次世代を育成する「サクセッションプラン」の導入手順とポイント
こんにちは。株式会社SmartHRでプロダクトマーケティングマネージャーを務めている埜村(のむら)と申します。
多くの企業に「人材マネジメント」の概念を理解し実践いただきたいという想いから、『初心者がゼロから始める”人材マネジメント”』という連載をスタートしています。
今回は人材マネジメントの中でも注目度の高い人材育成、その中でも特に重要視されているサクセッションプランについて考えてみたいと思います。
サクセッションプランとは
サクセッションプラン(Succession Plan)とは「後継者を確保・育成するための計画」です。
従来はCEOの後継者を選定・育成することが中心でしたが、現在ではCEOだけではなく、幹部や管理職といった企業にとって必要不可欠なポジション(キーポスト)の後任となるリーダーを確保・育成することを指します。
サクセッションプランの主な目的は、BCP(事業継続計画)と言われており、キーポストが空いてしまった際にも、スムーズに次の適任者を任命しビジネスを継続できるようにすることが狙いです。
ちなみに、経済産業省「CGSガイドラインのフォローアップについて(2018年)」によると「社長・CEOの後継者の計画(サクセッションプラン)の有無」については
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後継者の計画(サクセッションプラン)が存在しない 48%
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わからない 29%
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後継者の計画(サクセッションプラン)が何らかの文書として存在している 11%
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その他 11%
(有効回答数925社)
となっており、多くの企業でサクセッションプランが準備されていないことがわかります。
※出典:「CGSガイドラインのフォローアップについて(2018年)」 https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/cgs_kenkyukai/pdf/2_003_03_00.pdf
サクセッションプランのメリットは人材流出の防止、人材の全社最適化などさまざま
では、多くの企業で取り組めていないサクセッションプランはなぜ必要で、どのようなメリットがあるのでしょうか?
サクセッションプランは通常の人材育成とは異なり、「経営層」となるような人材を育成することや、そのプログラムが「長期的」になるという特徴があります。
そのため、前述のBCPの観点以外にも以下のようなメリットがあります。
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有望な人材を早期に発掘できる
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各候補者に個別の育成計画を行うことで育成効果が高まる
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部門横断で経験を詰んだゼネラリストが経営人材として育つ
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長期的な育成計画によって人材の流出を防げる
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外部からキーポストを採用するよりもリスクが低い(いわゆるパラシュート人事)
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上長が優秀なメンバーを自部署に囲い込むことを防ぎ、全体最適の人材配置が行われやすい
会社の核となるキーポストを担う人材が継続的に輩出されることはもちろんですが、人材の流出を防いだり、全社最適の人事を行うことができるという側面もあります。
サクセッションプランの導入手順
サクセッションプランは次の手順で導入をすることがおすすめです。
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経営理念・経営戦略の明確化
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戦略実行に重要なキーポストの特定
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キーポストに求められる要件の明確化
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候補者の選抜
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候補者の育成計画の立案
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育成計画の実行とモニタリング
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候補者の登用検討
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適切な配置
経営人材を育成することが目的のサクセッションプランにおいては、「経営理念・経営戦略」に共感した人材を抜擢することが重要です。そのため「経営理念・経営戦略の明確化」ができていない企業はここから始めることになります。
また、上記のサクセッションプランの手順の中で重要になるのは、「キーポストの特定」と「キーポストに求められる要件の明確化」です。
導入手順の中でも少し難易度の高い「キーポストに求められる要件の明確化」「候補者の選抜」「候補者の育成計画と立案」の他社事例やポイントについて解説していきます。
キーポストに求められる要件の明確化
キーポストに求められる要件については、Harvard Business Reviewに掲載されていたP&Gの「経営幹部に求める10の要件」をご紹介します。
■P&Gが経営幹部に求める10の要件
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人柄、理念、誠実さを備える
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証明済みの実績(事業、財務、組織面での成果)がある
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人材の能力と可能性を伸ばすことができる
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強い熱意と忍耐力を備える
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リーダーとしての先見性と戦略眼に秀でている
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勇気と思いやりにあふれ、人々を鼓舞する
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事業パートナーなど社外のステークホルダーや同僚と、実り多い関係を築く
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変化を受け入れ、みずから変革の先頭に立つ
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対立や批判を冷静に受け止め、打たれ強さを発揮する
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制度や規則を設ける。大義や会社の長期的な健全性を優先させる
P&Gの要件に関しては、実績に関するものは2番のみで、人間性やスタンスに関する記載がほとんどです。
経営幹部として会社を率いるためには、成果や業務の専門性だけではなく、人間性やスタンスの要件も重要、という点に注意して自社の要件を固めていけると良いでしょう。
候補者の選抜
「候補者の選抜」ではGEの「9-Blocks」と言われるマトリクスが有名です。
GEの「9-Blocks」は「業績」と「Growth Value」の2軸で人物の評価を行い、「業績」と「Growth Value」どちらかだけが高評価では候補者になはれず、業績とGEとして求められているGrowth Valuesの両方が高評価な人材から候補者を選抜します。
■GEのGrowth Values
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外部志向
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明確でわかりやすい思考
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想像
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包容力
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専門性
前述の通りサクセッションプランにおいては、「経営理念・経営戦略」に共感した人材を抜擢することが重要です。そのため、GEの「9-Blocks」の考え方を参考にしている企業は多く、無印良品やサイバーエージェントなどが採用していると言われています。
ちなみにGE自体は2016年に「9-Blocks」を廃止し、「PD(パフォーマンス・デベロップメント)」という人事評価制度を採用しています。
時代の変化とともに、人との比較にならず日常的にいい仕事を評価でき、社員の能力とモチベーションを引き出すパフォーマンスマネジメントを実現するために率先して制度を変更しています。
候補者の育成計画の立案
では、次に育成計画の立案のポイントを見ていきましょう。
育成計画には内容だけではなく、どのタイミングで、どのような育成施策を行うのかまで記載されます。育成施策はキーポストに応じて変化しますが、今回は経営幹部候補で用いられるいくつかの施策を紹介します。
育成施策の一つとして研修があります。経営幹部候補育成研修で求められているテーマについて日本の人事部 人事白書2015ではこのような調査結果があります。
■幹部育成で注力するテーマ
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部下育成 34.8%
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リーダーシップ 32.6%
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経営者としての心構え・志 31.3%
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目標達成力 30.3%
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経営リテラシー 22.0%
※出典:「日本の人事部 人事白書2015」https://jinjibu.jp/research/2015/
また、研修以外にも業務経験を軸にした育成施策として「ジョブローテーション」や「ストレッチアサインメント(高負荷配置)」、「パーソナルコーチング」などもあります。
幹部や管理職で行われるストレッチアサインメントの例としては、「部門横断のプロジェクト」や「新規事業開発・新市場開拓などのゼロからの立ち上げ」、「管理職業務の代行」、「顧客からのハードな要求への対処」などが挙げられます。
なお、どの施策であってもサクセッションプランの育成施策は「成果」を重視したプログラムにすることがポイントです。
ぜひ、育成対象者が自社の現実的な課題や問題に直接対峙しながら解決できるような環境を用意しましょう。その際にパーソナルコーチングで個別に行った行動へのフィードバックをするなど、個別指導をすることでさらに教育効果が上がります。
このように、育成施策はさまざまなので自社のキーポスト人材の要件と照らして効果的な施策を取り入れましょう。
さいごに
サクセッションプランは大手企業を中心に行われているイメージがあるかもしれません。
しかし、後継者不在で事業を畳むケースなどが中小企業で増えており、またヒト・モノ・カネのリソースが少なく「欲しい人材が採用できない」「やるなら育成効果の高いものをやりたい」といった声もよく聞きます。大手企業だけではなく、中小企業こそサクセッションプランを考えてみるのも良いかもしれません。
ぜひ、中長期を見据えて「経営理念・経営戦略の明確化」や「誰の後継者を育てるべきなのか」から考え始めてみてください。
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