人材の定着と成長に向けた制度の必要性OJT×メンター制度
これまで本コラムでは職場の受け入れから業務指導を担うOJTのことに触れてきましたが、昨今の傾向から定着と成長には業務指導以外の心理的サポートが効果的であることがわかってきました。そこで今回は心理的サポートを担う役割の「メンター制度」についての紹介をしていきます。
Contents
離職理由上位の問題にいかに対策を講じるか
メンター制度を導入している企業の離職率の変遷
メンター制度とは
メンターの資質
メンター制度で効果をあげるために
まとめ
離職理由上位の問題にいかに対策を講じるか
離職には様々な理由が挙げられると思いますが、厚生労働省や民間調査機関の実施している新卒者の離職理由に関する調査の傾向として、
- 人間関係・職場の雰囲気が合わない
- 仕事のミスマッチを感じる、やりがいを感じない
- 労働条件(長時間労働・賃金・ワークライフバランスの崩れを含む)
などが常に上位を占めます。
これらの離職理由への対策として、メンター制度が介入できる可能性が大きいと考えます。1年目の躓きを小さくすることで、その後の企業との信頼関係を強化できる可能性があるからです。
メンター制度を導入している企業の離職率の変遷
では、メンター制度を導入することで企業の離職率はどのように変化していくのでしょうか。労働政策研究・研修機構(JLPT)のフォーラム中で「メンター制度導入とその効果」について報告がされており、制度導入後一年以内離職率が0%に改善されたという報告がされています。
またメンター制度の工夫点や効果の分析などもされているので、事例としてとても参考になると思います。
(参考)事例報告「メンター制度導入とその効果──同制度で離職率を改善」労働政策研究・研修機構(JILPT)
紹介されている事例の0%は極端な例として、他にも建設会社や薬品会社での事例でも、メンター制度導入によって離職率が大きく下がった例が報告されています。
また、メンター制度導入にあたって、厚生労働省が「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備女性コース)」でメンター制度の導入を助成の対象としています。
古いものではありますが、厚生労働省から「女性社員の活躍を推進するのためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」も出ています。
メンター制度とは
では、メンター制度とはどのようなものでしょう。
メンター制度とは企業の先輩社員がメンターとなって、メンティーである後輩社員の成長や職場適応などの支援を行う仕組みのことで、価値観や年齢が比較的近い職員同士がペアを組む傾向があります。
場合によっては一定の経験を積んだ社員が、あるタイミングでさらに上位経歴のある職員からメンタリング(経験や知識を持つ人が成長を望む人に助言や支援を行うこと)を受けることがありますが、一般的には新人をメンティーとして、先輩社員のメンターが仕事や職場に対する不安や悩みの相談を受けたり、人間関係の悩みなどにも寄り添い職場への適応を促す役割を担います。人間関係の相談などを受けることもあるため、同一部署などの先輩ではなく他部署の先輩社員との組み合わせが推奨されます。
OJTやコーチングと似たような印象がありますが、OJTは業務の指導やサポートを行うことを目的としており、メンターはメンティーのキャリア形成やメンタルのサポートを目的としています。したがって業務に関する指導はしません。また、コーチングはコーチングを受ける側の成長をサポートする意味では近いのですが、コーチングの場合は本人に問題解決を促す役割があります。したがってコーチングを受ける人には、それなりの問題解決力があることが前提となります。メンター制度のメンターはメンティーに対して自分の経験を共有したり、共に考えながらメンティーの悩みに寄り添い、安心感をもって成長を支援していきます。
このメンター制度によって、新人の人間関係の不安や、新しい場所での孤独感を減らし、仕事に向き合うことができるようになることで、やりがいを見つけ、モチベーションにもつながり、離職を防止することが期待されるのです。
メンターの資質
メンター制度は、すぐに導入できるものではありません。まずは、メンターとしてふさわしい人物像を明確にする必要があります。メンターに求められる資質として、以下のような点が挙げられます。
・傾聴力・共感力・質問力・フィードバック力などの対人スキルがある
・企業文化や部門間の関係性を理解し、自分の業務とのつながりを語れる
・安心して話せるような雰囲気を持ち、上下関係にとらわれず心理的安全性を感じられる
・守秘義務を理解し、約束を守れる信頼性がある
・本業とのバランスを取りながら支援できる業務調整能力がある
以上のようなことが考えられます。
また、改善意識や問題意識をもって解決にあたろうとする意識の高さは必要ですが、自社や仕事に対して頻繁に不満を口にする人はメンターとしての適性に欠ける可能性があります。
人事担当者は日ごろから各部門の管理者と連携し、メンバーの様子を把握することが求められます。候補者とのコミュニケーションをとる機会をつくり、人柄や姿勢を確認することがメンターとメンティーの適切なマッチングには不可欠です。
メンター制度で効果をあげるために
メンター制度を効果をあげるためには、企業内での制度設計と目的を明確にし、関係者への周知が重要です。実施期間やメンターの選定方法、フォロー体制の整備、企業によっては報酬設計なども考える必要もあります。
そしてメンターの選定とマッチングにおいては、細やかな配慮が求められます。
メンターの年齢や経歴、キャリア形成やライフステージへの共感、体調面の理解、ハラスメントリスクの回避などを踏まえると同性同士の方が支援しやすいケースが多いと考えられます。
メンターの候補が決まったら、事前研修が必要になります。研修を行うにあたって、選任の経緯や制度の目的などを説明し、メンターを務めることで自己成長につながること、メンター候補に選ばれたことの意味や期待感を押し付けることなく受け止められるように伝え、研修に参加してもらいます。
また、メンターの所属部署に対しても、制度がメンティーだけではなくメンター自身が成長できる機会であることを共有し、業務負担の調整やメンタリングしやすい環境への配慮などを促します。
必要に応じて過去にメンターを経験した職員をメンターの相談役として紹介するなどの仕組みがあってもよいでしょう。
新入社員をメンティーとする場合、配属直後では性格や特性を把握することが難しいこともあると思います。適性テストや性格診断などのアセスメント調査を活用し、面接などを通してメンティーの思考傾向を把握し役立てると、よりメンターとメンティーのマッチングの精度を高めることができます。
制度期間中は人事担当者がメンター・メンティー双方に対して定期的なヒアリングを行い、状況の把握に努め必要な支援を行うことが重要です。メンターに任せきりにせず、制度全体の伴走姿勢を持ちましょう。
メンター制度期間終了時にはメンター・メンティー双方にアンケートなどを実施し、制度のの改善に役立てるようにします。
まとめ
メンター制度はOJTだけではフォローできない、職場での不安や人間関係の悩み、業務外のことなどにも寄り添うなどメンティーの心理的安全性を高め、早期離職の防止につながり、定着率の向上と成長につながる仕組みです。またメンター自身の育成力の向上も期待できます。職場への信頼感と安心感を育む仕組みとして、制度の設計や運用には丁寧な準備が必要ですが、メンター・メンティー双方の成長を支える関係性が築かれたとき、組織自身に成長の変化が生まれます。
採用の先にある“ともに育つ職場”を目指して、メンター制度の可能性に目を向ける時です。
弊社では企業の持つ様々な課題を企業担当者様から丁寧に伺い、成果イメージを具現化するために、それぞれの企業様に最適なプログラムをご提案し、講師を選定するオーダーメイドの研修を行っております。
弊社のプログラムをご利用いただきました企業様からは、理解しやすい・実践しやすい・継続しやすいなどのお声をたくさんいただいております。
是非、人材育成担当者様のお話をお聞かせください。
このコラムを書いたプロフェッショナル
後藤 真紀子
研修コーディネーター/キャリアコンサルタント(国家資格)
人事・研修企画~運営における、お悩みや課題をお聞きしながら、社員一人ひとりの成長が組織の成長につながるよう、研修企画~フォロー施策まで伴走させていただきます。
後藤 真紀子
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| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、人材採用、キャリア開発、コミュニケーション、ビジネスマナー・基礎 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 横浜市中区 |
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