ファシリテーター
ファシリテーターとは?
ファシリテーターとは、会社などの組織において、相互理解を促しながら合意形成し、問題解決を促進する活動を行う人のことです。
ファシリテーターは、会議において二つのプロセスに関与します。一つは、会議の目的を達成するための進行・運営です。もう一つは、参加者の思考や心理に関与しながら合意形成に至るよう促すプロセスです。
1. ファシリテーターの意味
facilitate(ファシリテート)には、「促進する」「容易にする」「助長する」などの意味があります。会社などの組織において、相互理解を促しながら合意形成し、問題解決を促進する活動を「ファシリテーション」(facilitation)と言います。また、ファシリテーションを行う人を「ファシリテーター」(facilitator)と呼びます。
狭義では、会議で参加者の意見を引き出しながら合意形成を促進する進行役を指します。||広義では、組織やプロジェクトチームにおいて同様の効果をもたらすリーダー的存在をファシリテーターと呼ぶこともあります。
ファシリテーターは、会議において二つのプロセスに関与します。一つは、会議の目的を達成するための進行・運営です。もう一つは、参加者の思考や心理に関与しながら合意形成に至るよう促すプロセスです。
会議では、参加者の考えや感情、関係性が変化していくことで最終的な合意が生まれます。そのため、ファシリテーターは単なる進行役を超えて、参加者間の相互作用を促進することに重きを置きます。
ここでは、狭義の会議を促進するファシリテーターについて解説します。
ファシリテーターが重視される背景
ファシリテーターという言葉が使われ出したのは1960年代のアメリカです。体験学習などで参加者に働きかける技法として用いられました。その後、企業の会議進行に応用され、広く認知されるようになりました。
従来、日本の企業では、強力なリーダーが縦割り組織を率いるのが効率的とされてきました。しかし、近年は組織を構成する従業員の多様化が進んでいることもあり、権威的に組織をけん引するよりも、チームの和を生み出すリーダーシップが求められるようになってきています。
こうした背景から、個の価値観や考えを尊重しながら同じゴールへと誘導するファシリテーターの存在は、会議の場だけにとどまらず、組織運営に必要不可欠な存在になりつつあります。
2. ファシリテーターがいることで会議がうまくいく理由
会議がうまくいかない理由
一般的に、会議がうまくいかない理由には次のことが挙げられます。
意見が出ない
会議がうまくいかない理由として多く挙げられるのが「意見が出ない」ことです。議題に対して他人事と捉えている、意見があっても空気を読んで黙っているなど、当事者意識の薄さが一因となっています。
自分の主張ばかりする
自分の主張に固執して、他者の意見を受け入れないケースです。とくに利害が異なる複数部署が参加する横断的な会議では、自部署へのメリット・デメリットの観点から主張がぶつかる傾向があります。
その場の雰囲気に流される
強い意見を発する人がいる会議では、参加者が雰囲気に流されてしまいがちです。議論を十分に行えないまま、声の大きい人の意見が通ってしまうことがあります。
感情的になり議論が進まない
自分の意見を否定されると感情的になってしまい、議論の本筋から外れた会話で時間が過ぎてしまうケースがあります。
このように、会議がうまくいかない理由には心理的要因が絡んでいることが多く、そもそも議論をするための下地ができていない点に問題があるといえます。
会議がうまくいくためには「対話」の促進が有効
では、「議論」ができる下地づくりには、何が必要なのでしょうか。中野民夫・堀公俊共著『対話する力 ファシリテーター23の問い』(日本経済新聞出版社)では、「議論」の前段階として「会話」と「対話」が必要だと述べています。
「会話」で関係性を築く
議論を効果的に行うには、まず相手と「会話」を交わして、関係性という土台を築く必要があります。たとえば営業方針を決める会議なら、最近のクライアントの傾向や取引状況について会話を交わし、相手の考え方や人となりを知って気持ちを通わせます。
「対話」で目線を合わせる
次に「対話」をして、そもそもの本質は何かを共有し、同じ目線で議論を行えるようにします。会話によって土台をつくり、対話によって骨格となる柱を立てるようなイメージです。
たとえば、営業方針会議では次のような投げかけを通して対話を重ね、お互いの目線を合わせていきます。
-
「○○さんは△△という営業方針を提案していますが、これは具体的にどんな状態を指しているのでしょうか?」
-
「△△を通じて、営業部では何を実現できるのでしょうか?」
-
「そのために重要なことは、そもそも何でしょうか?」
対話で大切なのは、相手が発する意見の背景にあるものは何かを理解するように努めることです。この段階では、相手の意見に対する判断は保留します。対話を通して目的達成に必要な「そもそも論」を話し合い、問題の本質や方向性を明らかにします。
「議論」で具体化
会話による土台づくり、対話による柱づくりができて初めて「議論」という屋根をかけることができます。たとえば営業方針会議でいくつかの意見が出たら、目的を達成するための優先順位を決めるなど、具体的な議論ができるようになります。
ファシリテーターは主に、議論の前段階となる対話の促進に貢献します。一人ひとりの意見を引き出し、合意を形成するプロセスに関与することで、円滑で効果的な会議進行を目指します。
3. 会議におけるファシリテーターの役割とコツ
ファシリテーターの役割とコツ
ここからは、実際の会議でファシリテーターがどのような立ち位置で進行するのか、進め方のコツとともに紹介していきます。
場を仕切らずに客観性を保つ
対話の促進には、参加者が自発的に意見を出し、対話が深化する場をつくることが必要です。そのためファシリテーターは、議論を特定の方向に誘導するといった、場を仕切るような行為はせずに客観性を保つことが重要です。
参加者の意見を深めるような投げかけをする
具体的には、参加者の意見について「○○は何を意味しているのですか」というように定義を確認したり、発言の理由や背景を引き出したりする投げかけが挙げられます。
参加者にない視点を提案する
参加者の意見が行き詰まったとき、参加者にない視点をファシリテーターが提案できると対話が深まります。たとえば、顧客の事例にばかり視点が注がれ意見が広がらなくなった場合は、市場全体の考察を促すなど問題の全体像に気づかせる、という具合です。
いくつかの要素が絡み合う複雑な問題は、要素ごとに分解して、それぞれについて考えるように誘導するアプローチが有効です。
会議の具体的な進め方
ここでは、対話を促進できる会議の具体的な進め方例を紹介します。ファシリテーターによる進行方法には、こうでなければならないといった決まった形式はありません。参加者の心理状態や関係性、議題によって最適な進め方が変わるためです。下記を参照に、やりやすい形を模索してみてください。
(1)アイスブレイク
会議の冒頭で、参加者の緊張をほぐして思考を活性化するためにアイスブレイクという手法が用いられます。5~10分程度の時間を使い、議論とは直接関係のないゲームをしたり自己紹介をしたりして、場の雰囲気が和むようにします。
(2)グランドルールの設定
会議の前に、「他の人の意見を否定しない」「最後まで相手の話を聞く」などのグランドルール(その会議のためのルール)を設定し、常に見えるところに書き出しておくなどの工夫を行います。参加者が安心して意見を出せる場をつくるうえで効果的な方法です。
(3)会議の目的・目標・手順を確認
ファシリテーターが、次のように会議の目的と目標、手順を確認します。
- 目的:何のために今日の会議を行うのか
- 目標:会議終了時点で何を決めたいか、どういう状態を達成していたいか
- 手順:会議のメニュー
(4)ブレーンストーミング
ブレーンストーミングにはいくつかの方法がありますが、付箋を活用したやり方が代表的です。まず、参加者に付箋を配り、議題に対する自分の意見を10〜20個書いてもらいます。これを見ながら議論を重ねていきます。
最初に全員が意見を書き出すことで、声の大きい人の意見ばかりが採用されたり、空気を読んで意見を言わない人が出てきたりするのを防ぐことができます。また、一人ひとりが自由に意見を出すことで、多角的な視点から議題を見つめるきっかけになったりアイデアが広がったりするメリットもあります。
(5)KJ法(親和図法)
KJ法とは、意見や情報をグループ化して整理・分析する手法です。
具体的な進め方は、まず前述のように参加者に書いてもらった付箋を同じ要素を持つもの同士でグルーピングしていきます。次に、グルーピングしたものにタイトルをつけてもらいます。参加者がタイトルを話し合うことで、そこに上がった意見の背景や定義が整理され、議題の本質や方向性が明らかになるというメリットがあります。
KJ法ではさらにグループ同士の関係性を、矢印などを使って構図として整理し、問題の本質を体系的に理解できるよう促します。
(6)合意形成を促進
意見を出し合ったあとに決定しなければならない事項がある場合、ファシリテーターは議論をサポートしながら合意形成を促し、意見を収束していきます。この場合の合意とは、納得感がなくネガティブな感情を抱く参加者がいない状態を指します。そのため、ファシリテーターは常に参加者全員に目を配り、少数派の意見にもしっかり目を向けることが大切です。
全員一致で物事が決まるのは理想的ですが、正解があるわけではありません。これを心得たうえで、常に中立的な視点を持って進めていくことがファシリテーターに求められる重要な要素です。
対話を促進する「イエス、アンド」の事例
会議中に実践できる対話の促進方法として、日本電気(以下NEC)の事例を紹介します。
NECでは2008年に、従来の企業理念に新しくビジョン2017とバリューを追加しました。これらの概念を社内に定着させる過程で、推進メンバーたちを対話によって活性化するため、次の手法が用いられました。
「傾聴」を実践
傾聴とは単に話を聞くのではなく、相手の話を理解するために、相手の立場に立って共感しながら話を聞くことです。敬意を持って話を聞いているという姿勢を示すことで、信頼関係を築く効果があります。
- 【参考】
- 「傾聴」とは
- 「アクティブ・リスニング」とは
「イエス、バット」はやめて「イエス、アンド」で受け答え
会話のなかでついやってしまいがちなのが「あなたの意見は分かりました。しかし……」という「イエス、バット」の受け答えです。イエスと言いつつ相手の意見を受け入れていないため、相手は「自分の意見を否定された」と捉えてしまいます。
これに対し「イエス、アンド」では、たとえば、「あなたの意見はいいですね。さらに○○を付け加えたらどうでしょう」というように、肯定的に返します。相手は自分の意見を受け入れられていると実感できるため、発展的な対話ができるようになります。
4. ファシリテーションを普段のコミュニケーションに応用
ファシリテーションの考え方は、普段のコミュニケーションや日常業務など組織運営にも応用できます。ここでは、組織のコミュニケーションに活用する方法を紹介します。
「対話」が問題解決の糸口に
議論は、目的達成に最適な方法をロジカルに導き出す手段です。しかし、会話や対話といった下地がないままロジカルに対応してしまうと、感情的な歪みが生まれ、事態が悪化することもあります。
たとえば、やる気がない部下に対して、突然「どうしてやる気を出せないのか」と詰問しても事態は改善しません。日々の会話を通して関係性を築いたのちに、「最近元気がないように見えるけれど、何かあったの?」など、やる気がないように見える背景や理由を対話によって引き出します。
すると、実は子どもの夜泣きで寝不足だったなど、個別の事情が明らかになり、上司が「やる気がないと決めつけて悪かった」と反省するケースもあります。背景が分かり問題解決の方向性が見えたら、解決策を部下自らが引き出せるよう自覚を促す投げかけをしましょう。
意見と感情を切り離す
信頼関係ができていない状態で相手に意見を投げかけると、たとえそれが正論であっても、相手側には「自分自身を否定された」というマイナスの感情が生じやすいものです。この感情が障壁となって、言われた意見そのものを受け入れがたくなる心理が働きます。
これを回避するには、普段から会話と対話によって、率直な意見交換ができる関係性の土台をつくっておくことが重要です。くわえて、議論における意見の相違は、共通のゴールを目指すための建設的なものであるという共通認識を持てるよう意識づけを行うことも大切です。
他者の意見を否定するのではなく、議論を進化させるためのステップであると捉え、意見と感情を切り離した議論を行うのがポイントといえます。
5. ファシリテーターになるには
ファシリテーターを名乗るために必要となる資格はとくにありませんが、複数のNPO法人や一般社団法人などが認定する民間資格があります。
スキルを身につける養成講座では、日本ファシリテーション協会の「ファシリテーション基礎講座」を始め、多数の講座があります。同講座では、「場のデザイン」「対人関係」「構造化」「合意形成」の四つのスキルをワークショップ形式で学べます。
6. 今後のリーダーにはファシリテーションスキルが必要
スピード感のある意思決定と実行、多様化する人材の共感醸成など、企業活動のパフォーマンスを最大化するうえで重要な位置づけとなりつつあるのがファシリテーターの存在です。
ファシリテーションには固定観念に縛られない多角的な視点と、個々の意見を引き出すコミュニケーション能力、そしてゴールに向かって議論を収束していく設計力が必要となります。けっして簡単なスキルではありませんが、ファシリテーターが企業にもたらす価値は大きなものです。
今後の組織運営には、ファシリテーターのスキルを持つリーダーの存在が必要不可欠になってくるでしょう。対話を促進して合意に至るファシリテーションの考え方を、会議だけではなく、組織やチーム運営にも応用していきたいものです。
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