第1回 組織サーベイの形骸化 “年に一度の儀式”からの脱却
多くの企業で導入されている「組織サーベイ」。従業員の声を可視化し、組織の課題を明らかにするための有効な手段として活用されています。しかし、実際には「時間とコストをかけたのに、現場は何も変わらなかった」と感じたことはありませんか?
本シリーズでは、「サーベイ疲れ」「平均点の罠」、そして日本企業特有の構造的な課題に焦点を当てながら、組織サーベイが形骸化してしまう本当の理由を紐解いていきます。人事やマネジメントに関わる皆さんが「あるある」と感じる悩みに寄り添いながら、実践的なヒントをお届けします。
スコアは出たが、何も変わらない「サーベイ疲れ」の現場
「エンゲージメントスコアは昨年並みで、大きな問題はありませんでした」——そんな報告を経営陣にしたあと、現場からは「またアンケート?」「どうせ何も変わらないし」といった冷めた声が聞こえてくる。このような経験をしたことがある人事担当者は決して少なくないはずです。
これは単なるマンネリではなく、従業員の期待と諦めが積み重なった“サーベイ疲れ”のサインであり、放置すれば、信頼関係がじわじわと損なわれていく恐れがあります。
せっかく集めたデータが、なぜ具体的なアクションにつながらないのか? なぜ年に一度の“儀式”で終わってしまうのか? まずはこの構造的な問題を見つめ直すことが、改善の第一歩です。第1回では、その根本原因を明らかにし、形骸化から脱却するためのヒントをお届けします。
組織サーベイが陥りがちな5つの「落とし穴」―あなたの会社は大丈夫?
エンゲージメントサーベイをはじめとする、組織サーベイがうまく機能しない背景には、多くの企業に共通する「落とし穴」があります。以下の5つの「落とし穴」、あなたの組織ではどうでしょうか。
・目的の曖昧さ
・フィードバックの欠如
・現場の実態に合わない設問設計
・匿名性への不信感
・単発で終わる取り組み
これらは一見個別の課題に見えますが、実は相互に深く関連し、従業員の不信感を強める悪循環を生みだしています。
この負の連鎖は、まず明確な目的が従業員に伝わらないことから始まります。目的が伝わらなければ、従業員は「どうせ無駄だろう」と感じてしまい、本音を隠した無難な回答を選びがちになります。
その結果、組織の本当の姿をとらえたデータを得ることができず、人事部門は本質的な課題を特定できなくなります。有効なデータが得られなければ、当然ながら的確な改善アクションには繋がりません。
そして、何も変わらない現実を目の当たりにした従業員は、「やはりサーベイは意味がない」と確信し、次回のサーベイではさらに強い無関心や不信感を抱くことになります。このサイクルが繰り返されることで、サーベイは組織改善のツールではなく、組織内の信頼を損なう存在になってしまうのです。
「平均点」という罠―全体スコアに隠された課題に気づけていますか?
「全社エンゲージメント平均スコアは68点。昨年比で2ポイント上昇しました」——この報告に、つい安心してしまうことはありませんか?
実は、この「平均点」こそが、組織の深層にある問題を見えなくしてしまう要因になることがあります。
なぜなら、危機的な低スコアよりも、一見問題のない「まずまずのスコア」のほうが、経営層や人事部に偽りの安心感を与え、行動を鈍らせてしまうからです。
たとえば、会社全体の平均スコアがまずまずでも、その内訳を詳しく分析すると、特定の部署や層で危機的な状況が隠されているケースは珍しくありません。高いエンゲージメントを誇るベテラン層のスコアが、キャリア形成に強い不安を抱える若手層の低いスコアを覆い隠しているかもしれません。あるいは、好調な営業部門のスコアが、疲弊した開発部門の悲鳴をかき消している可能性もあります。
部署や年代、役職などでデータを分解し、クロス集計を行うことで初めて、”本当に困っている現場”がみえてきます。全体の平均点に惑わされず、最も助けを必要としている従業員やチームを見過ごさないこと。それがデータ分析の第一歩です。
日本企業特有のジレンマー「働きやすさ」の向上と「働きがい」の停滞
スコアを押し上げている主な要因は、「多様な働き方(リモートワークなど)の導入」や「休日・労働時間の適正化」といった『働きやすさ』に関連する項目です。一方で、「責任ややりがいのある仕事」や「魅力的な人材の存在」といった、従業員の内発的動機付けに繋がる『働きがい』に関する項目の満足度は、停滞、あるいはむしろ低下傾向にあります。
このギャップこそが、サーベイ後の施策の多くが表層的な改善に終始し、本質的な組織変革に至らない根本原因を示唆しています。
「働きやすさ」に関する課題は、制度改定や福利厚生の充実といった、人事が主導するトップダウンの施策で比較的対応しやすいものです。しかし「働きがい」は、個々の仕事の意味付けや上司との関係性、挑戦を後押しする文化といった、より複雑で定性的な要素に根差しています。
一般的なサーベイの設問は測定しやすい「働きやすさ」の項目に偏りがちで、その結果として導き出されるアクションプランも、必然的に制度面の改善に集中してしまいます。こうしてサーベイ自体が組織の関心を「働きがい」から遠ざけ、より重要でありながら難しい課題を見過ごさせるという、意図せざる結果を招いている可能性があるのです。
まとめ
エンゲージメントサーベイをはじめとした組織サーベイの形骸化は、ツールそのものの問題ではありません。組織の「使い方」と「向き合い方」に原因があります。
平均点に一喜一憂し、制度改定といった表層的な課題解決に終始する「儀式」から脱却しなければ、従業員の信頼を取り戻すことはできません。サーベイは組織の健全性を測るための単なる数字ではなく、従業員の生の声に耳を傾け、対話のきっかけを生み出す「組織の聴診器」として機能させる必要があります。
そのためには、まずデータに隠された組織の”真実”を正しく読み解く力が必要です。
次回は、サーベイ結果というデータの鉱山から本質的な課題を掘り当てるための「インサイト(洞察)」の技術について、具体的な分析手法を交えながら深く掘り下げていきます。
執筆者略歴
斉藤 雅良
株式会社電通総研
HCM本部 HCM戦略コンサルティング部
株式会社電通総研入社以来、主に金融機関様向けの業務・人事・組織構造改革や、そのシステム 開発プロジェクトに多数従事。 近年は、業界問わず人事領域全般におけるコンサルティングプロジェクトに複数参画し、2023年5月より ローンチされたトータルHRソリューション「HUMAnalytics」と、人事基幹システム「POSITIVE」の周辺 サービスに関する企画・推進の統括責任者として、より多くの企業の人的資本経営実現をサポートしている。
※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。
※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。
このコラムを書いたプロフェッショナル
電通総研 人事コンサルタント
株式会社電通総研 HCM本部
ヒトが持つ可能性を信じ、
ヒトの成長を組織の成長へとつなげ、
共に成長し続ける環境を作り、
共に社会に変革を起こしていきたい。
私たちはこれからも人とテクノロジーの力で
未来を切り拓き、新しい価値を創出し続けていきます。
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| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、法改正対策・助成金、マネジメント、チームビルディング、情報システム・IT関連 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
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