2.そもそもなぜ「人材データ」が一元化できていないのか
<2>そもそもなぜ「人材データ」が一元化できていないのか
◆人材データの一元化は難しいことが理解されていない
タレント・人材マネジメントシステムの導入を考える際には,「後継者選抜」や「適正配置」など,業務としてイメージしやすい機能に目が行きがちです。しかし,どんなに素晴らしい機能があったとしても,使われるべきデータが不十分であったり,古かったりしたら,宝の持ち腐れです。実は「データの一元化の実現」が考慮されていなかったことが,失敗の大きな原因であることも珍しくありません。ただ,地味で地道な話なので,導入計画やシステム選定で脚光を浴びることが少ない分野でもあります。
そこで第 2 回は,システムの力を十分に使うための重要な前提=「人材データの一元化」を実現するポイントをお話したいと思います。
◆なぜ人材データの一元化に失敗するのか?
■必ずしも人事部のデータ=人材データではない
後継者を選抜・育成する,戦略的な組織編成・人員配置を行う,適正な要員計画を立てる……こうしたタレント・人材マネジメント遂行のために必要となるデータは,必ずしもすべてが「人事・給与システム」に入っているとは限りません。発令を伴わない業務・タスクの履歴,現場でのプロジェクト履歴,営業成績などは,通常人事部は持っていないでしょう。こうした情報は,別のシステムで運用されていたり,他部署でExcelやAccessなどで管理されていたりします。また,E-learningや研修管理のシステムや採用関連のシステム,自己申告を取りまとめる仕組みがあっても,組織や異動発令,人事考課等の情報とは別々に管理されているケースも少なくありません。
「人材データ」というと何となく近くに集まっていて,少しだけ手を加えればまとめられるようにイメージしてしまうかもしれませんが,実は様々な形で散在しています。こうしたデータの性質を理解し,目的に合った形で集める仕組みを構築していかないと,一元化を実現し“続ける”ことは難しいのです。
■変化のあるデータを扱う
マネジメントに求められる人材データで,入社時に登録してから一切変化しない情報はほとんどありません。スピードを増す市場の変化に対応していくために,人や組織の動きや変化もますます早く,大きくなっています。タレント・人材マネジメントに活用するために必要となってくるのは,こうしたデータです。これらを捉え続けていくためには,知恵と技術が必要となります。
このように,これまで「人事・給与」の世界で扱ってきたデータと,これから「タレント・人材マネジメント」で扱っていくデータは,明らかに異なっているのです(当然共通するデータはあります)。このことに自覚的でなかったために,有効な一元化が実現できず,どうにか一ヵ所にデータを集めたとしても,単に溜まっていくばかりで,結局マネジメントに使えない,という例を数多く見てきました。
では,有効な一元化実現のためには,具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。
◆人材データの一元化に成功するためのポイント
■データ収集・運用プロセスをしっかりとデザインする(システム以前)
先日訪問した企業の人事部の方が,「各従業員からデータを集めることができないんです」と頭を抱えていました。一方で,今システムの導入をお手伝いしている人事部では,現場に存在している各種人材情報の収集のために,一斉に従業員にデータ提出の依頼をかけ,着実に成果を上げています。この差はどこからくるのでしょうか。
ポイントは大きく3つあると考えています。
(1)トップを巻き込む
経営者,経営層が人材データを活用してタレント・人材マネジメントを行っていくことに強く関心を持ち,本気になっていることが重要です。逆にこれがないままに進めていくと,どこかで壁に当たる可能性が高くなります。メイン担当者が異動したり,人事要員が減少したりしたことで,すべての進行が止まってしまったというケースもあります。
(2)情報提供者にメリット(提出しないときのデメリット)を認識してもらう
単純な話ですが,人は自分の役に立つと思うことはしますし,損すると思ったことはやりません。この場合,情報提供が自分のキャリア形成に大きく影響するという認識を持ってもらえるか否かがカギになります。
(3)他のプロセスとの連動をデザインする
今,会社の中には様々なシステムが動いています。別のシステムで入力したデータを,再度人事部から提出依頼された,となると「面倒くさい」と思われるのは当然です。他のプロセス/システムと連動することで,データの二重提出・二重管理を避ける工夫が必要です。そのためには,下の<<人材データ一元化実現のサイクル>>で解説する「システム連携」が重要なポイントになります。
ここまで準備できたら,システムの構築です。そこで押さえておくべきポイントは何でしょうか。
■「人材データ一元化実現」のサイクルを回す
マネジメントにデータを活用していくためには,情報の鮮度と精度を保ち続けることが必須です。そのために必要なのが,《人材データ一元化実現のサイクル》を回し続けることです。
このサイクルが一度回り始めると,データの一元化が実現していきます。「一元化」はとても地味な話ですが,実は非常に重要な部分です。システム導入の際には,今回お話した各ポイントをしっかりと確認してください。
次回は,タレント・人材システム選定の失敗の根本的な理由は何なのか,お話していきます。
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<<人材データ一元化実現のサイクル>>
【管理したい項目を管理すべき方法で管理し続けられる】
必要がないのに提供されている項目が多い。項目名すら変更できない。項目管理ができても,その中の管理方法に制限がある…。こうしたことがあると,ユーザーはExcelやAccessでの管理を始めてしまい,正確な最新情報はそちらに溜まっていくことになります。また,最初は必要な項目が揃っていても,後に追加変更が必要になった際,時間やお金がかかるために対応できず,システムが形骸化していくケースも少なくありません。一方,そうした状況を避けるために,ユーザーが自由に項目設定できるようにしてしまい,データベースがぐちゃぐちゃになってしまう例もあります。こうした点を考慮した上で提供されているシステムを選ぶことが重要です。
【入力・更新作業が容易。他システムとのデータ連携ができる】
データ連携が不得意なシステムは思っている以上に多いものです。また,組織や発令情報,各種履歴情報の管理方法は,ユーザーが想像している以上にシステムによって異なります。こうした状況を想定して連携の仕組みが用意されているシステムか,その導入に関わるコンサルタントやSEがそうしたことを理解しているか,十分に確認する必要があります。手動でデータを投入する場合には,データ入力インターフェイスが分かりやすくミスを防ぐ仕組みを持っている,投入ファイルの作成が容易,投入スピードが速い,といったことが求められます。
【イメージ通りのデータが簡単かつスピーディーに取り出せる】
人と同様,「見られている」システムのデータは綺麗に揃っていくものです。システムを活用する人たちが「見たい」「便利」「役に立つ」と感じて頻繁にシステムを開き,重要な場面で活用するようになると,データの精度と鮮度に対する意識が高まり,質の良いシステムになっていきます。つまり,活用者のイメージ通りのデータが,簡易に,しかも待たされることなく提供できることが重要なカギとなります。
「自由なマスタ・項目定義」 → 「入力・更新のし易さ、データ連携」→「イメージ通りのデータを簡単に出せる」
この3つを回し続けることで、「情報の質の鮮度と精度」を確保することができます。
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(このコラムは、「月刊 人事マネジメント 8月号」に掲載された、「失敗例に学ぶ タレントマネジメントシステム」の内容を転載したものです。)
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大島 由起子(オオシマ ユキコ) インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長
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