無自覚なハラスメントはなぜ起きる?予防と対応を解説【前編】
職場でのハラスメントの相談数が年々増えていることをご存じですか。(※1)
ハラスメントの中には、行為者が気づいていない、無自覚なハラスメントも存在します。
無自覚なハラスメントが起きてしまう背景には個人だけではなく、組織も大きな要因となっているかもしれません。複雑な要因が混じりあって発生する無自覚なハラスメントに対し、本人にどう気づいてもらい、変化を促せば良いでしょうか。また予防や対応などはどのように進められるでしょうか。
- 一般的なハラスメントが起きる様々な要因とは?
- ハラスメントが無自覚におこなわれる理由とは?
- 無自覚なハラスメントにどう予防&対応すると良いか?
本シリーズでは上記の点について、3回に分けて解説いたします。
ハラスメントの現状とは
職場のハラスメント相談数は年々増加
全国の都道府県労働局等の総合労働相談コーナーにおける相談数は年々増加しています。令和元年にはいじめ・嫌がらせに関する相談が87,570件寄せられました。(※1)
いじめ・嫌がらせの相談数増加を受けて2020年6月から改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が施行され、その対策を打つことが企業に対して義務付けられました。ハラスメントは他人事ではなく、身の回りで起こりうるものであり、組織において手を打つべき課題になりました。
ハラスメントという概念は広がりを見せ、さらに相談件数も増加傾向にあることから、無意識のうちにハラスメントを行っている可能性も考えられます。 無意識なハラスメントに対しても適切に対応しながら状況改善を目指しましょう。
無自覚なハラスメントの背景には定義の難しさが関係している
そもそもハラスメントとはどのように定義づけられているものでしょうか。
厚生労働省は「職場のパワーハラスメント」として以下のように定義づけています。
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
1優越的な関係を背景とした言動であって、
2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3労働者の就業環境が害されるものであり、
1から3までの3つの要素を全て満たすものをいいます。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。(※2)
定義づけされたことでパワハラに該当する要素が周知されやすくなった一方、そもそも定義を知らなかったり、ハラスメントとして該当しうる行為を具体的に知らないと無自覚なハラスメントの発生するリスクが高まると考えられるでしょう。
一般的なハラスメントは要因が複雑に絡まり合う
ハラスメント発生の要因は、主に個人的要因と組織的要因の2つに分けられます。
組織と個人は互いに影響し合っているため、要因が重なって発生することが多いと考えられています。
ここではそれぞれの要因を具体的に説明していきます。
組織的要因
組織の文化や環境などの組織的要因がハラスメントの発生率を高める大きな要因になる場合もあります。以下ではハラスメントが起きやすい職場の特徴から、どのような発生要因が潜んでいるかを見ていきます。
厚生労働省が職場のパワーハラスメントに関する実態調査を実施しました。(※3)その結果、パワハラが起きやすい職場の特徴は以下の通りです。
最も多い回答は「上司と部下とのコミュニケーションが少ない職場」で45.8%でした。
次に「失敗が許されない/失敗への許容範囲が低い(22%)」「残業が多い/休みが取りにくい(21%)」という結果が示されています。
上記の調査結果から、ハラスメントの組織的要因は「社員同士のコミュニケーション量」「組織の文化や価値観」「労働条件や環境」の大きく3つに分けることができます。以下でそれぞれを詳しくみていきます。
社員同士のコミュニケーション量
職場でのコミュニケーションが不足すると、お互いの業務内容や進捗状況の理解が進まず、認識の齟齬が起きる可能性があります。他の社員の業務状況やストレス状況の把握がおろそかになると、相手にとって無茶だと感じるようなことをお願いしたり、配慮の欠けた言動をとってしまう場合があります。
一方、社員同士のコミュニケーションが十分に取れている職場であれば、お互いの業務状況を把握しあえるため、仕事の分担や困っている人のサポートが効果的におこなわれます。
情報共有や業務の進行が円滑になると、生産性の向上や従業員自身の満足度向上にもつながるといえます。
組織の文化や価値観
「失敗が許されない職場」がパワハラが起きやすい職場の共通点として挙げられるように、組織の文化や価値観もパワハラに大きく影響します。例えば、ミスに対しその責任者を降格・異動させる文化がある場合、ちょっとした失敗が大きな恐怖になり、部下の失敗を猛烈に責めてしまう…ということも考えられます。
会社において成果を追っていくことも大切ですが、心理的安全性(組織の中で安心して自分の考えなどを発言できる状態)が失われると生産効率が落ちる可能性もあります。成果や数字のみではなく、社員同士の関わり方やコミュニケーション量にも目を向けることが重要です。
労働条件や環境
長時間労働が当たり前だったり、休みが取りにくい職場だと、社員の心身疲弊にもつながります。社員の疲労が蓄積すると、お互いをサポートしたり、思いやる余裕がなくなります。
労働条件の悪化によって、社員同士のコミュニケーションが減ってしまったり、協力し合う組織文化が薄れてしまう可能性も考えられます。
従業員が互いへの気配りや配慮を持つ職場環境にするために、労働条件や環境の見直しも行っていきましょう。
個人的要因
個人の考え方、振る舞い、価値観
パワハラに関連する要因として個人の考え方や価値観、振る舞い方も挙げられます。
個人の振る舞いが職場に現れるケースとしては以下のようなものが挙げられます。
- スムーズに物事が進まない時、イライラして感情のままに行動してしまう
- 会議の時に相手の意見に納得しない時に言葉遣いが荒くなりがち
- 周囲に配慮することを忘れ、周りの人がいる場所で大声で部下を叱る
- 部下の指導に熱心になりすぎた結果、責任が大きすぎる仕事など過大な要求をする
- 部下のことを思って、説明のないまま業務変更を行う
このような振る舞いは「優越的な関係を背景とした言動」や「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、「労働者の就業環境が害されるもの」と見なされることがあり、パワハラに該当する可能性があります。
また、以下のような価値観の違いがハラスメントの要因になることもあります。
- 仕事に取り組む姿勢への価値観
例:成果や数値への過度なこだわりを強要する など - 職場の人間関係における考え方
例:「後輩は先輩からの飲み会の誘いを断ってはいけない」 など - 指導方法の価値観
例:「我慢は美徳」という新人教育の方針から厳しいノルマや仕事量を経験させる など
このように、生活環境の違いや世代間ギャップが「指導のつもりだったけれどハラスメントと受け取られていた」という無自覚なハラスメントにつながる場合があります。
ストレス状態
人の考えや行動は、身体的、精神的ストレス状態によって大きく変化するものです。
過度なストレスを継続的に持ち続けると、自律神経のバランスが崩れ、身体だけではなく、心にも様々な不調をもたらします。具体的にはストレスが原因となって、めまいや頭痛、消化器官の不調といった身体的な症状から、不安や焦り、憂鬱感などの精神的な症状が現れる場合があります。
高いストレス状態で働く社員は自分の余裕がなくなり、周りへの配慮が欠けた振る舞いをしてしまう可能性も考えられます。普段穏やかな人であっても、重大な任務を遂行していたり、何かしらの大きなストレスを抱えている場合は少し攻撃的になったり、冷たい態度をとってしまうことがあるかもしれません。
これらへの対処の一つとして、本人が自分自身で実践できる認知行動療法などのセルフケアを活用しながら状態の改善に向かうことも可能です。
このように、ハラスメントが起きてしまう理由や背景は一人一人の個人の価値観、振る舞い方、職場環境や社員同士の関わり方などが大きく関わっています。ハラスメントはこれほど複数の要因が重なっているものであると知ると、無自覚なハラスメントが起こる危険性がどのような場所にも潜んでいるとわかります。
では、ハラスメントが無自覚におこなわれる理由には、どのようなものが挙げられるのでしょうか?
(【中編】に続きます https://jinjibu.jp/spcl/SP0010085/cl/detl/5242/ )
参考資料
※1 厚生労働省「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
※2 明るい職場応援団 「ハラスメント基本情報 ハラスメントの定義」
※3 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社「平成28年度職場のパワーハラスメントに関する 実態調査報告書」
※本コラムは、ピースマインドの人事・労務向けコラム『はたらくをよくするお役立ち情報』に掲載している記事を転載したものです。
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後藤 麻友(ゴトウ マユ) ピースマインド株式会社 社員支援コンサルティング部 部長、EAPスーパーバイザー
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