活動自粛の長期化による社員の心身への影響
今、人事と管理職が対策すべきことは何か?
-活動自粛の長期化による社員の心身への影響-
前回のコラムでは、会社が最善を尽くしても発生してしまう社員のネガティブな反応に
ついて、その背景要因と対策のポイントをお伝えしました。今回のメルマガでは、現在
の活動自粛の長期化による社員のストレスと対策について、お伝えします。
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緊急事態宣言が発令され、在宅勤務や外出自粛に慣れ始めた頃ですが、今後、想定され
る社員の健康状態の問題としては、①活動自粛の長期化に伴う慢性的なストレス、②平
常時に戻る際の急性的なストレスによる心身の不調が挙げられます。
① 活動自粛の長期化に伴う慢性的なストレス
5/6以降も当面は新型コロナウイルス感染症対策が続き、在宅勤務や外出自粛が延長され
る可能性が高くなりました。活動自粛の長期化に備えて、社員の慢性的なストレスへの
対策を考えなければなりません。現時点でも、問題が顕在化している社員には、下記の
ような心身への影響が確認できています。
・ 生活リズムの乱れ(私生活との切り替え困難/睡眠リズム後退など)
・ 運動不足や食事/飲酒による健康問題(体重増加や血圧変化など)
・ 不安や緊張に伴う自律神経症状(発熱/動悸/めまいなど)
・ 在宅勤務時の作業環境による身体症状(肩こり/眼精疲労など)
・ 業務遂行力の支障(集中力や思考力の低下など)
・ 同居者に対する情緒不安定な言動
・ 極度な不安を伴う行動制限(外出拒否/医療受診の見合わせなど)
これらの影響は、数日程度の持続であれば、一過性のストレス反応と考えられるため、過
度に心配する必要はありません。しかし、社会生活にも支障が出る深刻な状態、あるいは
1ヶ月以上にわたり持続する状態であれば、在宅勤務中の安全配慮の観点から、人事や管理
職は、医師につなぐ等の介入を行う必要があります。
② 平常時に戻る際の急性的なストレス
また、緊急事態宣言の解除後の懸念としては、これまでの滞りを挽回するため、平常時の
働き方に一気に戻そうとする動きです。これは十分な準備運動を経ず、激しい運動を行う
と故障しやすいのと同じで、平常時を意識した働き方へと、徐々に慣らしていかなければ、
急性的なストレスが掛かった際に、心身の機能が著しく低下する可能性があります。今後、
下記のような心身への影響が想定されます。
・ 疲労の蓄積による心身の機能不全(睡眠による疲労回復の困難さなど)
・ フルタイムの業務遂行への支障(夕方/週末の集中力や思考力の低下など)
・ 起床時の不調による勤怠の乱れ(午前中の出社困難/突発的な休みなど)
・ 自律神経症状による通勤困難(起立性調節障害やパニック障害の発症など)
・ 職場での情緒不安定な言動(いじめやハラスメントへの発展など)
・ 食生活に関連する病気の発症(摂食障害やアルコール依存症など)
・ 高ストレス状態から派生する回避行動(出社拒否/自傷行為/失踪など)
おそらく、感染症対策は持続したまま、経済活動を再開させることになりますので、組織や
個人に相当なストレスが掛かることが容易に想像できます。緊急事態宣言の解除後は、発令
時の活動自粛の頃よりも高いストレス状況に晒されます。リーマンショックの翌年(2009年)
は、メンタル不調者の急増、男性の自殺者増加がありました。今回の経済状況の悪化は、リ
ーマンショック以上の規模になると予測されているため、当時よりも多くの高ストレス者/メ
ンタル不調者の発生が見込まれます。
今後のメンタル不調者の増加を見据えて、人事/管理職がすべきことは、前回コラムの【タイ
ムリーな情報発信/コミュニケーション】に加え、平常時以上に早期発見/早期対応を意識した
【問題へのスピーディーな介入】です。
【問題へのスピーディーな介入】
①の慢性的なストレスの場合は、本人も管理職も「こんな状況だから、多少の不調は誰でも当
然ある」と問題を軽視しがちです。また、医療機関での感染を懸念して、本人が医療機関の受
診を先送りにする可能性もあります。在宅勤務の最中では、事例性(勤怠の乱れ、業務の遅れ
など)による問題の早期発見が難しく、管理職が気づいた際には、症状が長期化/深刻化してい
るケースが出てきます。体調面で気掛かりな社員には、経過観察の期間を長く取らず、早めに
専門家へ相談することが大切です。
②の急性的なストレスの場合ですが、現状の心理的負荷は、ほぼ災害時と同等の高レベルにあ
ります。何とかバランスを保っている状態に対して、経済活動の再開後、急激なストレスが加
わると、心身の健康状態や人間関係が急速に悪化する可能性があります。危機的状況下におけ
る悪化の進行は速いため、目下の感染症対策によってメンタルヘルス対応が後手にならないよ
う、メンタル不調者やハラスメント問題等が出てきた時には、発覚した段階から速やかに専門
家を巻き込み、早期介入を行うことが重要です。
また、何らかの心身の症状が見られる際には、早めに産業医や主治医につなぐ必要も出てきま
すが、感染症対策の影響により、平常時以上に、医師とつながることが困難になると予想され
ます。メンタル不調の初発・再発に限らず、未治療状態が長引く程、そこからの回復には多く
の時間を要することからも、人事/管理職と本人との間の調整役を立て、スピーディーに介入す
る必要があります。
今後、感染症対策が落ち着き、経済活動を平常時に戻していく際に、社員がよりパフォーマン
ス高く活動していけるよう、今のうちからメンタルヘルス対策を講じることが望まれます。
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公認心理師/臨床心理士/シニア産業カウンセラー
【専門領域】障がい者雇用の企業支援、精神障がい者の採用・定着・育成支援
精神科・心療内科クリニックにて、医師との協働で会社員のメンタルヘルス相談等に関与。EAP事業会社にて企業のメンタルヘルス支援に従事。現在は、企業の人事部門に対する障がい者雇用のコンサルテーション、精神障がい者の現場管理職・本人支援を実施。
諏訪 裕子(スワ ユウコ) シニアコラボレータ―
対応エリア | 関東(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県) |
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所在地 | 渋谷区 |