あの人はなぜ停滞しているのか。原因の見極めと具体策の発見
「最近、期待のメンバーがなんだか停滞している」「目標を与えても、どこか他人事のようにしか動いてくれない」。 こうした悩みを抱え、現場で孤軍奮闘されているマネージャーの方は非常に多いのではないでしょうか。
また、人事部門の皆様からも、「悩むマネージャーたちに、精神論ではない、具体的で的確な支援やアドバイスを送りたい」というご相談をよくいただきます。
こうしたマネジメントの難しさの根本には、「部下の心の中(やる気や自信)は目に見えない」というもどかしさがあります。 見えないからこそ、「やる気がない」「メンタルが弱い」と個人の性格や資質のせいにして片付けがちになり、結果としてピントのずれたコミュニケーションを繰り返してしまうのです。
メンバーを停滞から救い出し、再び主体的な一歩を踏み出させるために。今回は、見えない心の状態を科学的に見極め、周囲からの具体的な関わり・環境づくりの仮説を導き出すポジティブ心理学のフレームワーク「心理的資本(HERO)」をご紹介します。
1. 停滞を「性格」に帰着させない。心のエンジンを動かす「燃料」と「環境」
「心理的資本(PsyCap)」とは、前向きに行動し、目標に向かってやり抜くための「心のエンジン(エネルギー)」のことです。 ビジネスの現場において、知識やスキルといった「人的資本」、人脈や信頼関係といった「社会関係資本」がどれだけ揃っていても、それを使いこなす本人の心のエンジンが動いていなければ、成果は生まれません。
ここでマネジメント上、極めて重要な前提があります。それは、「心理的資本は固定された性格ではなく、周囲の環境や関わり方によって後天的に開発・変動する『状態』である」という点です。
つまり、部下の停滞(心の燃料切れ)は本人の内面の問題であると同時に、「周囲からの支援や職場環境のあり方に何らかの課題がある」という組織側の課題を映し出す鏡(シグナル)でもあります。 部下個人の内面の揺らぎを観察する「虫の目」だけでなく、彼らを取り巻く環境や関わり方に目を向ける「鳥の目」をハイブリッドに持つこと。心理的資本(HERO)のフレームは悩めるマネージャーを助ける、極めて現実的で効果的なアプローチなのです。
2. 「HEROのメガネ」で部下の状態と環境の課題を可視化する
心のエンジンを動かす4つの燃料は、それぞれの頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。 これら4つの視点から、部下の「内面の揺らぎ(原因)」と、周囲が打つべき「環境・関わりのアプローチ(対策)」の一例を見てみましょう。
【H】Hope(意志と経路の力):目標と到達ルートの仮説
- 部下の内面: 目標への「到達ルート(経路)」が見えず、「もう手立てがない」と行き止まり感を感じて立ち止まっているかもしれません。
- 周囲のアプローチ: 単に目標を押し付けるのではなく、本人の「ありたい姿(意志:Will)」と紐づけ直します。さらに、目標を確実にクリアできるスモールステップに分解し、「AプランがダメならBプラン」という代替経路(Way)を一緒に書き出すなど、環境側から経路探索をサポートすることができます。
【E】Efficacy(自信と信頼の力):役割とフィードバックの仮説
- 部下の内面: 課題を過大評価し、失敗を恐れて「自分には無理だ」と現状維持に逃げ込んでいるかもしれません。
- 周囲のアプローチ: 「自信を持て」と精神論をぶつけるのではなく、本人が「自分の行動が役に立っている実感」を職場環境から得られているかを疑います。 対策として、具体的な事実に基づく肯定的なフィードバックを伝える機会を意図的に作ります。また、身近な先輩が泥臭く工夫して乗り越えたプロセスを共有できる関係性やピア・ラーニングの場を整えることも非常に有効なサポートです。
【R】Resilience(乗り越える力):孤立とサポート体制の仮説
- 部下の内面: 失敗やトラブルのネガティブな感情に飲み込まれ、心が折れかけているかもしれません。
- 周囲のアプローチ: 「打たれ弱い人だ」と片付ける前に、「一人で抱え込んで孤立していないか」を疑ってみてください。 対策として、本人の強みや経験といった「資産」を棚卸しし、「周囲の力を借りることもリソースなんだよ」と伝えて、チーム全体でフォローするサポート体制の認識を促すこともできます。
【O】Optimism(柔軟な楽観力):コントロールの境界線と機会探索の仮説
- 部下の内面: 急な環境変化やトラブルに直面し、「一生このままでは」「すべてのことがうまくいかない」と悲観の連鎖に陥っているかもしれません。
- 周囲のアプローチ: 本人が不満や不安に囚われている時、マネージャーは相手の視点を「変えられないもの」から「変えられるもの」へと誘導する関わりが必要です。 対策として、「会社の方針やトラブル(コントロール不能)」と、「その枠組みの中で、自分たちで工夫できること(コントロール可能)」を頭の中で切り分けさせます。その上で、「この厳しい状況の中に、何か一つでもチャンスを見つけるとしたら何だろう?」と問いかけることができます。
3. 人事と現場マネージャーが二人三脚でつくる「HEROが育つ職場」
部下の心の中が見えないからこそ、マネージャーは「何が正解かわからない」と孤独な戦いに陥りがちです。 しかし、アプローチの対象が相手の変えられない性格から職場の環境や具体的な支援へとシフトすれば、マネージャーが打てる手立てはぐっと明確になり、現場の焦りや肩の荷も下りるはずです。
人事部門の皆様におかれては、この「HERO」という科学的なフレームワークを現場マネージャーに共通言語として提供し、「まずは環境や関わり方に仮説を持ってみよう」と対話を促すことで、現場任せにしない、組織的なメンバー育成の仕組みを構築することができます。
現場のマネージャー、そして人事部門が二人三脚で、人材の停滞対策ができる体制の共通言語として、心理的資本(HERO)にご注目ください。
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このコラムを書いたプロフェッショナル
小西ちひろ
株式会社Be&Do ソリューション・パートナー
前向きな行動を促す「心理的資本(サイコロジカルキャピタル)」の開発手法を用いた、人・組織の活性化支援しています。国家資格キャリアコンサルタント。
小西ちひろ
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前向きな行動を促す「心理的資本(サイコロジカルキャピタル)」の開発手法を用いた、人・組織の活性化支援しています。国家資格キャリアコンサルタント。
| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、マネジメント、チームビルディング、コミュニケーション |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 大阪市北区 |
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