その交渉相手は、社外ではなく社内かもしれません
交渉力研修は、営業や購買といった「社外と向き合う部門」のためのものと考えられがちです。しかし現場で毎日繰り返されているのは、他部署や上司との社内交渉のほうです。社内交渉を育成の対象に含める——交渉力研修に携わる人事・研修担当者に向けて、その視点をお伝えします。
「交渉力研修となると、うちは営業と購買ですね」
研修のご相談をいただくとき、対象部門の話になると、たいていこの一言から始まります。自然な整理だと思います。値段を決め、条件を詰める部門なのですから。
ただ、私はいつも、もうひとつだけ問いをお返ししています。「では、その営業や購買の方が、一日のなかで最も多く交渉している相手は、どなたでしょうか」
■ 数えてみると、社外より社内のほうが多い
社外との交渉は、多くても月に数回でしょう。一方、社内は毎日です。
見積の条件を通すために上司の承認を取る。納期を早めてもらうために製造に頼み込む。値引きの決裁を通すために経理と話す。相手に「わかりました」と言ってもらわなければ物事が動かないという意味で、これらはすべて交渉です。
ところが社内のやり取りは、「調整」「相談」「お願い」と呼ばれます。交渉という名前がついていない。そして名前がつかないものは、教える対象にもなりません。多くの企業で、最も回数の多い交渉が、育成の空白地帯のまま残っています。
■ 社内交渉が難しいのは「関係が続く」から
社外との交渉には、条件が折り合わなければその取引を見送る、という選択肢があります。社内には、それがありません。相手とは来月も、再来月も一緒に仕事をします。
だから人は、社内交渉で極端に振れやすくなります。
ひとつは、関係を守るために早々に引き下がるパターンです。「まあ、来週でも大丈夫です」と言ってしまい、結果として自分の納期が苦しくなる。もうひとつは、立場や役職で押し切るパターン。その場は通りますが、次に頼みごとをしたとき、静かに順番を後回しにされます。
どちらも、その瞬間は波風が立ちません。だからこそ問題として表に上がってこない。社内交渉の弱さは、遅れや手戻り、あるいは「あの部署は頼みにくい」という評判といった、別の形で表面化します。
■ 「調整がうまい人」がやっている三つのこと
社内で通したいことを通せる人は、押しが強いわけでも、社内政治に長けているわけでもありません。共通しているのは、次の三つです。
第一に、相手の評価軸を読んでいることです。製造には製造の、経理には経理の、守らなければならない指標があります。「急いでください」ではなく、「この山を越えれば、そちらの残業も減ります」と、相手の指標の言葉に翻訳して持っていく。
第二に、順番を設計していることです。いきなり全員が揃った会議で提案せず、鍵になる一人に先に相談しておく。会議は決める場であって、説得する場ではない——この使い分けができています。
第三に、要求を分解していることです。「まるごと引き受けてください」ではなく、「この部分だけ、今週中に」と切り出す。部分合意を積み上げるほうが、社内では確実に前へ進みます。
■ 研修設計にどう組み込むか
社内交渉は、社外向け研修の“おまけ”として扱うと、まず定着しません。ケースとして正面から扱う必要があります。
有効なのは、受講者に「直近三か月で、社内の誰かに頼んで断られたこと」をひとつ書き出してもらい、それを題材にする方法です。相手の評価軸は何だったか、話を持っていく順番はどう設計できたか、要求はどこまで小さく切り出せたか。自分の実例で考えると、社内交渉が「性格の問題」ではなく「設計の問題」であることが腹に落ちます。
対象部門についても、営業・購買に限定しない設計が有効です。他部署に依頼しなければ仕事が進まない立場——管理部門や開発の担当者ほど、実は社内交渉の比重が高いからです。
最後に、ひとつ正直なことをお伝えします。私たちはAIを相手に交渉のロールプレイができる学習ツールを提供していますが、社内の力関係や、長く一緒に働いてきた相手とのあいだに流れる空気まで、AIが再現できるわけではありません。それでも社内交渉の練習にAIが向いている理由がひとつあります。相手が社内の人だと、練習そのものが気まずいのです。上司役を同僚に頼んだところで、本音の言い方は試せません。誰にも気を使わずに「言い方を変えて三度やってみる」ことができ、しかもそのやり取りが記録として残る。どの一言で相手が引いたのか、どこで自分が早く折れたのかを、後から自分の目で確かめられる——それが、社内交渉という教えにくい領域を練習可能にする、現実的な一歩だと考えています。
株式会社NRIJ 観音寺 一嵩
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このコラムを書いたプロフェッショナル
観音寺 一嵩
株式会社NRIJ 代表取締役社長
中小企業診断士。2002年に英国PMMSグループから戦略的交渉力プログラムのライ
センスを取得し(株)NRIJを設立。20余年に亘り実践的な交渉力研修を実施。著書に『
ビジネス交渉実践マニュアル』等。AIを融合した次世代型交渉学習も展開中。
観音寺 一嵩
株式会社NRIJ 代表取締役社長
中小企業診断士。2002年に英国PMMSグループから戦略的交渉力プログラムのライ
センスを取得し(株)NRIJを設立。20余年に亘り実践的な交渉力研修を実施。著書に『
ビジネス交渉実践マニュアル』等。AIを融合した次世代型交渉学習も展開中。
中小企業診断士。2002年に英国PMMSグループから戦略的交渉力プログラムのライ
センスを取得し(株)NRIJを設立。20余年に亘り実践的な交渉力研修を実施。著書に『
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| 得意分野 | リーダーシップ、マネジメント、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決、営業・接客・CS |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 中央区 |
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