映画『オデュッセイア』からオペラ『エレクトラ』へ
劇場には人が何を求め、何に縛られ、どう変わっていくのかが凝縮されています。
このシリーズでは作品の解説にとどまらず、物語や音楽、舞台表現を入口に人や組織について考えてみます。
人はいかに学び、変わるのか。
人と人は、いかに関わり合うのか。
組織の「らしさ」は、どこから生まれるのか。
主人公が出てこない?不在の人が動かす物語
9月11日、クリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』が公開されます。
題材は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』。トロイア戦争を終えた英雄オデュッセウスが、故郷イタカへ帰るまでの長い旅を描いた物語です。
そして9月13日から14日にかけて、新国立劇場で今年上演されたリヒャルト・シュトラウス『エレクトラ』がNHKで放送されます。筆者も観劇しましたが約1時間45分の上演中、ほぼ舞台に立ち続けるエレクトラ役の歌手にはその歌唱はもちろん、極度の緊張を保ちながら一人の人物を演じ続ける集中力と身体性にまず敬意を抱きました。舞台を観ながらもう一つ強く感じたのは「その場にいない人」がこれほどまでに人を動かし続けるのか、ということでした。
実は、この二つの作品は同じ世界につながっています。
エレクトラの父アガメムノンは、オデュッセウスとともにトロイア戦争を戦った英雄でした。
しかし、故郷へ帰ったアガメムノンは、妻クリテムネストラとその情夫エギストによって殺されます。
父を殺された娘エレクトラは、その復讐を支えに生きていきます。
舞台にいない父が、音楽として存在する
『エレクトラ』を鑑賞するうえで興味深かったのが「ライトモチーフ(Leitmotif/示導動機)」です。
これは特定の人物や感情などと結びついた音楽的なモチーフが、繰り返し現れる手法で映画なら『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーと「帝国のマーチ」を思い浮かべると分かりやすいと思います。
こうした方法は舞台芸術や映画のさまざまな場面で見られます。
筆者は無声映画も好きで、よく活弁(活動弁士)を聞きに行くのですが、人物や場面に応じて三味線など伴奏音楽を効果的に使うことで、観客の気持ちを動かします。
『エレクトラ』では父アガメムノンと結びついた音楽的モチーフが重要な役割を果たします。特に印象的なのは冒頭で、父はすでに亡くなっている舞台にはいません(この作品の中に登場はしません)。それでも音楽により、舞台上に存在しているのです。
そこにいない人物を音楽によって存在させるとはとても興味深いことです。「いない人」が物語を動かすのですから。
考えてみれば、物語では「そこにいない人物」が中心になることがあります。
例えば映画化もされた『桐島、部活やめるってよ』朝井リョウ(2010年)もそうでしょう。桐島本人は作品に直接登場せず、その人物像は伝聞によってのみ言及されます。それでも彼が部活をやめたことで周囲の人間関係や序列が揺らぎ、それぞれの姿が浮かび上がります。
『エレクトラ』のアガメムノンも舞台にはいませんがエレクトラの記憶、執着、復讐の中心に存在します。
不在だからこそ、存在が際立つ
実はこれは、組織にもいえる考え方です。
創業者の理念。
かつてのリーダーの言葉。
過去の成功体験。
言葉になっていない判断基準。
本人がいなくなった後もそれらは残り、人々の判断や行動に影響を与え続けます。
そう考えると、組織にも一種の「ライトモチーフ」があるのかもしれません。
それは目には見えないものの、何かを判断するとき、行動するとき、繰り返し現れてくる明文化されていない価値基準です。
そして、その積み重ねが組織の「らしさ」をつくっていく。
ただし、受け継いできたものがいつまでも未来にとって望ましいとは限りませんので注意が必要です。
『エレクトラ』では、父の記憶が主人公を支える一方で、復讐の連鎖から離れられなくする呪いにもなっています。
組織でも長年大切にしてきた価値観が強みになる一方、過去の成功体験が変化を妨げることがあります。
だからこそ、問われるのです。
何を受け継ぎ、何を手放すか
『オデュッセイア』と『エレクトラ』は2800年前の物語ですがいまも繰り返し語られるのは、そこに現代にも通じる問いがあるからではないでしょうか。
私たちは、過去からさまざまなものを受け継いで生きています。
家族・組織・社会……
受け継いだものを、そのまま次へ渡すのか。
それとも、何かを残し、何かを手放すのか。
古代ギリシャの物語を入口に、いまの自分や組織について少し考えてみる。
何を受け継ぎ、何を手放し、未来へつないでいくのか。
そんな問いを持ちながら劇場に足を運ぶのも、面白いのではないでしょうか。
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このコラムを書いたプロフェッショナル
小平達也
株式会社グローバル人材戦略研究所
人材育成・組織開発の専門家として対話型プログラムを多数開発。組織の関わり合いを無形資産として捉えエンゲージメントと組織活力の向上を行っている。政府有識者・大学講師ほか経団連グローバル人材育成スカラーシップ設立時から一貫して支援している。
小平達也
株式会社グローバル人材戦略研究所
人材育成・組織開発の専門家として対話型プログラムを多数開発。組織の関わり合いを無形資産として捉えエンゲージメントと組織活力の向上を行っている。政府有識者・大学講師ほか経団連グローバル人材育成スカラーシップ設立時から一貫して支援している。
人材育成・組織開発の専門家として対話型プログラムを多数開発。組織の関わり合いを無形資産として捉えエンゲージメントと組織活力の向上を行っている。政府有識者・大学講師ほか経団連グローバル人材育成スカラーシップ設立時から一貫して支援している。
| 得意分野 | 経営戦略・経営管理、モチベーション・組織活性化、グローバル、リーダーシップ、マネジメント |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
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