【第12回テーマ】
特例子会社(障害者雇用)における人材活用の実践
【第12回テーマ】
特例子会社(障害者雇用)における人材活用の実践
『日本の人事部』は、2011年9月2日(金)に、第12回「HRクラブ」を開催いたしました。
今回のゲストは、株式会社リクルートオフィスサポート取締役 経営企画室長の岩泉匡洋氏。第1部の講演では、同社の障害者雇用の現状について、事業領域、人事制度、働く環境など、さまざまな観点から解説していただきました。続く第2部では、岩泉氏がファシリテーターとなり、参加者同士によるディスカッションを実施。台風が近づく悪天候にもかかわらず、多くの方が参加され、大変充実した勉強会となりました。
本レポートでは、当日の「HRクラブ」の模様を、ダイジェスト形式でご紹介いたします。
【第12回 開催概要】
- ■ テーマ
- 特例子会社(障害者雇用)における人材活用の実践
- ■ 開催日時
- 2011年9月2日(金) 18:30~20:30
- ■ ゲストスピーカー
- 株式会社リクルートオフィスサポート 取締役 経営企画室長
岩泉匡洋氏
<岩泉匡洋氏 プロフィール>(いわいずみ まさひろ)1983年、リクルート入社、東京で「週刊住宅情報」の営業、編集を経て1995年賃貸情報「週刊ふぉれんと」創刊。2000年関西版住宅情報編集長、その後、ABROAD、じゃらん(東名阪)月刊ハウジング、GOODリフォームを経て2004年10月より(株)リクルート北海道じゃらんに赴任、2006 年4月より同社代表取締役社長。2008年4月より現職。日本ハンドボール協会マーケティング委員。
「個」を尊重することで、各人が力を十分に発揮
1990年に設立された、株式会社リクルートオフィスサポート。リクルートの特例子会社として、リクルートならびにリクルートグループ各社のオフィスワークや従業員の暮らしに関わる業務をサポートしています。その事業領域は、オフィスサービス領域(コピー代行、入力集計加工ほか)、情報管理領域(申請受付代行、電子ファイル・電子書籍作成ほか)、経理事務領域(経理代行ほか)など、大変幅広いもの。常用雇用者192名のうち、127名が障害者だといいます(2011年6月現在)。リクルートグループの障害者雇用促進法に基づく「法定雇用率」は、現在約2.1%ですが、そのポイントの大半を同社が担っています。
同社の企業理念は、「私たちはあらゆる人が能力・意欲の発揮できる機会を創造し 成果を高めることにより 豊かで人に優しい社会の実現をめざします」というもの。この中には「障害者」という言葉が一切登場せず、「障害者も健常者も同等である」という考えが反映されています。また、「経営の三原則」として、「個の尊重」「可能性の追求」「社会への貢献」をあげています。「個の尊重」における「私たちは個人の存在を尊重する。障害の有無を問わず各人の持てる個性が最大限発揮されるよう積極的に支援するとともに、社会における個の存在に価値を置く」という考え方には、同社の採用面接に訪れる方々の心にも大変響くようで、実際に入社へと繋がるケースが多いそうです。
同社は創業期には社内報の印刷や名刺作成などを中心に行っていましたが、「雇用拡大」という目的や環境の変化に合わせて、事業領域を徐々に広げていきました。そのために同社が行なっているのは、グループ内に点在している業務を「集約化」すること。各社・各部署単独では少ない業務量でも、グループ全体で集約することで、ボリューム感が出るそうです。例えば、契約書の管理も、グループで集約すれば21万件にもなるといいます。また、雑誌などのアンケートはがきの集計は、1ヵ月に2万件にも及ぶそうです。
集約化した業務は「定型化」し、さらに「分業化」していくとのこと。このように専門化を進めていくと、生産性や品質が向上するという、大きなメリットがあるからです。また、同社にはさまざまな障害を持つ方がいらっしゃいますが、分業によって、障害に合わせた取り組みやすい仕事に従事することも可能になります。例えば、名刺の作成であれば、「入力」は聴覚障害者が行い、「裁断」は知的障害者が行なうなど――。同社の整備された仕組みや体制に関して、参加者の皆さんは大変感銘を受けている様子でした。
また、同社は機能会社でありながらも、リクルートグループの一社として、健全な事業運営が求められているそうです。そのため、業務開拓は自社で行うほか、障害者雇用にかかるコストを差し引いて黒字化を目指しているとのこと。業務量・委託料が適切かを検証し、減少している場合には新たな仕事の委託をグループ企業に提案するそうです。当然、営業利益目標を設定し、営業活動も行います。つまり、特例子会社だからといって特別扱いはされず、他のグループ企業と同様、厳しい環境におかれているというのです。この利益追求、業務拡大の姿勢に、参加者の方からは「さすがリクルート」との声も聞かれました。
安心して働くための「制度」「環境」を整備
続いて、同社の人事制度とその運用に関して説明がありました。同社では、障害者も「正社員・フルタイム勤務」を前提に採用しているとのこと。正社員として採用されれば、社員は安定感を得られます。また、同社では健常者も障害者も同じ給与テーブルで、同等に評価されるそうですが、それはやりがいを向上させ、能力のアップにも繋がります。
その他にも、表彰制度や社内イベントなど、組織を活性化するための施策が充実。障害に合わせて、さまざまにオフィス内の設備を工夫するなど、障害者が働くための社内環境も整備されています。今回お話しいただいた、障害者を雇用・活用していく上でのさまざまな取り組みは、参加者の方々が自社で障害者雇用を進めていく上での、大きな参考になったことでしょう。
講演の最後は、「今後の課題」について。先進的な取り組みを行なっている同社ですが、現在、「採用の激化」「事業の変化」「従業員の高齢化」といった課題を抱えているそうです。例えば「採用」に関しては、企業の多くが比較的軽度の障害を持つ方を採用ターゲットとしているため、採用競争が激化しているとのこと。特に、首都圏での競争が激しいそうです。今後は既存事業の地方での展開や、「雇用ありき」で採用した人に見合う仕事を作っていくことなど、新たな展開が必要になってくるということでした。
以上で、1時間におよぶ講演は終了。岩泉氏のユーモアを交えながらのお話は大変わかりやすく、参加された方々が引き込まれていく様子が大変印象的でした。
参加者は障害者雇用をどのように考えているのか
続く第2部では、4~5人ずつ、4チームに分かれてディスカッションを実施。岩泉氏には、ファシリテーターとしてご参加いただきました。ディスカッションのテーマは「自社の障害者雇用・マネジメントには、どのような課題がありますか」と、「その課題を解決するためにどのようにすれば良いと考えていますか」。ディスカッション終了後には、チームごとにディスカッションの内容について発表していただきました。
(以下、発表の内容から一部抜粋)
「障害者雇用を進めていく予定だが、どう始めていけばいいのか悩んでいた。例えば、健常者と障害者が机を並べて仕事することは、現実には大変ではないかと考えていた。しかし、ディスカッションで『障害者の方だけのチームを作ったほうがお互いに気を使いあうこともなく、仕事を進めやすい』などとアドバイスをもらえた。今後の参考にして、障害者の方が仕事をしやすい職場を作っていきたい」
「障害者を雇用していく場合、マニュアルをしっかりと作ることが重要。すると、周囲もフォローすることができ、働く人たちも安心して仕事ができる。会社もバックアップしやすくなる」
「首都圏では、障害者の採用が厳しくなっている。地方の自治体と組んで誘致するなど、新たな仕事の場を作っていくことも重要ではないだろうか」
以上で、2時間に渡る「HRクラブ」は終了。悪天候にもかかわらず、多くの方にご参加いただいき、大変盛り上がった回となりました。これからも素晴らしい学びの場を実現できるよう、事務局一同努力して参りますので、今後の「HRクラブ」にどうぞご期待ください。
【参加者の声】
≪講演の感想≫
- 仕事の切り出し方、利益の追求姿勢など、具体的で勉強になりました。(株式会社ぐるなびサポートアソシエ/工藤 賢治様)
- 当社で今後、障害者雇用を推進していくにあたって、指針となるものを得られたと思います。(株式会社NDS/中尾 真理子様)
≪ディスカッションの感想≫
- 横へのつながり、同じ方向性を持つ者同士が悩みを話し合えるのは、とても良かった。(株式会社VSNビジネスサポート/畠山 裕介様)
- 障害者側、特例子会社側と、さまざまな立場のお話が聞けて良かった。(金融サービス/人事マネジャー)