みなし残業時間制を運用する際の注意点
あらかじめ社員にみなし残業時間を設定し、残業代込みの給与を支払う「みなし残業時間制」を採用している企業は多く存在しています。
ところが、気をつけないと労働基準法違反で労働基準監督署から是正勧告を受けてしまう可能性があります。
6月1日の新聞では、人気ロールケーキを製造販売する大阪の企業が労働基準監督署から未払い賃金の支払いを求める是正勧告を受けたことが報じられました。
是正勧告の内容は、実際の残業時間がみなし残業時間を大きく超過しているとして、残業時間の短縮と過去2年分の未払い賃金の支払いを求めるというものです。
約150人いる正社員のうち未払いがあるのは何人なのかということや、未払い賃金の総額がどのくらいなのかは明らかにされていませんが、2年間遡って未払い分を支払うとなると、経営にとって大きな痛手になる可能性があります。
労働基準法では、賃金を「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と表現しています。この「労働の対償」の部分は、「労働時間の対償」と置き換えてもいいくらい、現行法は、主に労働の質よりも量を基準として定められています。
いわゆるブルーカラーが多かった時代にはそれでもよかったのですが、現在のようにホワイトカラーの割合が高くなっている状況では、労働時間の長さよりも、労働によって生み出した成果に応じて賃金を決める方が自然です。
しかし、現行法は、こうした時代の変化に対応しきれていません。一応「裁量労働制」というものがありますが、対象業務の範囲が狭く、制約も多いため、なかなか適用できないのが現状です。
そうした現状への対応策の1つとして、「みなし残業時間制」を採用するというのは良い方法だと思います。
「みなし残業時間制」は、効率的に成果を出して定時で帰っても、能率が悪く残業になっても、基本的に支給される給与は同じです。
社員にとっては、「どうせもらえる給与が同じなら、生産性を上げて早く帰ろう」という意欲が高まるため、残業代目当てにダラダラと残業をすることが減ります。
そういった意味でも、「みなし残業時間制」にはメリットがあります。
ただし、「みなし残業時間制」を運用する際には、いくつかのポイントを押さえておかないと、労働基準法違反となってしまいます。
そこで、今日はその中から、労働基準法を遵守しつつ「みなし残業時間制」を運用するために、特に重要なポイントを3点ご紹介します。
1.何時間分の残業代が給与に含まれているかを明確にする
たとえば、みなし残業代込みで30万円支給する場合、何時間分の残業代が含まれているかを明確にしなくてはなりません。
2.みなし残業時間を超過した分は追加で残業代を支払う
たとえば、みなし残業時間を30時間としていたとき、実際に40時間残業した場合は、10時間分の残業代は別途支払わなくてはなりません。
3.最低賃金を下回らないようにする
たとえば、東京都の企業が、1日の所定労働時間を8時間、1ヶ月の所定労働日数を23日、1ヶ月のみなし残業時間を30時間とする場合、月例給与をみなし残業代込みで18万円と設定すると、正味1時間の賃金が東京都の最低賃金である837円を下回ってしまい、違反となります。最低賃金をクリアするためには、最低185,396円にする必要があります。
<計算根拠>
(1)正味の基本給 837円×8時間×23日=154,008円
(2)みなし残業代 837円×1.25×30時間=31,388円
(3)合計(1+2)185,396円
以上、「みなし残業時間制」を運用する際には、後でトラブルにならないよう、上記3点に留意して頂ければと思います。
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