資本力と事業継続の見通し
- 業界での専門性や独自の技術力
明確な構想と、裏付けとなる実績や数値があれば、いずれの都市も貴社と貴社のビジネスを受け入れる準備ができています。
法人税:香港にわずかな優位性
法人税制度に関しては、香港とシンガポールはいずれも魅力的な税制を備えていますが、香港の方がやや有利と言える場合もあります。
以下にその違いを整理してみましょう。
香港
法人税率:16.5%
配当課税:0%
キャピタルゲイン税:0%
オフショア収益の課税:非課税となる場合あり
シンガポール
法人税率:17%
配当課税:0%
キャピタルゲイン税:0%
オフショア収益の課税:課税対象
香港が特に優位なのは、オフショア収益に対する免税制度です。利益が香港外で発生していることを証明できれば、税金が一切かからない可能性があります。
ただし、この制度を利用するには相応の手続きと書類の準備が不可欠です。マルコスは「専門家のパートナーを起用することを強くおすすめします」と話しています。とはいえ、貿易業やグローバルなサービスモデルには、大きなメリットとなるでしょう。
人材プール:広くするか深くするか?
香港は約400万人の活発な労働力を誇り、金融、法律、保険分野の人材が豊富です。
しかし、単純な人口数だけがすべてではありません。シンガポールはテクノロジー、バイオテクノロジー、物流、AI、サイバーセキュリティなどの専門性がより深いことが特徴です。
マルコスは人材戦略について、以下のポイントを考慮することを勧めています。
- エンジニアやデータサイエンティスト、研究開発(R&D)の専門家が必要な場合は、シンガポールが適しています。
- 資本市場や貿易金融に依存するビジネスであれば、香港が優位です。
正解はひとつではない 大切なのは「自社に合った選択」
香港かシンガポールか?その問いだけでは答えは見えてきません。
マルコスによれば、本当に重視すべきは「自社の戦略に合っているかどうか」です。
以下のポイントを検討してください。
- 顧客はどこにいるのか
- どのようなチームを必要としているのか
- 税務の効率性は重要か
- 採用計画に合った入国管理制度かどうか
両地域ともにグローバル志向でビジネスに優しい環境かつ非常に国際的ですが、成功の鍵は設立だけでなく、その後の運用にあります。
そこで重要なのが、現地の専門知識です。規制の細かな違いや文化的背景、日々の課題を理解したアドバイザーが必要です。グローバルな視点を持ちつつ、現地に根ざした深い知見を持つパートナーこそが、リスクの所在を把握し、適切に回避する術を知っています。
したがって、APAC拠点の選択は「最適な場所」を探すことではなく、業界の適合性、人材へのアクセス、税制の効率性、信頼できる現地パートナーなど、様々な要素の中で最も自社に合った場所を見つけることが重要です。
どの地域もすべての条件を満たすわけではありません。自社の目標を支え、強みを活かし、スピーディに動ける選択こそが正解です。ただし手抜きは禁物です。
本コラムで提供する内容は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、法的助言と見なすべきものではありません。今後規制が変更されることがあり、情報が古くなる可能性があります。GoGlobalおよびその関連会社は、本コラムに含まれる情報に基づいて取った行動または取らなかった行動に対する責任は負いかねます。
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