1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間のインターバルを設ける「勤務間インターバル制度」。働く人たちが、日々必ず一定の休息時間を取れるようにするこの制度は、導入企業にどのようなメリットをもたらしているのでしょうか。清涼飲料水などの製造・販売を行うコカ・コーラ ボトラーズジャパン 労務部の埜崎景子さんに、人材マネジメントで深い知見を持つ経済学者の今野浩一郎さんが聞きました。

- 埜崎 景子(のざき けいこ)さん
- コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
人事・総務本部 労務部 労務課 課長
外資系企業での経験を経て、2024年に九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻を修了。経営戦略や人材マネジメントを体系的に学び、理論と実務の融合に取り組む。同年、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社に入社。働き方改革を推進し、労働時間・休日・休暇制度の高度化を通じ、働き方の選択肢拡大に積極的に取り組んでいる。

- 今野 浩一郎(いまの こういちろう)さん
- 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長
1973年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て1992年学習院大学経済学部経営学科教授。2017年から現職。『同一労働同一賃金を活かす人事管理』『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)など著書多数。
生産性と業務品質を高めるため、勤務間インターバル制度を導入
今野:勤務間インターバル制度は、「日々働くにあたって、必ず一定の休息時間を確保する」という考え方にもとづいた仕組みです。具体的には、勤務終了後、翌日の勤務開始までの間に一定時間の休息(インターバル)を設け、労働者の生活時間や睡眠時間を確保します。コカ・コーラ ボトラーズジャパンは、なぜ勤務間インターバル制度を導入したのでしょうか。
埜崎:働き方改革に取り組んだことが、大きなきっかけでした。私たちが働き方改革を推進する目的は、多様な社員一人ひとりが能力を最大限に発揮することで、生産性とパフォーマンスを高めることにあります。社員が自律的にワークライフバランスに取り組むことで、心身ともに健康で、働きがいをもって活躍できる職場環境の実現を目指しています。その手法の一つとして、2020年1月に勤務間インターバル制度を導入しました。
今野:働き方改革を推進する手法はいろいろとあります。勤務間インターバル制度について、多様な働き方の推進や、生産性と業務品質の向上とは遠いイメージを持つ人もいます。なぜ、勤務間インターバル制度を選んだのですか。

埜崎:会社と社員が持続的に成長し続けるためには、社員が心身ともに健康で、働きがいをもって活躍できる職場環境を整え、ウェルビーイングを推進することが必要だと考えています。そして、しっかりとしたパフォーマンスを発揮するには、しっかりと休むことも重要です。どんな部署でも、日々働く中で、どうしても残業をしなければならないことがあります。突発的な対応ならばともかく、残業が続くと後々のパフォーマンスに影響しますし、「残業で対応すればいい」という発想にもなります。
「しっかり働くために、しっかり休む」という考え方を根付かせるため、勤務間インターバル制度を導入し、就業規則にも明記しました。この制度の浸透を通じて、全社員の意識を変えていきたいという思いがありました。
今野:「しっかり働くために、しっかり休む」。とても良いフレーズですね。一方で、「しっかりと休むためなら、残業時間を減らせばいいのではないか」といった考え方もあります。製造現場の交代制などで、すでに十分なインターバルが確保できている場合、わざわざ制度として導入する必要はない、という見方ですね。
埜崎:おっしゃる通りで、当社の製造現場は三交代制勤務を採用しており、十分なインターバルはこれまでも確保できていました。また、残業を事前申請制としており、残業削減への意識も高まっています。
一方で、働き方改革を推進する前からコアタイムなしのフレックスタイムを設けるなど、働き方の裁量を一人ひとりに委ねていたため、働きすぎてしまう社員もいました。「しっかり働くために、しっかり休む」を実現するためには、管理職によるワークライフマネジメントをするだけでなく、社員自身がインターバル確保の重要性を意識する必要があったのです。これも、勤務間インターバル制度を導入した理由の一つです。
各事業部門のHRビジネスパートナー(HRBP)と労働組合の協力を得て浸透を加速
今野:どんな制度でも、新たに導入するのは簡単ではありません。勤務間インターバル制度を導入する際は、どのようなことに留意しましたか。
埜崎:とにかく周知の徹底に努めました。当社は社員数が14,000人を超え、日本国内に17の工場と約300ヵ所の営業拠点があります。製造部門、営業部門、バックオフィス部門など職種も多岐にわたるため、制度を導入したからといってすぐに浸透するわけではありません。社内SNSを活用して継続的に情報を発信したほか、管理職を通じて現場の実情に合わせて説明するなど、地道な取り組みを続けました。
また、出退勤時刻を確実に記録できる環境整備にも力を注ぎました。出退勤時刻が曖昧だと、勤務間インターバルを確保できているかどうかがわからなくなるからです。工場など建屋で勤務する社員は打刻機を使用します。在宅勤務やサテライトオフィス勤務、ワーケーションなどの場合は、配布したスマートフォンのアプリを使って出退勤時刻を記録し、勤怠管理システム上で労働時間を可視化しています。

今野:勤務間インターバル制度は、就業規則にも明記したそうですが、労働組合との協議はいかがでしたか。
埜崎:勤務間インターバル制度の導入を準備していた2019年は、働き方改革関連法の施行によって残業時間の上限が設けられた年です。長時間労働への対応が社会的な課題となっていたこともあり、労働組合とは「長時間労働によって事故が起きないよう、未然防止策に取り組みたい」と意見が一致し、話し合いはスムーズに進みました。
労働組合との協議は難航すると思われがちですが、勤務間インターバル制度の導入には非常に協力的で、制度の周知活動にも積極的に関わってもらえました。会社からだけでなく労働組合からも伝えることで、浸透が進みやすくなった面もあると思います。
今野:非組合員の社員に対しては、どう伝えましたか。
埜崎:労務部からのメッセージ配信に加えて、SHRBP(Strategic Human Resource Business Partner)からもフォローを行いました。当社は各部門の事業責任者と連携して事業部門が直面する課題を人事施策につなげてともに解決を図る伴走者として、人事・総務本部内にSHRBPを設置しています。戦略的パートナーとして、人事課題に関するコンサルタントとしての役割を担っていますが、新たな人事施策を展開するときは、現場への周知や説明を担う重要な役回りを果たしています。
中小企業における制度導入事例を見る(「勤務間インターバル制度導入促進シンポジウム」動画)
経営戦略に関連づけて、制度の意義をストーリーで説明
今野:私は、人事制度は会社から社員に対するメッセージだと思っています。勤務間インターバル制度で言えば、「休息時間とは、1日の24時間から労働時間を引いた『残りの時間』ではない」「休息時間そのものに価値があり、意味があるのだ」というメッセージだと考えています。社員にどのように伝え、浸透させていますか。
埜崎:勤務間インターバル制度は、当社にとって初めての取り組みだったので、「繁忙期など、インターバルを確保できないときはどうすればいいのか」といった疑問を持つ社員もいたと思います。「働き方や休み方はこうあるべき」と伝えるだけでは、理想論と受け止められてなかなか浸透しません。
そのため、「社員一人ひとりが自らの『ワーク』と『ライフ』を主体的に選択し、最大限の能力を発揮する」というメッセージを、人事戦略や経営戦略と関連づけながらストーリーとして伝えることを大切にしています。そうすることで、社員は「だから十分なインターバル時間の確保が必要なのか」と腹落ちし、制度を日々の勤務で活用できます。SHRBPや労働組合と協力しながら、各現場の職場環境、各社員の働き方に合わせて、より具体的なイメージができるよう、ストーリーを伝えるようにしています。
今野:新卒や中途入社の社員に対しては、どのように伝えているのですか。
埜崎:既存社員への説明と同じように、経営戦略や人事戦略と結びつけて説明しています。入社したばかりの段階で制度の説明だけに留めると、「使うか使わないか」にフォーカスしてしまいます。そうならないためにも、まず当社が目指す方向性を理解してもらった上で、「勤務間インターバルを確保する必要がある」と必ず伝えるようにしています。
労務管理のリテラシーが向上し、採用でも高い成果を
今野:2020年1月に勤務間インターバル制度を導入して、丸6年が経過しています。社員の行動や意識には、どのような変化がありましたか。
埜崎:勤務間インターバル制度の導入だけでなく、働き方改革のさまざまな取り組みによって、ワークライフマネジメントに関するリテラシーは着実に向上しています。以前の労務課への問い合わせは、「制度がわからないから教えてください」など漠然としたものが多かったのですが、今は「チームメンバーが困っているのですが、こういう対応で合っていますか」など、実践的な質問が増えています。
また、管理職の意識向上により、社員一人ひとりの多様な働き方を、より実効性をもって支援できる体制が整ってきたと感じています。例えば、身内の介護に直面した人のうち約10%が、半年から1年以内に退職を申し出ているという調査結果があります。この数字が示唆しているのは、「突発的な介護・看護に対する事前準備の不足、初期段階における精神的ショックや焦燥感、利用可能な制度や支援策へのアクセス不足」といった複合的な要因です。
当社では、多様な働き方の推進を人事戦略の重要テーマに位置づけています。介護のような予期せぬライフイベントに直面した場合でも、キャリアを中断することなく継続できるよう、管理職が個別事情に応じた働き方を設計・調整しています。
こうした取り組みは、人事部門だけで完結するものではありません。現場の管理職、そして社員一人ひとりが当事者意識を持つことで、相互に支え合える環境が醸成されつつあります。結果として、「ライフイベントとキャリアの両立」を実現できる組織基盤の強化につながっています。

今野:社員全体の意識の変化は、社員エンゲージメントにも影響を及ぼしていますか。
埜崎:はい、良い影響を及ぼしています。昨年、エンゲージメントサーベイを刷新し、社員のモチベーションや会社への愛着、仕事へのやりがい、上司や職場環境への意識などを測定し、組織の状態を可視化して改善につなげる活動を全社で開始しました。サーベイ結果に基づいて各部門が改善アクションの立案と実行を行う仕組みを整えたことで、結果として社員エンゲージメント向上にもつながっています。
今野:一人ひとりの思いに応えていくことは、さらなるエンゲージメント向上、パフォーマンス向上につながっていくのだと感じました。
採用面での影響はいかがですか。勤務間インターバル制度を導入していることは、求職者にどのような印象を与えているのでしょうか。
埜崎:勤務間インターバル制度だけでなく、入社後の働き方を具体的にイメージできるよう、実際の運用例を交えて説明した結果、明らかに求職者の満足度が向上しました。「しっかり働くために、しっかり休む」をどのように実現しているのかを、説明会や採用面接で人事制度の観点から丁寧に伝えることが、結果として人材確保につながっているのだと思います。
「形から入らず、“なぜ”から入る」が勤務間インターバル制度を成功に導くカギ
今野:先ほど、労務管理のリテラシーが全体的に上がっているとおっしゃいました。この変化は、勤務間インターバル制度を導入した目的でもある「しっかり働くために、しっかり休む」意識にもつながるのでしょうか。
埜崎:手応えはあります。忙しいとき、休息時間が減るのは仕方がないと考える社員がいるかもしれませんが、短期的にはうまくいっても、働き過ぎで体を壊すようなことがあっては元も子もありません。私も、勤務間インターバル制度が導入されたことで、最も生産性が高く成果が出せる働き方を実現させるには、休むことも必要だと、あらためて感じています。
今野:きちんと休まずに睡眠不足だと、いい仕事はできませんよね。昔、受験勉強は「四当五落」といって、睡眠時間を4時間まで削ると合格できると言われていたので、私も試してみましたが、全く勉強が進まなくてすぐにやめました。多くの研究で、高いパフォーマンスを発揮するには十分な睡眠時間を確保する必要があるとされています。

埜崎:勤務間インターバル制度だけで、多様な社員がそれぞれ「しっかり働くために、しっかり休む」を実現するのは困難です。勤務間インターバル制度を導入した目的は、十分な休息時間を確保した上で、生産性やパフォーマンスを向上させることにあります。社員一人ひとりが自らの「ワーク」と「ライフ」を主体的に選択し、最も生産性が高く成果が出せる働き方を実現していくことが重要です。
今野:「仏作って魂入れず」ということわざにもあるように、制度という形を整えただけでは導入の目的が達成できないということですね。「インターバル時間を確保しなければいけない」とただ考えるのではなく、「なぜ、インターバル時間を確保する必要があるのか」の答えを自分なりに持てば、「しっかり働くために、しっかり休む」を自律的に実行できるようになります。勤務間インターバル制度をこれから導入する企業には、「形から入らず、“なぜ”から入る」ことが運用を成功させるポイントだと伝えたいですね。新規導入を目指す企業にアドバイスをいただけますか。
埜崎:制度運用については、「まず導入すること」をおすすめしたいですね。「こういった場合はインターバル時間の確保が難しそう」「インターバル時間を守れなかったらどうすればいいのか」と細かい運用が気になるかもしれませんが、気にしすぎると、いつまでたっても導入できません。「インターバル時間を守れそうもないから、導入しても無駄」といった意見も出てくるでしょう。それでは一歩も前に進めません。
「しっかり働くために、しっかり休む」を大切にするには、一人ひとりの意識を変える必要があります。まずは制度を導入し、なぜしっかりと休む必要があるのかを、会社の方向性や事業戦略にひもづけて考えることで、変革の道筋が立てられるのではないでしょうか。
今野:勤務間インターバルの重要性だけで浸透を図るのではなく、それが経営戦略の実現にどうつながるのかストーリーを明確にすると、社員に早く浸透し、パフォーマンス向上が期待できることがわかりました。「しっかり働くために、しっかり休む」環境の構築に向けて、いろいろな企業に参考にしてほしいと思います。

勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです。「労働時間等設定改善法」(労働時間等の改善に関する特別措置法)が改正され、2019年4月1日より勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務となりました。一定のインターバル時間を確保することで、従業員が十分な生活時間や睡眠時間を確保でき、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることができます。
この記事を読んだ人におすすめ
HRのトレンドと共に、HRソリューション企業が展開するさまざまサービスをご紹介。自社に最適なソリューションを見つけてください。
会員登録をすると、
最新の記事をまとめたメルマガを毎週お届けします!

