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【中小・中堅企業向け】
社員の働きがいを生み出すパーパス経営のはじめ方

  • 市丸 純子氏(TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役 人材開発コンサルタント)
特別講演 [H-5]2023.06.22 掲載
TOMAコンサルタンツグループ株式会社講演写真

「ウェルビーイング」「人的資本」などが高い注目を集める中、「社員に働きがいを持って仕事に取り組んで欲しい」と考え、パーパス経営に興味をもつ企業が増えている。しかし、いざ取り組もうと思っても、何から着手したら良いのか分からないケースは多いようだ。TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役 人材開発コンサルタントの市丸純子氏が、パーパスの意義や、働きがいとの関係性、組織に浸透させる方法を語った。

プロフィール
市丸 純子氏(TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役 人材開発コンサルタント)
市丸 純子 プロフィール写真

(いちまる じゅんこ)2013年TOMAコンサルタンツグループ入社。2019年からグループ内の長期ビジョン実現に向けた特別プロジェクトのマネージャーを務め、自社内の組織開発・人材開発に携わる。また、現在ではその経験を活かし、「100年企業を創る」をモットーに、多くの中小企業に向けて人材開発コンサルティングを提供している。


パーパスが働きがいにつながる循環の仕組みと、注目を集める理由

税務・会計、相続・事業継承、人事・労務、経営・財務・企業再生、医療・介護関連事業、IT活用、経理支援などの各種コンサルティングサービスを提供するTOMAコンサルタンツグループ。経験豊富な専門家200名が連携し、1000件以上の顧問先や個別相談から蓄積したノウハウを生かして、経営課題をワンストップサービスで解決している。

同社の経営理念は「『明るく・楽しく・元気に・前向き』なTОMAコンサルタンツグループは本物の一流専門家集団として、社員・家族とお客様と共に成長・発展し、共に幸せになり、共に地球に貢献します」。ビジョンは「日本一多くの100年企業を創り続け、1000年続くコンサルティングファームになります」。顧客企業が長く経営を続けられるよう、正しい課題解決を考え実践し続けている。

市丸氏はまず、パーパス経営の重要性を語った。

「米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員エンゲージメント調査によると、日本の熱意あふれる社員の割合は6%でした。アメリカの31%と比べると非常に低く、調査対象の139ヵ国中132位という結果です。熱意あふれるという言葉を『働きがい』に置き換えると、働きがいを感じている社員が他国に比べて少ないと言えます。

パーパスは、働きがいを生み出すことができますが、掲げるだけで社員が働きがいを感じるわけではありません。働きがいを生み出す循環としては、まずパーパスを認知・再確認するステップが必要です。そして組織へ浸透させ、組織から個人へと浸透させる。そこまで実現できれば個人のパフォーマンスが向上し、社内外から良い反応が生まれてきます」

パーパスを掲げたからといって、一足飛びに個人の働きがいが実現するわけではない。すでに掲げている企業でも、組織に浸透させていくステップがなければ、働きがいを生み出す循環には結びつかない。社員のエンゲージメントが高い会社は、経営者から社員、上司から部下にパーパスを伝えているという。

講演写真

「パーパスは定期的に見直すことが重要です。会社の規模拡大、経営者の代替わり、管理職のメンバー交代など、会社は日々変化します。また、社会的な変化のほか、お客様のニーズや社員の変化などもあるでしょう。それらに対応し、パーパスを繰り返し考えて浸透活動を進めていくことが重要です」

では、パーパスという言葉が最近取りざたされているのはなぜだろうか。実は、Z世代が企業選びの際に、パーパスに高い関心を寄せていることが影響している。株式会社学情が行った調査によれば、「パーパスを知ると企業への志望度が上がる」と回答した学生は6割超だった。

「Z世代は、社会や他者と良好な関係を築くことを意識する傾向があります。働きがいや自分の人生設計、生活と仕事のバランスなどに関心を寄せている人が多いことを、採用などでZ世代と接するときに実感します」

仕事選びにおいてパーパスが意識される傾向が強まっている今、10年前と同じ経営やマネジメントでは対応しきれないこともあり、企業の経営層に変化が求められている。大企業やグローバルに展開している企業などは、パーパスに感度高く取り組んでいるが、関心がない企業や取り組んでいない企業も多い。こうした企業にとっては、パーパスを軸にした経営を検討する時期にきていると言える。

パーパスの定義とMVVとの違い

パーパスは「我々の企業は、社会の中で何のために存在しているのか」という存在意義に答えるものだ。掲げていない会社にも、明文化されていないだけで必ず存在意義はある。顧客や社員に選ばれている時点で存在意義があるからだ。

「パーパスはグローバル企業や大企業にだけ関係するものではありません。地域社会に根差して活動、経営している中小・中堅企業こそ、大きな存在意義を秘めている可能性があります。パーパスを確認して示すことは、社内外の関係者をつなげる求心力にもなります」

またパーパスは、MVVといわれる「ミッション(Mission)」「ビジョン(Vision)」「バリュー(Value)」と混同されることが多い。その違いとは何なのか。

「創業者が会社を立ち上げる際には、『〇〇というニーズに対応して、〇〇というサービスを提供する』という存在意義があるはずです。自分たちの会社が何のために存在するのかという『Why』がパーパスであり企業の土台です。その土台の上に、何をするかという『ミッション』、どのようにするかという『バリュー』、どこに向かっていくのかという『ビジョン』が存在します。すでにMVVを掲げている会社の根底にも、必ずパーパスがあります」

拠点や事業展開が複数あり、部門が分かれていて顧客のターゲットが違う企業であっても、一つの会社としての存在意義つまりパーパスは存在する。パーパスの認識を共有することによって、一つの会社が複数の事業を行う意義も確認できる。

「パーパスは、複数の事業や人々を束ねていくための軸です。掲げることでグループ経営がしやすくなり、社員が同じ方向を向いて活動できるようになります」

パーパスが働きがいを生み出す循環の重要性は前述したが、本当にその通りにいくのだろうか。

「民間企業の調査によれば、『自社のパーパスを理解し自身のパーパスと関連づけられると、従業員はハイパフォーマーになる』という結果が出ています。また、幸福度の高い従業員はパーパスへの共感度が高く、ハイパフォーマーほど会社のパーパスに共感し、自分の人生の目的を見つけています。幸福度が高い状態とは、働きがいを感じ自分の貢献を認識できていると解釈できます」

パーパス策定の四つのポイント

パーパス経営をはじめようと考えたら、まずはその策定に取り組む必要がある。過去に作っていたとしても、現状とずれているのなら見直しをかけるのが望ましい。

「策定のポイントは「現在ある社会課題の解決につながっているか」「自社の強みを生かせるか」「自社が実現できるのか」「社員が自分事としてとらえられるのか」の四つです。耳当りのいい言葉を並べたパーパスを作っても、自社の強みとつながらなかったり、社員が自分事としてとらえられなかったりすると組織への浸透が進まない恐れもあります。実態に合わせて、自社の存在意義を確認して整理することが重要です。具体的には、自社の歴史を振り返ったり、社員を巻き込んで議論したりしていくことで、ポイントをおさえたパーパスが策定できます」

経営者がパーパスを考えて社員に共有しても問題はないが、先ほどのポイントに照らし合わせることは重要だ。また、ホームページに載せたら終わりではなく、組織に浸透させて社員の働きがいへとつなげていく必要がある。

「パーパスを経営の軸にすると一貫性のある戦略や施策を打つことができ、企業成長にも効果的です。社内外に対して一貫性のあるメッセージを発信できるため、例えば採用において共感してくれる人が集まりやすく、入社後の定着率が上がることも考えられます。新規事業を展開する際には、新事業がパーパスに合っているのかを考えるなど事業戦略にも役立ちます」

逆に言えば、パーパスという軸がないと会社の方向性は定まらず、部門ごとに方向性の違う目標を追いかけることになりかねない。顧客へのメッセージも不明確となってしまう。では、浸透させるにはどうしたらいいのだろうか。

「一朝一夕にはいかず、ステップを踏んでじわじわと浸透させていく必要があります。まずはパーパスがあることを社内外に認知してもらうことです。社外への『アウターブランディング』、社内への『インターナルブランディング』においてはトップメッセージとして伝え、本気度をアピールします。また認知の段階では、社内に向けたパーパスガイドブックを作成して共有する、朝礼や会議で唱和するなどの機会を何度もつくる、といったことが重要です。

認知の次は、内容の理解を促す必要があります。例えば、社内の部署や年代の違うメンバーを集めてパーパスを発掘するワークショップを実施するのもいいでしょう。経営者からワークショップの目的を共有したうえで、社会・顧客・社員への貢献や現状の課題を確認します。そのうえで、存在意義を確認して、自分たちはどんな活動をしていくべきかを話し合います」

こうした活動は一度で終わりではなく、毎年繰り返すことが望ましい。パーパスは少しずつ浸透していくため、繰り返し行うことが重要だからだ。

「数時間ワークショップを開催することによって、その後1年の社員の働きがいを見出すことにもつながり、仕事ぶりにも大きく影響します。タイムパフォーマンスが高い取り組みといえます」

講演写真

パーパスの認知を深め、行動を促すための施策例

パーパスの認知・理解ができたら、次は行動・再認・反復行動を促す必要がある。さまざまな施策を取り入れながら実行することでパーパスへの認知が深まり行動を促せる。

「具体的な例として『パーパス1on1』という施策を紹介します。上司と部下の1on1面談を行い、個人のパーパスの作成や会社のパーパスとの関連性、今後取り組みたいことを話し合います。また、当社ではプロジェクトチームを発足し、パーパスの推進活動を実施。管理職や中堅や入社1〜2年目、新人などの数人でチームを結成します。浸透させるための取り組みを考え、会社側に提案することもあります」

自分の考えたことを会社に提案でき、実際に導入されることもあるため、有意義で楽しい場だと捉えている社員が多いという。このように、一緒に考えたりディスカッションする過程を経験したりすることが、パーパスの浸透や再認識には有効だ。

「ぜひ行ってほしいのが、パーパスを基に一人ひとりに求める具体的な行動・思考を示した指針を作成すること。一人ひとりの行動・思考にパーパスを根づかせやすくなり、自然とパーパスに根づいた行動や取り組みが生まれます。

そのほかの事例としては、パーパスに準じた行動や成果を挙げた人を社員同士でたたえ合うサンクスカードの仕組みや表彰制度、パーパスの内容を人事評価に組み入れるなどがあります。さまざまな施策や仕組みを精力的に推進することは大変ですが、進めることによってパーパスを働きがいにつなげられます」

最後に、市丸氏は講演を次のように締めくくった。

「パーパスは働きがいを生み出します。地域社会に根差した中小・中堅企業でまだ取り組めていない企業にこそ必要であり、ぜひ取り入れてほしい。パーパスを経営の軸にすると、一貫性のある戦略や施策を打つことができ、効果的な企業成長につながります。限られた人員や時間の中で効果的な活動をしていくためにも、軸となるパーパスを作っていきましょう。

パーパスを軸に経営を行うには、まずは言語化と組織への浸透が必要です。このステップを省略するとなかなか結果につながらないため、しっかりと取り組んでください。当社ではどのように策定したらいいか、どのような浸透活動をするべきかを、実態に応じて提案することが可能です。お気軽にご相談ください」

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