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【ヨミ】ジタハラ

ジタハラ

ジタハラとは?

「ジタハラ」とは「時短ハラスメント」の略で、従業員に対して残業時間を削減するための具体策を示さずに「残業をするな」「定時で退社しろ」などと強いるハラスメントのことです。
長時間労働を見直して残業時間を減らす取り組みは、本来、個人だけでなく企業が一丸となって取り組むべき課題です。具体的な対策がないまま退社を強要すると、従業員にとっては持ち帰り残業など「記録に残らない業務時間」が増えるだけでなく、業務が遅延する原因を生み出しかねません。その積み重ねが社員の仕事に対するモチベーションを下げ、企業にとってマイナスを生み出す要因となっています。

更新日:2023/08/30

1. ジタハラが広まった理由

ジタハラの広まりには、政府が推し進める「働き方改革」が大きく関係しています。2015年12月、長時間労働が原因で発生した株式会社電通の過労自殺事件はメディアでも大きく取り上げられました。これをきっかけに、長時間労働が常態化していた業種においても労働時間の是正に向けた積極的な取り組みが始まり、現在では多くの企業が「働き方改革」の一環として残業時間の削減に努めるようになりました。

ジタハラは、「働き方改革」を急速に推進した結果として生じた弊害といえます。具体的には、次の二つが主な原因として考えられます。

一つ目は、残業時間の削減について企業側が具体的な解決策を提示せずに、「数字上だけの勤務時間削減」を推進していること。終えられなかった業務の穴埋めをどうするのかという議論がなされないまま、「残業せずに退社して成果は上げろ」「仕事の時間が減っても、仕事の質は落とすな」という圧力がかかれば、従業員にとって大きなストレスとなります。

こうした状況を生み出す要因には、管理者が従業員一人ひとりの業務量や職務内容を把握しきれていないといった理解不足もあります。

二つ目は、給与体系などの待遇を見直さず退社を迫ることで、従業員が不利益を被っていること。自分の意思で業務量をコントロールするのが難しく、かつアウトプットの品質を落とせない状況になった場合、やむなく持ち帰り残業するケースが多く見られます。この場合、当然ながら残業手当はつきません。同じ質・量の業務をこなしていても手取り給料は減るため、従業員に不利益が発生する状況を生み出しています。

また、部門一丸となって残業時間削減に取り組み、実際に成果を上げたとしても、会社から評価されなければ士気は下がります。結果として、残業時間削減は単なる「手取り収入の減少」という印象になっているのが実情です。

2. ジタハラのリスク

ジタハラの法的リスクとは?

ジタハラそのものに関する法律はありませんが、2019年5月に成立したいわゆる「パワハラ防止法」に抵触する可能性があり、パワハラ同様の法的リスクを負う可能性があります。

「パワハラ防止法」は、労働施策総合推進法を一部改正する形でできた法律です。ここでは、パワハラについて次のように定義し、措置義務を企業に課しています。

(1)優越的な関係を背景とした
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
(3)就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

ジタハラによって当事者が上記同様の苦痛を感じれば、パワハラと認定されるリスクがあります。パワハラ防止法に企業への罰則規定は明確には定められていませんが、最悪のケースでは訴訟に発展する可能性もゼロではありません。

ジタハラの事例

実際には、どのようなジタハラが発生しているのでしょうか。2017年に訴訟となった事例を紹介します。

自動車販売会社・株式会社ホンダカーズ千葉の元店長は、部下の残業時間を減らすため、部下の仕事を引き取り自宅に持ち帰るなど、長時間労働を強いられていました。結果、元店長は精神疾患を患い、うつ病と診断されて会社から懲戒解雇されてしまいます。元店長は労働審判に申し立てましたが2016年12月に自殺し、最悪の結末となってしまいました。

千葉労働基準監督署は元店長の自殺と膨大な仕事量に因果関係があるとし、元店長の自殺を労災と認定。遺族による民事訴訟へと発展しました。

※のちにホンダカーズ千葉と和解しています。

これは、会社側が具体的な対応策なしに「形だけの残業時間削減」を進め、中間管理職の立場である元店長が部下へのジタハラを食い止めようとした結果、起きてしまった事件です。

なぜ労働時間の削減を目指すのか、どのように達成していくのか。また、現在の人員配分と仕事量のバランスはどうか。現場の実状を把握せず、具体策を提示しない使用者側の一方的な「働き方改革」は、このように非常に大きな犠牲を伴う可能性があることを認識しなければなりません。

3. ジタハラの対策〜ジタハラにならない「時短」推進の要点

ジタハラにならない残業時間削減を実現するには、どのように時短を進めていけばよいのでしょうか。四つのポイントを紹介します。

現場を理解する

まずは、現場がどのような状況にあるのか、しっかりと現状を理解することが大切です。どのような人員が何人いるのか、どのような業務にどれくらいの時間がかかっているのか。また、外部との連携において時短に取り組むうえでのデメリットは生じないかなど、さまざまな角度から検証し、物理的な条件として時短が可能な状態にあるかどうかを把握する必要があります。

従業員の立場から見ると、目標達成や待遇面において時短がデメリットになる可能性がある点を理解しておくことも重要です。この場合、仕事量と就業時間のバランス、目標の見直し、効率化を達成した場合の待遇改善など、従業員側のメリットを考慮した取り組みも必要です。

部門ごとの業務仕分けをしっかり行う

属人的な時短は、個人の負担を増やしてしまう可能性があるため、組織全体で業務の見直しを図ることが大切です。現場の状況を理解したら、部門ごとに業務の仕分けに取り組みます。以下の観点で、業務の優先順位やパワー配分を検討していきます。

  • 本当に必要な仕事かどうか
  • 人が行う仕事と自動化できる仕事とが切り分けられないか
  • 外注できる仕事はないか
  • 誰でも行うことができる仕事はないか

一つの部門だけで仕分けを行うと、他部門との連携がうまくいかなくなる可能性も出てくるため、組織全体で業務内容を見直すことがポイントです。

業務の効率化

業務の仕分けができたら、次は実際に生産性を上げるための「効率化の施策」を検討・実行していきます。

ここでは、化学品製造の東亞合成株式会社の事例を紹介します。同社は、所定労働時間の見直しや総労働時間の削減、年次有給休暇の取得推進など積極的に「働き方改革」を進めています。労働時間の削減において効果を上げている施策には、次のものがあります。

  • 会議を1時間から45分に
  • 部内資料の過剰なブラッシュアップをやめる
  • 部署から離れた集中タイムを設ける

東亞合成では、現場の部門と人事が連携して要因を丁寧に分析し、改善・指導を行ってきました。結果、同社では長時間労働が解消され、現場からも感謝の声が上がっています。

どのような施策が業務効率化につながるのかは、企業によって異なります。東亞合成の事例のように、改革を推進する側と現場で細かくすり合わせを行い、無理なく進めることが大切です。

労働力の確保

労働力を増やせば、一人あたりの業務量を減らすことが可能です。しかし、新卒採用やキャリア採用で人員を確保するのは、昨今の採用市場から見ても容易なことではありません。

労働力を確保するには、現在、政府が推進している「多様な正社員」を視野に入れるなど、柔軟な採用活動が重要です。多様な正社員とは、勤務時間や仕事内容、配置転換、転勤などの条件を緩和したもので、「勤務地限定正社員」「職務限定正社員」「勤務時間限定正社員」などがこれにあたります。

働き方の多様化を推進することで、これまで家庭の事情などで働けなかった優秀な人材を確保できたり、地元密着型の人材を雇用できたりするなど、企業側・労働者側の双方にメリットが生まれます。また、自社での採用以外にも、外部人材を活用するという選択肢も労働力確保につながります。

長時間労働の是正に向けた動きが「企業イメージのため」「義務だからとりあえず」といった考えに基づくものであれば、その実現は難しく、従業員のモチベーションを下げたり不満を募らせたりする原因にもなってしまうでしょう。企業には労働時間を削減する本来の意味を理解したうえで、具体的な対策を労使双方で検討していく姿勢が求められています。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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この記事ジャンル ハラスメント

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