高度で成熟した現代社会で新しいものを生み出すということ
フランスの著名な歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッドが、「グローバリズムが世界を滅ぼす」という本の中で、経済史の観点から国の発展と経済成長率について語っている文章を読みました。トッドによれば、経済史を人類が新しいモノ、新しい生産物、新しい社会形態を発明していく動きとして捉えるなら、経済成長を2つのタイプに区別して考えなければなりません。1つは先進国、もう1つは新興国です。新興国は、経済の成長発展が著しく、成長率は15%に達することもあります。一方で、先進国の成長率は1~2%、最大では2.5%です。この違いはどこからくるのでしょうか。
アメリカをはじめとする先進国は現代の世界の姿を定め、新しい形態を発明し、創り出しています。つまり、歴史のパイオニアを果たしているのです。誰もやったことがない新しいことをおこない、失敗して無駄に終わったアイデアや施策を積み重ねる中で、わずかな成功を得て、少しずつ新しい歴史を進めて行きます。つまり、多くの失敗を伴うため、急激な成長は難しくなります。先進国の成功と失敗から学ぶことで一直線に成長する新興国よりも低い成長率になるのは当然なのです。
日本の戦後の経済成長率は驚異的で、1980年代には、近々世界一の経済になるだろうと言われていましたが、その後成長率はぴたりと止まりました。それから経済危機に入ったと思われていますが、トッドは、日本はまさにそのときに先進国の一つになったと言います。トッドのいう先進国とは、「現代というものを創出する国」であり、世界の最前列で歴史を切り開いている国々です。既存のリソースを活用した「遅れの挽回」ではなく、全く新しいものを生み出すための挑戦をして、犠牲を払いながら、最先端の技術や制度を創出していくことにより、自国のみならず、世界への貢献を果たしているのです。
時代の最先端を切り開いていくことが、大きなコストを伴うのは、企業においても同じです。大きな成功をおさめた会社でも、成長し続けること難しく、どこかで停滞する時期が訪れます。そのときに、新しいことに挑戦するか、今までのやり方を続けるかのいずれかを選ばなければなりません。新しいことへの挑戦は失敗する確率が高く、不安も大きいので、難しい決断になります。さらに、その挑戦が他社を真似したものではなく、全く新しい技術、製品、あるいはビジネスモデルだった場合には、リスクはさらに大きくなり、決断はますます困難になります。反面、成功した際の評価は絶大であり、その内容によっては世界の歴史を進める役割を果たすことになるかもしれません。
「世界最高の起業家」といわれるイーロン・マスクは、成功をおさめた「PayPal(ペイパル)」を売却した後、宇宙ロケット製造開発会社のスペースXを創業し、さらに電気自動車会社のテスラ・モーターズに投資し、経営者となりました。低コストの宇宙ロケット製造も電気自動車の開発も、どちらも未知の領域で、まだ誰も成功していない事業でした。特に、民間宇宙ベンチャーは、莫大な費用がかかるだけでなく、成功する可能性が極めて低い事業です。マスクは、ペイパルで得た巨大な利益をスペースXにつぎ込み、一時は住む家もない状態でした。それでも革新的なロケット開発に挑み続け、多くの失敗を経た後に、やっと成功を収めます。その後、NASAにも認められ、アメリカの宇宙開発計画に関わるようになりました。スペースXが開発した低コストの宇宙ロケットは、スペースシャトル計画終了後、宇宙戦略においてロシアの後塵を拝していたアメリカを、再び第一線へ押し戻す役割を果たしています。多くの失敗とリスクはありましたが、結果として、自国の国策に影響をあたえ、世界の歴史に名を刻むことができたのです。
未知の、あるいは誰も実現していない事業への挑戦は、大きなリスクを伴ううえ、成功する確率は極めて低いものです。しかし、犠牲を払ってでも挑戦する者がいなければ、新しい技術や製品、ビジネスモデルや仕組みは生まれず、世界の歴史は前へ進んでいきません。高度で成熟した現代社会では、新しいものを生み出すのは容易ではなく、膨大な失敗の中からしか成功は生まれません。これからは、成功する方法だけでなく、失敗から学ぶことや、失敗を恐れず、受け入れる精神力を身に付けていくことがますます重要になるでしょう。なにより、成功には必ず失敗や損失といった犠牲を伴うものであり、失敗なくして成功はありえないことを、改めて認識する必要があると思います。
組織開発コンサルティング事業部
立川知子
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株式会社アクティブ アンド カンパニー 代表取締役社長 兼 CEO
株式会社日本アウトソーシングセンター 代表取締役社長
大野順也(オオノジュンヤ) 株式会社アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長 兼 CEO
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