海外駐在前に知っておいてほしい『トランジションマネジメント』
INSIGHT ACADEMY 講師インタビュー 馬場 久美子氏
〔馬場 久美子〕ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。コーチ・エィでエグゼクティブ・コーチとして活躍。香港に駐在して拠店長を務め、2019年に独立。アジアを中心に15か国で、経営者や駐在員100人以上をコーチ。
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海外赴任で苦労している方の力になりたい
―― まずはじめに、馬場さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますか?
新卒でエン・ジャパンに入社後、20代後半で多くの部下を抱えた際に何かマネジメントの武器を身に着ける必要があると考えてコーチングを学び始め、それがきっかけでコーチングファームに転職をしました。
本格的にグローバルに関わるようになったのは2011年からです。当時は駐在員の支援策がほとんどない状態だったこともあり、お客様に要請される形で日本と海外の両方を支援する事業に参画しました。2014年には支社長として香港に駐在。香港から中国・華南地域全体のコーチングプロジェクトに携わるようになりました。と同時に全世界にクライアントができました。これまで海外赴任した方のコーチングは約1000時間。中国に赴任されたクライアントが一番多いです。
丸2年駐在した後に、日本本社へ異動。その頃執筆していたメールマガジンを見たダイヤモンド社から声がかかり『グローバルリーダーのための「トランジション・マネジメント」』を上梓。本の完成と共に独立しました。
駐在員には「トランジション」というプロセスが訪れることを知って欲しい
―― インサイトアカデミーではどのような講座を担当されていますか?
「異文化へのトランジション・マネジメント」という講座を担当しています。まずは「トランジション」というプロセスがあるということを知っていただきたいです。
トランジションとは、過渡期や変遷期という意味ですが、その人の心のありようが心理的に「完全に変化する」ことを指します。その人を取り巻く状況が変わる「チェンジ」とは区別して捉えています。初めて駐在する時は、何が起こるか半分想像できて半分想像できない、暗闇の中に突入していくような感覚があるんです。
日本では「行ったらわかるよ」みたいなことを言われたりしますが、前任者の駐在員とは経験値も違えば、年齢も違う、キャラクターが違う人間が行くわけですから、前任者と同じことが起こることはないんです。誰も予想がつかないですし、本人も予測つかないまま飛び込むので、右往左往しながら対応していくのがほとんどだと思います。
その中で、赴任後にどんな「トランジション・プロセス」があるかを知っておくと心づもりができます。次にこういうことが起こる可能性が自分にあると知って臨むのと、知らずに突っ込むのとではだいぶ視野が違ってきます。その視野の獲得に役立てていただければ良いなと思っています。
―― 「異文化へのトランジション・マネジメント」は、どんな方にどのような視点で見ていただきたいですか?
駐在する方や人事の方はもちろんですが、特に駐在する上司の方に見ていただきたいです。駐在経験がある上司は、駐在した部下が「今どういう感じだろう」と想像がつくと思いますが、駐在経験のない上司の方は想像力が働きにくいかもしれません。「今どういう時期かな?」と仮説を立てるために見ていただけると良いと思います。
また、ご家族にもお勧めです。帯同されるご家族が、健康的にご機嫌に生活されることは、駐在の方のすごく支えになるんです。
ご家族みんなでトランジションにはこういう流れがあるということを知って、臨まれると良いと思います。
―― 以前に比べて駐在員のパフォーマンスが落ちていると伺いましたが、その原因はどこにあると思いますか?
仕事の難易度が上がっている一方で、駐在員として行かれる方の海外経験の量が下がっているため、平均すると結果的に落ちている風にとらえてしまう状態だと思います。
駐在員を多数送り込んでいる大企業でも、「少し前の駐在員の役割」と、「今の駐在員の役割」とは全く違うんです。
1980年代後半から90年代頃は、例えばメーカーは、コストを下げるために日本でやっていた仕事をアジアへ移管していくイメージでした。当時は日本企業がもてはやされていた時代だったんですね。その後、2000年代になってくると、日本企業のポジションが下がってきたことや、日本の市場よりも海外の市場を獲得していこうという姿勢に企業が変わってきたので、クリエイティビティを使った仕事の仕方を求められるようになってきたと思います。
例えば、中国で本当に受け入れられる製品を作ろうとか、買っていただこうとか。中国企業と渡り合っていこうという仕事の仕方なんです。このように役割が変わってきました。
それゆえに、現地の人たちの力を引き出すことが必要になってきています。日本人はティーチングで育ってきている方がまだまだ多いので、自分の知っていることを教えるというのは得意なんですが、彼らが持っている能力や可能性を引き出す、まさにコーチングを使った対話はあまり鍛えられてきませんでした。
そのため、優秀な方が辞めてしまうなど、持っている能力を引き出せない状況にある拠点も多いのではないかと思います。
総じて言うと、グローバルリーダーになるための「ケイパビリティ・ギャップ」が年々大きくなってきていると言えます。「ケイパビリティ・ギャップ」とは、その任務・役割に求められる期待と、実際に個人によって発揮される能力の差異です。「グローバルリーダーになる」ための難易度と言い換えることもできます。
―― そのギャップを埋めるためには具体的にどのようなことが必要でしょうか?
駐在員本人に能力が足りていない場合は、何か支援策を足していく必要があります。研修でも良いですし、それこそインサイトアカデミーのようなナレッジに本人がアクセスできるようにするのが良いのではないでしょうか。駐在は行ってみてわかることも多いですし、必要なことが人によってかなり異なるというのが特徴なので、そういった意味では、いつでもナレッジを選べる状態、いつでもアクセスできるというのは、駐在員にあっているスタイルだと思います。
ただ、アクセスするかどうかは本人任せになってしまうので、それを伴走するようなパートナーが必要です。
例えばインサイトアカデミーでは、その人がどれくらい講座を視聴したのかがわかりますし、そのデータに基づいたフィードバックが提供されるというのがすごく良いですよね。今駐在員本人がどれくらい学習を進めているのか、今どのような課題を持っているのかがデータから読み取れるということは、駐在員を送り出している企業側からしても駐在員からしても、とても便利なことだと思います。
駐在すると本社とのつながりが途絶えてしまう方が多いですが、うまく業績も上げられている駐在員の方は、本社とのつながりをうまく作り続けています。
一方で、企業側にノウハウやリソースがない場合も実情として多くあります。その場合は、外部から知見のあるメンターを駐在員に付けるというのも、一つの有効的な手段だと思います。
海外赴任準備の新スタンダードとしての「トランジション・マネジメント」
―― インサイトアカデミーはグローバル人材を「海外で収益を生み出せる人材」と定義し、そのために必要な育成要件を6つ掲げています(※)。馬場さんから見てグローバル人材として特に重要なのはどれだと思いますか?
どれか1つを選ぶのは難しいです。この6つの育成要件が六角形だとすると、面積の総合点がバランスよく高いというのがすごく大事だと思います。
例えば、経営知識がすごくある人が良いかというと、多分バランスを欠くんですよね。頭でっかちになって、自分が見えなくなってしまうとか。なので、面積がすごく大事なんです。とはいえ面積を高めてから駐在を開始するということはありません。
行く時は「とにかく行け」となるので、それまで日常で積み重ねてきたこの六角形の面積をまず自覚することが大切だと思います。
面積が小さければ小さいほど、他の人の支援が必要ですから。「他の人といかにつながることができるか」大事なのはここだと思いますね。高い人は、それをいかに発揮するかということになると思います。
―― 最後に、このインタビューをご覧になっている方に一言お願いします。
トランジション・マネジメントが、赴任前準備の新スタンダードとしてぜひ広がって欲しいです。駐在へ行く前に「トランジション・マネジメント」という概念を知っていただき、上司もそれを理解する。そこから始めることが、日本の未来の力になるのではないかと思います。
【出演動画】
異文化へのトランジション・マネジメント
海外赴任者に必ず訪れるプロセスである「トランジション」を取り上げ、その過程をどう自己マネジメントし乗り越えるかをわかりやすく解説しています。
※インサイドアカデミー グローバル人材育成要件
インサイドアカデミーでは、約5,000名の専門家の「活きた知見」を集約し、グローバル人材の育成要件を研究、以下の6つの要件を定義しています。
- グローバルマインド
- 異文化マネジメント力
- 経営知識
- 海外ビジネス環境理解
- 実務言語力
- 実戦適用力(実戦の数)
- 経営戦略・経営管理
- グローバル
- マネジメント
- コーチング・ファシリテーション
- ロジカルシンキング・課題解決
オンラインだからできる、グローバル人材育成
海外で収益を生み出す人材を育てるべく、世界でビジネス経験豊富なプロフェッショナル集団の実戦的ノウハウをeラーニングでご提供します。「国別に」カスタマイズされた研修等、100以上の講座から育成ニーズに沿ったプログラムを設計することが可能です。
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