管理職の不満は、研修が効いた証拠です。
■世代間ギャップに手を打ってきた職場ほど、次の一手が難しくなります
管理職に世代間ギャップの研修を実施したあと、現場からこんな声が届いていないでしょうか。
「なぜ我々ばかりが学ばないといけないのか」
この声を不満として処理している企業と、効果の指標として読んでいる企業では、半年後の打ち手が変わります。そして、両側に配るというのは、研修費を倍にすることではありません。
研修が終わったあと、席を立たずに残っていた受講者からこう言われた、と人事のご担当者から聞くことがあります。
「若手にも、同じことを学ばせてもらえませんか」
同じような声は、終了後のアンケートにも書かれています。
「彼らも、我々から学ぶ必要があるのではないか」
研修の場で、その日のうちに直接言われることもあります。
届く経路は違っても、言葉はほとんど同じです。そのなかで、いちばん強い言い方はこれでした。
「なぜ我々ばかりが学ばないといけないのですか」
この声を、現場の抵抗として受け取っておられないでしょうか。世代間ギャップに手を打ってきた企業で、いま起きていることをお話しします。
■学ばなかった管理職から、この声は出ません。
研修に関心を持たなかった管理職の方から、「なぜ我々ばかりが」という声を聞いたことがありません。私が見てきた範囲では、という限定はつきます。
学んでいないので、日々のやり方を変えていない。変えていないので、負荷もかかっていないからです。
「なぜ我々ばかりが」という声は、研修の当日に出ることもあれば、数か月経ってから届くこともあります。時期は違っても、出どころは同じです。
内容に価値を感じなかった人が、「若手にも学ばせてほしい」と言うことはありません。
「なぜ我々ばかりが」という声を出すのは、学んだ人です。自分のものの見方には偏りがあると知り、部下の反応の理由に思い当たり、翌週からやり方を変えてみた人。
相手に届く言い方を探し、一拍待った人です。そして三か月ほど経つと、ふと思います。これは、いつまで自分だけが続けるのだろうか、と。
「なぜ我々ばかりが学ぶのか」は、学びを拒む声ではありません。学んだ人からしか出てこない声です。
常に知識やスキルの更新を求められる立場に管理職が置かれていることは、数字にも表れています。
産業能率大学総合研究所の『第7回 上場企業の課長に関する実態調査』(2023年)では、従業員300人以上の上場企業の課長級809人のうち44.4パーセントが、コロナ禍前と比べて「知識やスキルの更新が常に求められている」と答えています(「あてはまる」「ややあてはまる」の合計)。
一方、仕事への意欲を尋ねた設問群のうち、肯定的な回答率がもっとも低かったのは「人事諸施策に満足している」で、「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人は4人に1人にとどまります。
(出典:学校法人産業能率大学 総合研究所『第7回 上場企業の課長に関する実態調査』(2023年10月25日公表))
大手企業の管理職の方々は、おおむね知識やスキルの更新を組織から求められているにも関わらず、人事諸施策に満足できない、といった位置にいらっしゃるのかもしれません。
■研修効果は、半年後に出てくる不満の中身に表れます。
そこで、ひとつ提案があります。研修の効果を、当日の満足度だけで測るのをやめてみませんか。満足度は当日の体験を反映します。
半年後の行動まで反映できているかどうかは、また別の話ではないでしょうか。新しい調査は要りません。いつもの1on1やサーベイの自由記述を、次の二つの言い方で読み分けるだけです。
「やっても意味がなかった」「現場を分かっていない」
この形の不満が出ているなら、行動は変わっていません。動かなかった人の不満だからです。
「なぜ我々ばかりが」「若手にもやってほしい」
この形の不満が出ているなら、行動は変わっています。動いた人からしか、この不満は出ません。
同じ「不満あり」という記録でも、中身は正反対です。ところが多くの企業では、この二つが同じ欄に残されているのではないでしょうか。
効果が出ている証拠が、効果が出ていない証拠として保存されてしまうのです。
■上司と部下のどちらか一方だけが歩み寄ると、歩み寄った側が先に折れます。
管理職向けの研修を実施した直後、職場の空気は確かに変わります。ところが半年後、数値も現場の温度も実施前に近いところへ戻っている。両方ご経験の方は、少なくないはずです。
部下向けの書類の書き方研修や、タイムマネジメント研修のように、片側だけで完結する課題であれば、研修前の職場に戻ってしまう現象は起こりづらいものです。
叱り方を変えた、任せ方を変えたといった、相手の受け取り方が変わらないと成立しない課題では、相手に合わせている側にだけ負荷が積み上がります。
そして、負荷を一方に寄せた職場は、寄せられた側=負担を強いられた側から先に折れます。
逆から始めても同じです。伝え方を学んだ若手が試そうとしても、上司が学んでいなければ、その一歩は潰されます。
「そんな理想論はいいから、まずは動いてくれ」
という上司の声に悪意はありません。
そして「この会社の上司はこういう人たちだ」という結論が部下の中で固まれば、辞める理由は少しずつ用意されます。
上司と部下、どちら側から研修を始めても、負荷を強いられた側から壊れる。これが、世代間ギャップを上司と部下のどちらか一方の問題として片づけようとした職場の姿です。
図:折れるのは、負荷が大きい側ではなく、負荷を一方に寄せた側です。学びの配り方を変えるのに、研修費を倍にする必要はありません。
■世代間ギャップをなくそうとするから、負荷が片方に寄ります。
冒頭で紹介した
「若手にも、同じことを学ばせてもらえませんか」
「彼らも、我々から学ぶ必要があるのではないか」
「なぜ我々ばかりが学ばないといけないのですか」
という声のうち、扱いに注意が要るのは「彼らも、我々から学ぶ必要があるのではないか」という声です。
次の研修で若手にだけ学ばせても、負荷の偏りが変わるだけで、相手に合わせる側と合わせられる側がいる配置は残ります。
では、そもそもなぜ負荷が上司か若手のどちらか片側に寄るのでしょうか。世代間ギャップを解消しようとするからだと考えています。
世代間ギャップをなくすには、どちらかが相手に近づく必要があります。そして実際の施策では、近づく役は管理職か部下のどちらか一方に割り振られがちです。
片側荷重は、学びの配分より前に、目的の置き方から始まっているのかもしれません。
世代間ギャップは、なくす対象ではなく、活かし合う対象だと考えています。違いが残ったままでも仕事は前に進みますし、違うからこそ気づける穴もあります。
解くべきは違いそのものではなく、違いの読み違いです。
■研修費を倍にしなくても、配り方は変えられます。
目的を置き換えると、設計も変わります。世代間ギャップを解消するために上司と部下の両側を近づけるのではなく、違いを活かし合うために、上司と部下の双方が相手の見え方を知る。
同じ「両側」でも、狙いが違います。
こう申し上げると、すぐに返ってくる言葉があります。上司と部下の両側に研修を、と言われても、予算は倍にならない、と。
そのとおりで、上司と部下の両側に研修をすることは、研修費を倍にすることではありません。増やすべきは集合研修の日数ではなく、終わったあとの実践に参加する人の範囲です。
管理職が学んだことを職場で試し、数か月後に持ち寄って振り返る。その場に、部下が入っている。回によっては、若手が主役として自分の実践を持ち込む。
集合の日数は同じままですが、増えるものはあります。若手が参画する時間です。
ただし、片側に積み続けた場合に失われる時間との比較になります。
ただし、すべての回に同席させる必要はありません。上司だけで話す回を先に置き、実践が動きはじめてから部下が入る。順番を逆にすると、上司が本音を出しにくい場になります。
■同じテーブルで、お互いの見え方を開く。
世代間ギャップに上司と部下の両側から手を打った企業で、上司と部下が同じテーブルにつく場を、期の途中に一度だけ設けました。
別々に答えた結果を突き合わせた一枚を、お互いに開いて見せ合います。
印象や相性の話ではなく、それぞれの思考・行動のクセが言葉になって並んでいます。
ある部下の方が、自分の結果の一箇所を指してこう言いました。
「私は、起こりうる障害や懸念点を明確にしておかないと動きにくいんです」
向かいに座っていた上司が、少し黙ってから答えました。
「ごめん、単にマイナス思考だと決めつけてた」
この一往復のあとから、仕事の任せ方が変わります。
上司はこの部下に、計画の穴を先に洗い出す役を任せるようになりました。
懸念を先に挙げる進め方をやめてもらったわけではありません。
変わったのは、その部下の得意分野の活かし方です。結果として、部下からの提案は増え、同じ指示も前より通るようになります。
最後に、自社だけで試せることをお伝えします。直近二年の世代間ギャップ施策を、対象者別に数えてみてください。管理職に何回、若手に何回。
おそらく、きれいには割れていないはずです。そのうえで、前回の施策が戻ったとき、戻す力がどちら側から来たかを書き添えてください。
上司が施策を続けられずに元の職場のように戻ってしまったのか、部下の反応が変わらないまま元の職場のように戻ってしまったのか。
ここに、次に研修を行うべき対象が反映されています。
あとは、実践の場に誰をどの順で入れるかという一点です。来期の研修を上司と部下のどちら側に当てるかを稟議に書く前に、この二つを並べてみてください。並べてみて判断がつかない場合は、その状態のままご相談ください。
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このコラムを書いたプロフェッショナル
高村 幸治
株式会社エナジーソース 代表取締役/モチベーションコンサルタント(プログラム開発責任者)/iWAM(R)プロフェッショナルズ認定 iWAM(R)マスタートレーナー(国内11名/2026年6月時点)
「動かす」より、「動きたくなる」を。大手企業を中心に育成に携わる。経営コンサルティング会社で10年の研鑽を経て2011年に独立。年間100社超に登壇し、10数社と長期契約、キャンセル待ちが続く―“また呼ばれる”ことが成果の証明です。
高村 幸治
株式会社エナジーソース 代表取締役/モチベーションコンサルタント(プログラム開発責任者)/iWAM(R)プロフェッショナルズ認定 iWAM(R)マスタートレーナー(国内11名/2026年6月時点)
「動かす」より、「動きたくなる」を。大手企業を中心に育成に携わる。経営コンサルティング会社で10年の研鑽を経て2011年に独立。年間100社超に登壇し、10数社と長期契約、キャンセル待ちが続く―“また呼ばれる”ことが成果の証明です。
「動かす」より、「動きたくなる」を。大手企業を中心に育成に携わる。経営コンサルティング会社で10年の研鑽を経て2011年に独立。年間100社超に登壇し、10数社と長期契約、キャンセル待ちが続く―“また呼ばれる”ことが成果の証明です。
| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、マネジメント、チームビルディング、コミュニケーション |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
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