今こそ考えたい心技体の「心」

ビジネスで成果を出すためには「心」も「技」も「体」もすべて大切ですが、これまで多くの企業が研修で力を入れてきたのは、どちらかといえば「技」の部分。スキルや知識、語学力にあたるところです。しかし、「技」が活きるのは、健全な「心」や「体」があってこそではないでしょうか。

ご存知の通り、「心技体」は日本の武道やスポーツで聞くことの多い言葉で、精神（心）、技術（技）、そして身体（体）の三要素を組み合わせたものです。そして、これらが調和している時に最も効果的なパフォーマンスが得られるとされています。

それは武道やスポーツに限らず、私たちの日々の仕事でも同じことが言えます

「技」とはスキル、知識といった専門性や、フレームワークなどを指し、もちろん仕事をする上でそれらが大切なことは言うまでもありません。専門的なスキルや知識があるからこそ、私たちは成果を上げることができます。

しかし、「技」だけでは成果に繋がりません。

スキルや知識は確かに重要ですが、「心」と「体」も同じくらい大切だと理解すべきです。たとえスキルが高くても、心が疲弊していたらその能力を活かすことはできませんし、体の調子が悪いと仕事に集中することも難しくなります。ましてや、体調不良で働けなくなってしまったら成果を出すどころではありません。

それなのに、個人も企業も「技」の習得にばかり集中し、心と体のケアをおろそかにしているように感じます。私は10年以上、人材育成に携わる企業を運営しており、日常的に企業の人事担当者と対話していますが、多くの場合、企業による研修プログラムはスキルや知識の向上に重点が置かれ、心と体のケアは個人の責任とされがちです。

そして、特に心の重要性は問題が生じたときに初めて認識されることが多いのです。この10年以上、人事の大きなテーマの1つに「メンタルヘルス」があることからもそれはよく分かります。

実際、健康な時は健康の大切さに気づきにくいですよね。でも、日常的に心と体のメンテナンスを怠ると、最終的には大きな代償を払うことになってしまいます。だからこそ、心身が健康なうちからしっかりとケアすることが大切です。

「心」のケア

私は「心」をメンタルヘルスとマインドセットの２つに分けて考えています。

まず大切なのはメンタルヘルス、心の健康です。心の安定です。ストレスで心が疲れてしまうことがないようにするにはどうしたら良いか。もちろん、企業もそこには十分に気を遣っていて、メンタルヘルスの研修を実施したり、ストレスチェックを行ったり、あるいは企業にカウンセラーや産業医を常駐させたりしています。

心が安定していることは大前提の上で、さらに私が大切だと思っているのは「向き合い方」や「心のありよう・持ちよう」と言われるマインドセットです。なぜなら、心が安定していたとしても、成果を出そう！やってやろう！というマインドセットがなければ成果には繋がりません。

スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック先生の著書『マインドセット〜「やればできる! 」の研究』を読んだことある方もいらっしゃると思いますが、先生曰く、マインドセットひとつで成果は全く異なってくるとか。

本書ではGrowth Mindset（しなやかマインドセット）とFixed Mindset（硬直マインドセット）という言葉が出てきますが、硬直マインドセットの人が成長しないのに対して、しなやかマインドセットの人はどんどん成長するそうで、向き合い方次第で将来が変わってくることがよく分かります。

私の仕事でいえば、弊社が提供している海外研修MISSION: GLOBALも、国内研修MISSION: Ryomaも、グローバルマインドセットを鍛えるものですが、仕事ができる方で、高い語学力があっても、グローバルマインドセットが低い方はそもそも海外駐在に手をあげないですし、もし駐在したとしても現地に溶け込まなかったり、現地の人たちを巻き込めないというケースが見受けられます。

そして、これは仕事ができる・できない、あるいは語学が得意・不得意に関わらずなのです。

もちろん、仕事ができるからこそ、そして語学力もそれなりにあるからこそ海外駐在していると思います。だとすれば、そのあと、成果に繋がる要素はマインドセットだけと言ってもいいはずです。

企業も個人も「マインドセット」はもっともっと意識をした方が良いのではないかと思っています。