雇用契約ではなく業務委託契約にする場合の注意点
人材を確保して何らかの業務を依頼するには、正社員やパートタイマー、アルバイトなどといった雇用契約による方法のほかに、請負契約や業務委託契約による方法があります。
お客様からは、雇用契約ではなく、請負契約や業務委託契約にしたいというご相談を受けることがあります。
請負契約や業務委託契約にするメリットはいくつかありますが、当然ながらデメリットもあります。今回は、そのことに触れたいと思います。
それぞれの契約の違いは、以下のとおりです。
<雇用契約(労働契約)>
雇われるものが雇い主に対して労務に従うことを約束し、雇い主がその対価として報酬を支払うことを約束することによって成立する契約です(民法623条)。
<請負契約>
一つの仕事を完成させることを目的とし、その結果に対して報酬が支払われる契約です(民法632条)。
<業務委託契約>
一事業主として特定の仕事を処理することを目的として行われる契約です(民法643条、656条)。
雇用契約に比べて、請負契約や業務委託契約には、事業主側にとって次のようなメリットがあります。
1.相手方は社員ではないため、健康保険や厚生年金、雇用保険等の保険料の負担義務がない。
2.労働基準法を始めとする労働関係法令が適用されないため、割増賃金の支払い、年次有給休暇の付与、解雇予告の手続き、健康診断の実施、最低賃金の適用等の義務がない。
3.社員の場合は簡単に解雇をしたり、賃金を引き下げたりすることはできないが、請負契約や業務委託契約の場合は、互いに折り合わなければ契約を打ち切ることも可能である。
これだけ見ると、事業主側にとってはメリットが多いように思えますが、当然ながらデメリットもあります。
1.外部の業者という形になり、会社に対する帰属意識はあまり生まれないため、委託条件によっては仕事を断られる可能性があります。
2.請負契約や業務委託契約は特定の業務単位での依頼になるため、社員のように、適宜さまざまな業務を依頼することができません。
3.仕事の進め方について、具体的に指示をすることができません。
4.業務遂行のノウハウや技術が、社内に蓄積されません。
5.将来の経営幹部候補として育成していくことができません。
以上のメリット、デメリットを踏まえて、契約の形を決める必要があります。
また、たとえ契約自体は請負や業務委託の形でも、実態が雇用契約であれば、偽装契約とみなされてしまい、雇用契約と同じ義務を負うことになります。
そのため、請負契約や業務委託契約にする際には、以下の条件を満たすように留意して下さい。
1.仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由を与える。
2.業務の遂行方法は委託先に任せる(指揮命令権はない)。
3.契約している仕事以外を依頼しない。
4.業務遂行に合理的に必要とみなされる時間以外に、時間数や時間帯の拘束をしない。
5.報酬の計算単価は委託する業務内容や成果物に対して設定する。(時間給や日給といった時間を元にしない)。
6.本人が所有する機械・器具の使用を認める。
実態を総合的に見て判断されますので、必ずしも上記の内容をすべて満たしている必要はありませんし、また上記以外にも判断材料はあるかもしれませんが、主なポイントは以上です。
契約の形と運用実態が乖離しないように気をつけて下さい。
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