「60歳以上でも働き続けられる企業」に良い人材が集まる
厚生年金の支給開始年齢の引き上げに伴い、厚生労働省は企業に対し、希望者全員を65歳まで再雇用するよう義務付ける方針を固めました。
現行の高年齢者等雇用安定法でも、現に雇用している高年齢者が希望する時は、定年後も65歳まで引き続き継続雇用することが企業に義務付けられています。
ただし、労使協定を結べば、企業が継続雇用する高齢者の基準(範囲)を定められるという規定があるため、必ずしも希望者全員が65歳まで働けるようにはなっていないのが現状です。
一方、厚生年金の定額部分は2001年から支給開始年齢が引き上げられており、男性の場合は2013年度、女性の場合は2018年度に65歳支給となります。また、報酬比例部分についても2013年度から3年ごとに1歳ずつ上がり、男性の場合は2025年度、女性の場合は2030年度に65歳支給となります。
したがって、2013年度には60歳以降も希望者全員が働けるようにしないと、年金も収入もない人が出る可能性があります。今回厚生労働省が固めた方針は、年金が支給されるまで、働ける場を確保するための措置です。
私は、今回の厚生労働省が決めた方針は、社会保障の抜本的改革が進まない現状における暫定措置としては妥当だと思います。
しかし、経団連は、「希望者の増加を踏まえると雇用確保には限界がある。新卒採用にも影響が出かねない」と早速けん制したとのことです。
確かに、若年層の雇用確保も重要な課題です。ただ、それはIT分野や環境分野をはじめとする将来的な成長産業における規制緩和や創業促進などの政策によって行うべきで、定年退職者が出るような数十年以上続く既存産業の企業に、雇用の受け皿になってもらう必然性はそれほど高くありません。
若年層は、いわば「色」がついておらず、新たな成長分野で様々な職種にチャレンジしやすい状態です。一方、60歳以上の定年退職者は、これから新分野にチャレンジするよりも、それまで蓄積した経験やスキルを生かして引き続き仕事をする方が、社会全体として最適な人材配置が実現されると思います。
そもそも、単に一定年齢に達しただけで雇用機会が失われるのが当たり前になっている現在の社会では、長生きすることに希望が持てる社会とは言えません。
本来であれば、定年を60歳とか65歳とか、国が基準を定めるということ制度自体がナンセンスです。
いつ仕事を引退するかは自分で決められるのが理想的だと思います。一方、企業側がどうしても定年を定めたいなら、各企業が自由に定めればいいのです。
そのうえで、労働者側は企業を選ぶときに、その企業が定年をどのように定めているかということも含めて検討するのです。そのためには、一人ひとりが、60歳以降も含めたライフプランを若い頃から意識しなくてはなりません。
逆に企業側は、労働者に60歳以降も含めたライフプランを意識してもらいながら、定年を含めた雇用に関するポリシーを求職者に伝えることで、自社の魅力をアピールすることができます。
たとえば、「当社は定年が60歳。ただし退職金が約○円出るので、年金受給の65歳までは十分賄えます」という企業があってもいいし、「当社は退職金制度がありません。ただし、定年もないので、働こうと思えば一生働くことができます」という企業があってもいいのです。
そのように雇用に関する様々なポリシーが考えられる中で、いかに労働者側のニーズにあったポリシーを持っているかが、優秀な人材の確保を左右するための重要な要因になるというときが、近いうちに必ず訪れると思います。
特に、年金制度に対する信用が低下している状況下では、「長く働くことができる企業」というのが企業選びの重要なポイントになってくるはずです。
社長や採用担当の方からは、採用活動をしても良い人材がなかなか応募してくれないという声をしばしばお聞きします。
少しでも良い人材を確保するために、賃金を高くしたり、福利厚生を充実させたり、休日を増やしたりと、いろいろな取り組みをしているのですが、それらはすでに他社もやっているので、あまり差別化要因にはなりません。
それよりも、例えば「当社は『引退の時期を自分で決められる』ことこそが長寿社会の人々の人生を豊かにすると考えています。そのため、定年制度は用意しておらず、60歳以降も自分のライフプランに合わせて働くことができるように、多様な雇用形態を用意しています」という方が、はるかに他社への差別化要因になります。
また、これに共鳴して応募してくる人材は、働くことへの高いモチベーションと、将来を見通せる感度の良さを持ち合わせているはずです。
こうした人材が集う企業には、時代の変化に適応しながら発展し続けられるような土壌が育まれます。
経営者の皆様、今回の厚生労働省の方針決定を機会に定年を廃止し、「60歳以上でも働き続けられる企業」として、長寿社会にいち早く適応するリーディングカンパニーになるというのはいかがでしょうか。
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