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人事部主導でここまで実践できる健康経営 モデルケースから導入成功の秘訣を読み解く ~ホワイト500取得企業と健康経営サービスのリーディングカンパニーが語る~

注目の記事[ PR ]掲載日:2019/02/22

近年、「健康経営」が注目されています。「健康経営」とは、従業員の健康を経営的資産と捉え、業績向上へと戦略的につなげていく経営手法です。その背景には、少子高齢化による労働者の減少・定年の延長、従業員におけるメンタルヘルス不調の拡大などの要因が挙げられます。では、何からどのようにして「健康経営」に着手すれば良いのでしょうか。今回は、社長の社員を大切にする想いを形にすべく人事部の発案で健康経営に着手し、試行錯誤を続けながらも見事に健康経営優良法人ホワイト500を取得された、新日鉄興和不動産の事例をクローズアップ。同社人事部長の成田 亨さんと、健康経営サービスのリーディングカンパニーである保健同人社のEAPコンサルタント 佐々木信三さんに、健康経営導入の意義、具体的な施策内容、情報発信の重要性、導入に向けたアドバイスなどを語り合っていただきました。 

プロフィール
成田 亨 氏
成田 亨 氏
新日鉄興和不動産株式会社  執行役員 人事部長

一橋大学を卒業後、日本興業銀行、みずほ銀行では人事部・秘書室、旧興和不動産含む新日鉄興和不動産では経営企画部、秘書室長、人事部長とコーポレート部門、ヒトに係る業務が長い。秘書室長時には役員報酬制度の設計、現在、執行役員として人事部門を管掌し、新人事制度の導入、人事運用の深化、風通しよい社風創りに尽力。「社員を大切にする会社」を掲げ、2019健康経営優良法人ホワイト500取得においては様々な施策を先導した。

佐々木 信三 氏
佐々木 信三 氏
株式会社保健同人社 健康サービスグループ 健康経営アドバイザー
EAPコンサルタント 臨床心理士

大学院修了後、教育機関にて、学生相談室カウンセラーとして、学生のメンタルケア体制の整備に従事。その後、心療内科病院にてカウンセリングや復職支援を担当。また、事務部門にて、経営企画や人事労務管理にも従事。現在は保健同人社で、メンタルヘルス、健康経営、ハラスメント対策等のサービス開発および研修講師として、企業の健康施策の支援を行っている。また、健康経営アドバイザーとして多くの企業をホワイト500に導き、健康経営度向上に貢献している。

「社員を大切にする会社」の一環として健康経営に着手

佐々木:健康経営優良法人ホワイト500の取得、誠におめでとうございます。健康経営に向けた貴社の取り組みは見事でしたので、必ず評価されると信じていました。私たちも、ご協力できたことを大変光栄に思っています。

成田:ありがとうございます。保健同人社さんにいろいろとご教示いただいた賜物です。健康経営は、当社にとって新しいテーマ。第一歩を踏み出したばかりなので、これからもさまざまな面でフォローをお願いします。

佐々木:貴社の素晴らしい点は、経営と現場が一体となって取り組まれていることです。「会社を挙げて」という強い姿勢を感じます。

成田:当社は、500人程度と決して大規模な会社ではありません。そのため、どうしても一人ひとりが大きな責任や権限を担うことになる。誰か一人でも治療や介護と仕事の両立が難しくなり、戦力離脱が生じてしまうと業務運営上の支障やリスクが高まってしまいます。それを回避していくことは、重要な経営課題といえます。

健康経営を促進した背景には、二つの課題がありました。第一に、事業の領域や規模を拡大していくなかで、現状の雇用環境を踏まえると人材の採用が厳しく、市場のスピードに追いつくには、業務の生産性を上げていかなくてはならなかったこと。第二に、当社社員の年齢構成の特徴として、40代後半から50代の層が厚いこと。そこで、そういったシニアの方々が高いモチベーションと緊張感を持ち、長く働き続けられる環境を用意する必要があると考えました。そのためには社員の健康管理が非常に重要になってきます。社長とも意見交換を重ねたのですが、最終的には人事の大きな施策テーマとして「社員を大切にする会社」を掲げ、社長の社員に対する想いを現実にするべく健康経営に着手することを決めました。

「社員を大切にする会社」として、まずは「健康・メンタル管理」「多様な働き方の支援」「労働時間の管理」「福利厚生制度の拡充」という四つの軸を設けました。このうち、最も大きなウェートを占めるのが「健康・メンタル管理」です。しかし、自分たちの力だけで進めることはかなり難しい。そもそも、何から手を付けたら良いのかも分かりませんでした。そこで、保健同人社さんにご相談することにしたわけです。佐々木さんは、当社の取り組みをどう評価されましたか。

佐々木:オフィスを移転されたことで、設備面を見る限り非常にコミュニケーションが活性化されていました。また、従業員の意見を吸い上げて職場環境の改善にも積極的に取り組まれていました。もはや、我々がお手伝いできる余地はないのではないかと思ったくらい、画期的な施策を推進されている印象を持ちました。

高さを自由に変えられるデスクとミーティング・セミナー・イベント、モーニング・ランチ・バータイムなどが楽しめる多目的空間“MOVALU”とミーティング・セミナー・イベント、モーニング・ランチ・バータイムなどが楽しめる多目的空間“MOVALU”

※高さを自由に変えられるデスク(左写真)とミーティング・セミナー・イベント、モーニング・ランチ・バータイムなどが楽しめる多目的空間“MOVALU”(写真右)

ただ、健康経営という枠組みは、働き方改革とは異なる視点があります。その視点からすれば、いくつか実施してはいるものの、十分ではないものが見受けられました。第一点は、健康宣言、第二点は、健康保険組合との連携、第三点は、効果検証です。いずれも、「健康経営度調査」のなかで、非常に重視されています。これらの社内体制の整備とともに、具体的な施策の立案・実行についての工夫を、アドバイスさせていただきました。

コンサルタントの協力のもと課題と解決策を整理

成田:たった一度のヒアリングで、明確に課題をクローズアップしてくださったので驚きました。

佐々木:オフィスを実際に拝見できたのが、大きかったですね。もともと貴社は多くのことに取り組まれていました。例えば、港区の区民マラソンへの参加を奨励するなど。ただ、それを健康経営だとご認識されていなかったように思います。

成田:「こんなことも健康経営につながっているのか」と初めて気付くことも、多くありました。

佐々木:社員食堂では、ヘルシーメニューを提供されていました。そこで、カロリー表示と利用件数の確認をされることをお勧めしました。また、社内のコンビニスペースを拝見すると、糖分やカロリーの高い菓子類が多く並んでいましたので、健康食品の配置もお勧めさせていただきました。

成田:健康というと、メンタルの健康と身体の健康を保てばよいとしか考えていなかったのですが、それだけではいけないという意識を持ちました。課題をご指摘いただくことで、社員の健康レベルを充分に理解できていないこともわかりました。「まずは現状を把握することが大切です」とアドバイスされたことは印象深いですね。何ができていて、何ができていないのか。どんなことを考えなければいけないのかを整理することが、スタートラインになる。お恥ずかしい話ですが、実はそのときにはまだ、私自身も社員の健康状態や、ストレスチェックの受検率を正確には把握していませんでした。

佐々木:弊社からは課題の洗い出しとセットで、必要な取り組み施策もいくつかご提示しました。例えば「健康経営度調査」では、人事が主導となると少しハードルが高くなる印象があります。課題として多いのは「健康経営に関して何をすればいいのか」「優先順位をどう付けたらいいのか」「そもそも自社にどのような健康課題があるのか把握できない」など。そこで貴社には、健康保険組合が有する従業員の検診データの入手や、健康セミナー・健診補助など保健事業としてカウントできるものがないかどうかを確認していただきました。

アクションはとても早く、すぐにご担当者が健康保険組合を訪問されました。その結果、定期健康診断時に取得する運動や喫煙などの生活習慣のデータを入手できましたし、定期健康診断と特定健康診査のデータを集計できることもわかりました。また、健康保険組合の保健事業として、がん検診などの補助を受けられることも確認できました。これにより、健康課題を正確に把握できるようになったので、次にはそれらをベースに産業医の先生に何をお願いするのか、ビル内にある医療機関とはどんな連携を取れるのかを考え、ご提案しました。人事部門がそうした資源を活用して健康管理の取り組みをスタートしたことは、我々にとっても大変勉強になりました。

成田:健康経営推進の人事部担当が非常に熱心に取り組んでくれて、彼らからアイデアが次々と出てきたんです。ファミリーデー(※)や外部講師を招いての健康増進セミナー(フィジカル・メンタル面)、仕事と介護の両立支援セミナーも、彼らの企画です。いずれも、大変好評でした。
(※)ファミリーデー:社員のご家族を招き、社内見学や社内施設(食堂等)を利用して頂くイベント

社員に伝わった、健康経営に対するトップの熱い想い

佐々木:社内への発信も迅速でした。また、トップ自らが積極的にメッセージされていたのも良かったと思います。

成田:貴社から課題をご提示いただいた際に、最も急がなければいけないと思ったのは、会社が社員の健康をどれだけ考えているかを、経営トップから発信してもらうことでした。そこで、「HEALTH AIR LINE」という社内広報誌を月に一回のペースで出すことになり、創刊号に社員への思いを込めた社長からのメッセージを掲載しました。「国や社会の構造が変わっていくなかで、社員の皆さんに長く働いてもらわなければ、当社は存在感を発揮できない。それだけに、社員の健康管理は重要な経営課題である。社員全員が自分の健康管理も含めて仕事の進め方を見直し、長く健康でいきいきと働くためにはどうすればよいのか、パラダイムチェンジを図っていかなくてはいけない」といった内容でした。タイミング的にインフルエンザ罹患者が発生し始める頃だったので、全社員の予防接種費用を会社が負担することやビル内の医療機関との連携、予防接種会の開催についても触れてもらいました。

成田亨氏 photo

佐々木:反響はいかがでしたか。

成田:何人かの社員から、「社長がこれだけ社員の健康を考えてくれていることを知り、感激しました」と直接言われたり、メールが届いたりしました。予防接種会も反響が大きく、案内と同時に多くの社員が申し込んできました。

佐々木:トップ自らが健康経営をメッセージとして発信された効果は大きいですね。加えて、インフルエンザの予防接種という社員に身近な話題に触れ、セルフケアを具体的に語っていたことが成功の大きなポイントだったと思います。「健康増進が経営管理上、重要になってくる」といったありきたりの言葉では、うまく伝わりませんから。ところで、「HEALTH AIR LINE」では第二号以降も、いろいろなテーマを取り上げられていますね。

成田:自社ビル内の医療機関の紹介や院長からのメッセージの掲載、健康保険組合が提供する費用補助制度などのご紹介や、人事部で企画した仕事と介護の両立支援セミナーの開催レポートなどを掲載しました。情報発信を継続していくことが大事なので、今後も毎月、テーマを見つけながら発行していきたいと思います。

佐々木:一連の取り組みを拝見していて、社員の声をすぐに反映して施策として推進されている点も、大きな成功の要因になっていると思いました。

成田:人事という部署は、採用、研修、異動、評価以外は何をしているのか見えない、というイメージがあります。そこで私は「社員の声を聞いて、それらをどう人事の施策に反映していくかが重要である」と、常々人事部メンバーに自律的に考えてもらっています。それをメンバーが理解し、社員のためになることを提案・実践し始めてくれています。

佐々木:ご提示した多くの課題を短期間ですべてクリアされているだけでなく、さらに自主的な取り組みを実践されている様子を拝見すると、弊社からさらにご提案しなければいけない、という気になります。

特にご検討いただきたいのは、人材育成の面です。貴社は人材育成に投資を惜しまず、さまざまな教育研修カリキュラムを構築されています。しかし、ヘルスリテラシーの向上は含まれていませんでした。心身の健康管理、生活習慣病の予防、女性の健康の理解などの研修実施をお勧めします。

継続的な効果検証とPDCAでブラッシュアップ

成田:弊社の健康経営はまだスタートしたばかり。これからが正念場となりそうです。

佐々木:貴社には、モデルプランもご提案しております。1年目にはどういったものを組み立てていけばいいのか、さらに2年目、3年目には、それをどうブラッシュアップしていけばいいのか、というものです。健康経営は、継続性が重要です。1年目にすべてのメニューを織り込んでしまい、2年目からやることがない、というのでは、意味がありません。

そこで重要になるのは「PDCA」です。貴社では、ご担当者のご尽力により、既に有意義な取り組みをいくつも実践されています。今後は、目標値の設定と従業員の満足度や生産性への影響の効果検証を行いながら、継続性のある施策の立案をしていただきたいと思います。

佐々木信三氏  photo

成田:今後に向けてはまず、社員の健康管理に関する会社の考え方(哲学)を整理の上、(こちら参照)、定期健診をより受診しやすい環境整備を行います。現在、社員は健康保険組合の健康管理センターで定期健診を受けていますが、場所が弊社から離れているので、近場で女性がリラックスして受けられる施設を追加する予定です。さらに、各種がん検診や脳ドックなどの任意検診も、会社として費用を一部補助しながら推奨していくつもりです。

佐々木:検診まわりの施策については、健康保険組合とご相談しながら進めるといいですね。また、年齢層の高い方にはライフイベントに合わせた定年前の健康管理・メンタルヘルスといった課題もありますし、女性の健康管理やヘルスリテラシーに関するセミナーなどの面でも、ご提案やお手伝いできればと願っています。

成田:当社の育児休業取得は100%ですが、さらに女性が働きやすい職場環境、出産・育児などのブランクがあっても長期的にキャリアアップしていける仕組みを構築していく必要があると考えています。当社ではミャンマーでサービスアパートメント事業を展開しており、初めて海外赴任者が発生する予定です。人数は少ないと思いますが、海外駐在者の健康・メンタルサポートも大切なところです。

これから健康経営を始める企業への
アドバイス

佐々木:人事部として健康経営を推進したいけれど、経営層にどう理解してもらえばいいのかを悩んでいる会社もあります。経営層から指示されているが、人事として何をすればいいのかが分からない、という会社もあります。なかには、専門職がいないとできないのではと考える会社も。そうしたなかで、貴社のケースは人事の力でここまでやれる、というモデルになると思います。

成田:人の価値観は多様化し、抱える事情は個別性が増します。一人ひとりに合った人材育成、仕事の両立支援のあり方があってよいと思います。社員が何を求めているのか。皆がハッピーになるために何が重要なのか。社員が今どういう状況のもとで働いているのか。社員の声、声なき声に丹念に耳を傾けて的確に状況を把握し、それらを経営と共有したうえで、「人事としてこういうことをやりたい」とぶつけていくことが重要です。すると、経営も同じことを考えてくれていて、必ずそれに応えてくれると信じることが、一番大事ではないでしょうか。

佐々木:健康経営は、実は新しいテーマではありません。もともと会社経営とは、従業員の健康管理・健康増進も含めて行われるものだからです。会社が既に取り組んでいる重点項目の延長として、少しずつ始めるのがよいと思います。そして、今回お話をうかがったように、従業員の意見を取り入れながら、企画する側も参加者も楽しんで推進していくのが理想だと考えています。本日はありがとうございました。貴社の健康経営のさらなる展開を楽しみにしております。

成田亨氏 佐々木信三氏  photo
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この記事ジャンル 健康経営

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