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戦略人事を「絵に描いた餅」で終わらせないために――管理職の「引き出し」を増やし、組織の実行力を高める「攻め」のハラスメント対策

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多くの企業が「戦略人事」を掲げ、変革に取り組んでいますが、どれほど高尚な戦略を描いても、現場での実行が伴わず、組織が変わらないというジレンマに陥るケースもあります。その要因の一つとして、現場の結節点である管理職の疲弊や、ハラスメントリスクへの過度な萎縮が挙げられます。ハラスメント対策は「守り」の施策と捉えられがちですが、「管理職の『引き出し』を増やすことこそが本質的な解決策であり、組織を強くする」と説くのが、有限会社グローイングの平井俊宏さん。戦略人事を実現するための「上司と部下の関係構築」や、人事部門が果たすべき役割についてうかがいました。

Profile
平井 俊宏さん
平井 俊宏さん
有限会社グローイング 代表取締役社長/Web適性検査「パワハラ傾向振り返りシート」共同開発者

ひらい としひろ/Web適性検査「パワハラ傾向振り返りシート」を共同開発。250社70,000名以上(半数は上場・上場関連会社)の役員・管理職が受検する。検査提供と合わせてマネジメント力強化の文脈でパワハラ予防意識を醸成する「自分理解研修」やエグゼクティブコーチングを提供。研修効果によるリピートクライアントも多数。

戦略人事の成否を握る上司と部下の信頼関係

戦略人事の実現に向けて、どのような点を課題と捉えていますか。

経営戦略や人事戦略を実現していく上で、施策を有効に機能させるための鍵は、現場の「上司と部下の関係」です。上司が施策とその意図を深く理解していることはもちろん、それ以上に重要なのは、部下との間に信頼関係を構築できているかどうか。部下の状況や能力に応じた適切なタスクの割り当てや、的確な指示と指導が行われて初めて、戦略が現場の動きとなって具現化します。

組織の最小単位である上司と部下の関係が健全に機能していなければ、戦略人事は単なるコンセプトやスローガンで終わってしまいかねません。人的資本経営におけるエンゲージメント向上施策であれ、社内活性化や離職防止等を目的とした感謝や承認を促す仕組みであれ、すべての土台は現場のコミュニケーションなのです。

「指導とパワーハラスメントとの境界線が分からない」と悩み、萎縮してしまう人もいると聞きます。

上司と部下の信頼関係を構築する上で、パワーハラスメントは当然あってはなりません。戦略実行における最大の阻害要因です。ハラスメントが存在する職場では、部下の心理的安全性は損なわれ、組織のパフォーマンスは著しく低下します。

ハラスメント対策というと、コンプライアンス遵守の文脈で語られることが多いのですが、私は「戦略人事を完遂するための土台づくり」と捉えています。

上司としてのやりがいや腕の見せ所は、一筋縄ではいかない部下や状況に対し、「あの手でダメならこの手でいこう」と、さまざまなアプローチを試みることにあるはずです。しかし、無意識のうちに、自分自身の成功体験や固定観念に基づいた「ワンパターンな働きかけ」に終わってしまう上司が少なくありません。上司が持つ「正解」や「やり方」について十分な指導や指示をしていないのに、実行できない部下に対して「なぜできないんだ?」と他責にする上司の姿は多くの組織でまま見受けられます。

誰しも、仕事をする上で譲れないこだわりや価値観があります。業務を処理するスピードなのか、アウトプットの質なのか、丁寧なプロセスなのか、あるいは頻繁な報告か。上司と部下との間で、「何を大切にしているのか」「なぜ大切にしているのか」というコンセンサスがとれていないケースが非常に多いと感じます。上司が部下に「これやっておいて」「いい感じで頼む」と投げるだけで、期待値のすり合わせをしていないのです。これでは、上司と部下、あるいは世代間でコミュニケーションの食い違いが生じるのは必然でしょう。

当社が実施する研修では、同じ部門の同僚同士で、お互いの「仕事で大事にしていること」を当て合うワークがあります。「目標達成意欲」や「コミュニケーション力」など、いくつかのコンピテンシー項目の中から、相手が何を優先しているかを選ぶ形式ですが、毎日顔を合わせている関係でも、意外と当てることができません。

「ミスをしてはいけないから慎重に時間をかけるべきだ」と考えて2時間かけて資料を作った部下に対して、上司は「30分でざっと方向性を口頭で確認したかった」と思っているのかもしれません。あるいは、指摘を受けた際に「自分の考えをしっかりと伝えなければ」と思って「でも……」と主張しようとした部下に対し、上司は「まずは素直に話を聞いてほしい」と不満を抱くかもしれません。

「期待と行動のズレ」が積み重なることで、上司は部下を「仕事ができない」「やる気がない」と決めつけ、厳しい叱責へとつながっていくリスクがあります。まずは背景にあるお互いの価値観、「リスペクト」の対象となる部分を理解し合うコミュニケーションが必要です。

平井俊宏さん インタビューの様子

外部の正解ではなく、組織の「内側の文脈」に解を求める

現場の管理職が萎縮せず、かつ適切な指導ができるように、人事部門はどのように支援すべきでしょうか。

ハラスメント研修というと、法律の知識や過去の判例、あるいは「これを言ってはいけない」というNGワード集など、「外側の情報」をインプットすることに終始しがちです。しかし、ハラスメントの問題は、その企業の風土や人間関係、業務の特性といった「内側の文脈」から発生しています。人事部門が行うべき支援は、外部から借りてきた正解を教えることではなく、社内にある「知恵」や「工夫」を引き出し、共有する場を作ることです。

社内を見渡せば、それぞれの管理職が、リソースが限られる厳しい事業環境の中で悩みながらも、多様な特性を持つ部下について、それぞれの視点で工夫をしつつ、コミュニケーションをとっているはず。「あの手でダメなら、この手でいこう」という部下への指示や指導上の引き出しを豊富に持てるよう、それぞれの管理職が持つ視点や工夫を組織全体にシェアすることで、マネジメント能力や部下指導スキルの底上げが可能になります。

当社の研修では実際の現場で起こりうる生々しいケーススタディを扱います。例えば、「生産技術の現場でその場しのぎの対応ばかりする部下に、どのように指導するか」といった具体的なシチュエーションに対し、参加者全員で「自分ならどうするか」を出し合います。

すると、「まず理由を聞く」「一緒に現場を見に行く」「あえて失敗させて気づかせる」など、多様なアプローチが出てきます。一つの正解があるわけではありません。重要なのは、「そんなやり方があったのか」と、他者の視点を取り入れ、自分の手持ちのカードを増やすこと。これが組織の「内側の文脈」に沿った支援であり、管理職の孤独感を解消し、マネジメント能力を底上げするために効果的です。

いわゆる「無自覚なハラスメント予備軍」に対しては、どのように気づきを促すのでしょうか。

ハラスメント行為者の約半数は、自分が行為者であるという自覚がないと言われています。そこで有効なのが、客観的なデータによる振り返りです。

当社の「パワハラ傾向振り返りシート」は、累計15万人以上の受検データに基づき、ハラスメントを起こしやすい人に共通する行動特性を六つの指標で可視化しています。特徴的なのは、検査項目の中にハラスメントを直接想起させる質問が一切含まれていないことです。

一般的な適性検査では、「私は社交的だ」といった設問に対し「当てはまる」から「当てはまらない」の5択などで回答させるリカートスケール形式が多く見受けられますが、自分を良く見せようとするバイアスがかかりやすくなります。一方、当社の検査では、「目標を達成する」と「周囲と協調する」のように、全くベクトルの異なる二つの肯定的な行動を提示し、どちらが自分の普段の行動に近いかを選びます。正解・不正解はありませんが、その人の価値観が色濃く反映され、「目標達成意識が強すぎて、他者への配慮が欠落しやすいリスクがある」といった潜在的な傾向が浮き彫りになるのです。

【図】個人結果シート(自己理解版)とパワハラ傾向振り返りシート

最も避けるべきは、管理職が孤立し、自分のやり方に固執すること。互いにけん制し合い、かつ相談し合える「横のつながり」を作ることが、組織ぐるみの予防策となります。そのため、検査の結果を本人にフィードバックするだけでなく、研修の参加者同士で見せ合うこともしています。すると、和気あいあいとした雰囲気の中で、「意外と協調性のスコアが低いですね」「いや、普段の君の言動を見ていると納得だよ」といった会話が生まれます。互いの特性やリスクを知っておくことで、職場に戻った後も「目標達成に偏りすぎていないか?」「今の言い方はちょっとキツかったかも」と、相互に指摘し合える土壌が育まれます。

パワハラ対策を「マネジメントの学び」に変える

ハラスメント対策を「より良いマネジメントの探求」へと昇華させる視点は、非常に示唆に富んでいます。

パワハラの線引きで悩み、委縮してビジネスを止めてしまうのは、組織にとって非常に大きな損失です。パワハラかどうかを最終的に判断するのは司法の場であり、現場で白黒つけようとしても答えは出ません。ならば、「パワハラと受け取られるリスクがあるなら、さっさとやり方を変えよう」と切り替える方が建設的でしょう。そのために「引き出し」を増やさなければなりません。

パワハラという事象を入り口にしていますが、求められるのは「どうすれば人は動くのか」「どうすれば組織の成果が最大化するか」という、マネジメントの本質的な視点です。

ハラスメントへの関心が高まっている今こそ、単なるリスク管理の問題として終わらせず、管理職が自らのマネジメントスタイルを見直し、組織全体のマネジメント力を強化する絶好の機会と捉えるべきです。

ハラスメント予防に「魔法の杖」はありません。事業環境が変われば、求められる行動も変わり、それに伴って新たなリスクも生まれます。かつては許容された指導方法が、時代や社会環境が変われば、不適切な圧力とみなされることもあります。

自分自身を客観的に振り返る機会を定期的に持つこと、そして組織全体で「指摘し合い、知恵を出し合える風土」を醸成し続けることが重要です。人事部門の皆さんに期待したいのは、管理職を監視し、ルールで縛ることではありません。管理職が抱える悩みに寄り添い、「あの手でダメならこの手」を見つけるための支援を行うことです。管理職が豊富な「引き出し」を持ち、自信を持って部下と向き合えるようになれば、必ず組織の実行力向上につながります。

ハラスメント対策という「守り」の施策を、組織開発や人材育成という「攻め」の施策へと転換させる。それこそが、戦略人事を実現に導く鍵となるはずです。

平井俊宏さん(有限会社グローイング 代表取締役社長/Web適性検査「パワハラ傾向振り返りシート」共同開発者)
会社概要

「15年以上の適性検査開発・販売経験、研修提供経験に基づき、御社のご状況やニーズに即したWeb適性検査「パワハラ傾向振り返りシート」のご導入をお手伝いします。」パワーハラスメントは会社にも被害者にも、そして加害者にも深い傷を残しかねない、解決すべき経営課題です。Web適性検査「パワハラ傾向振り返りシート」による気づきでパワーハラスメント予防はもちろん、管理職のマネジメント力強化のお役に立てましたら幸いです。お気軽にご相談ください。

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