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EX向上の取り組みのなかでジェンダーギャップを考える

  • 伊藤 直子氏(株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト兼人事総務本部 本部員)
特別講演 [G-8]2023.06.22 掲載
株式会社日立ソリューションズ講演写真

日本のジェンダーギャップ指数は低く、政府の掲げた女性管理職比率目標「202030」の目標達成に至っていない企業は多い。働き方改革が進み、企業はエンゲージメントや働きがいの向上に取り組んでいるにもかかわらず、女性活躍の進展は思うように進んでいないのだ。2009年からダイバーシティ推進を行い「女性活躍」に取り組んできた日立ソリューションズも、2020年度の目標は未達に終わった。改めて現状の再認識と課題の深掘りを進めている、同社 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト兼人事総務本部 本部員の伊藤直子氏が、注力しているEX向上施策とジェンダーギャップの課題について語った。

プロフィール
伊藤 直子氏(株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト兼人事総務本部 本部員)
伊藤 直子 プロフィール写真

(いとう なおこ)1990年津田塾大学卒業。日立中部ソフトウェア(現 日立ソリューションズ)に入社。ソフトウェア製品開発、ネットワーク・セキュリティSEを経て、2004年管理職へ。2015年から働き方改革のプロジェクトに入り、自社の改革推進とともに、企業の働き方改革をITで支援する事業に携わっている。


講演写真

日本のジェンダーギャップは大きい。だからこそ考える必要がある

企業や社会の課題解決のために、ITを活用した製品やサービスなどの豊富なソリューションをワンストップでグローバルに提供する、日立ソリューションズ。その対象領域は、製造、流通、通信などの業界向けや、人事・働き方、セキュリティ、データ活用など業界を問わず提供するソリューションなど、多岐にわたる。

近年は「女性活躍支援サービス」にも注力している。女性活躍支援サービスは、女性が働きやすい職場づくりや、ワークライフバランスへの取り組みなどを支援するものだ。働く女性が抱える悩みは、結婚や子育てなどのライフイベントに深く関係し、年代によっても異なる。仕事のパフォーマンスの低下や離職を防ぐために、ライフイベントに対応できる仕組みを求めている企業に対して、女性特有の健康課題の解決への一助となるサービスを提案している。

伊藤氏はまず、日本企業がジェンダーギャップについて考える必要性を語った。

「世界経済フォーラムによる各国のジェンダーギャップランキングによれば、日本は146ヵ国中116位です。教育分野では1位であるにもかかわらず、経済は121位、政治は139位。その原因は、経済の意思決定層にいる女性が少ないことです」

管理職相当(部長、課長、係長)の女性割合の比率は上昇傾向にあるが、上位職ほど割合が低い。役員は2012年の630名が21年には3055名になり、約4.8倍に増加。しかし、諸外国と比べるとまだ少ない。日本の女性役員比率が12.6%であるのに対して、フランスでは45.3%、イタリアでは38.8%と大きな開きがある。

続いて、伊藤氏はジェンダーギャップを象徴する例として、スウェーデンと日本の育児休暇制度の違いについて語った。

「スウェーデンは両親合わせて480日の休暇を取得できます。そのうち300日は父母どちらでも取得が可能で、残りの180日は父母それぞれに90日ずつ割り当てられる。この90日は相手に譲ることはできず、取得しなければ権利を捨てることになります。例えば、母親がもっとも長く休暇を取得した場合は390日取得でき、それ以外の90日は父親のみが取得できます。この仕組みの結果、スウェーデンでの男性の育児休暇取得率は9割を超えています。日本でも育休をとる男性が少しずつ増えていますが、21年度は13.9%とまだまだ低いのが実状です」

日立ソリューションズの女性活躍の実態と取り組み

日立ソリューションズでは、2009年から専任組織を設置してダイバーシティに取り組んできた。2020年には専任組織を刷新し、改めてダイバーシティに注力している。

「近年着目しているのは、一人ひとりの多様性です。男性か女性か、障がい者かそうでないかではなく、それぞれの人に多様性があるという考えのもと、毎年テーマを決めています。ダイバーシティ月間を定めて講演会やワークショップなどを開催。部門ごとに推進チームをつくり、ダイバーシティを組織文化として定着させています」

具体的には、若手向けのキャリア紹介やパパ・ママ交流会、外国籍社員交流会が行われている。ダイバーシティに積極的に取り組み、外部のアワードなども受賞している同社の女性活躍の実態はどうなのだろうか。

「社員の女性比率は2015年の15.1%から18.3%に増加し、女性管理職の比率は3.2%から6.6%と倍増しました。しかし、2020年に管理職の女性比率10%という目標には達していません。男女を同じように育成すれば、全体の女性比率と管理職の女性比率が近づくはずですが、その差が埋まっていないのが現状です」

次に紹介したのは、男性の育休取得の現状だ。

「当社では、男性社員の育休取得を推進しています。育休を20日以上取得する男性は、2015年の10.9%から2021年度には22.7%に増加。2022年度は、さらに上昇する見込みです」

また、2016年から全従業員を対象に実施した働き方改革によって、女性社員の働きやすさが向上。2017年からはテレワークを推進し、週に数回の自宅勤務が可能になった。すると短時間勤務をしていた女性社員から「在宅で働く日があるなら勤務時間を伸ばしたい、フルタイム勤務に変更したい」という希望があったという。

「2020年はコロナ禍によって、原則として全員が在宅勤務になりました。昨年7月から原則が解かれ出社も可能になりましたが、現在でも多くの社員が在宅勤務主体のハイブリッドな働き方を選択しています。2020年9月と2022年12月を比較したデータでは、週0日出社の人が60%から40%に減る一方、週1日出社の人が20%から39%に増加。週1回オフィスでコミュニケーションするワークスタイルが増えています」

週に1度出社する人の目的はコミュニケーションだ。テレワークによるコミュニケーションの課題を解消しようと、組織単位で定例ミーティングを実施したり、1on1や懇親会を対面で行ったりする機会が増えている。会社側は、社員が集まってオフィスでランチをする際は一人あたり1500円を支給する施策も始めた。

また、最近同社が実施して好評だったのがドレスコードの廃止だ。もともとドレスコードは厳しくなかったが、社員からは非常に好評だという。導入にあたって費用がかからず、社員のモチベーションがあがるすぐれた施策だ。

このように働きやすさを実現した同社は、次のステップとして働きがいをテーマにEX向上を推進している。

社内FA・社内公募には、女性からも多く手が上がっている

同社で行っているEXの取り組みのひとつが「社内FA・社内公募」だ。社員に自律的にキャリアをつかむ体験をしてもらいたいという考えのもとに生まれたという。

「社内FA制度は社員本人が経歴、自己PRを匿名で公開。その内容を部長以上が確認でき、自部署に合うと思ったらスカウトします。社内公募は人財を必要とする部署が、業務内容と求めるスキルを全社員に公開し、希望者は自部署の上長の承認なく応募できます。チャンスがあれば、男女関係なく手を挙げてジョブをつかみに行っています」

また、同社では新規事業促進も行っている。世界の先端企業が生まれるシリコンバレーで、スタートアップを創出するという制度だ。

「昨年初めて実施し、最初のチームである男性社員2名がシリコンバレーで活動中です。23年4月からシリコンバレー入りした二つ目のチームは女性リーダーと男性社員。女性リーダーは結婚して子どもがいる方です」

ここで、実際に社内公募で異動を実現した女性社員として、同社の平田文香氏が登壇。社内公募を利用した思いを語った。

講演写真

「新卒で入社して3年くらいは最初の部署で専門知識を身につけ、その後は自分の適性や得意なところを伸ばせる仕事がしたいと考えていました。そのため、3年目の12月頃から転職を含めてキャリアステップを考え、社内公募に応募しました」

平田氏は異動後、「リシテア/女性活躍支援サービス」という女性の健康問題をオンラインで相談できるプロダクトに主担当として携わっている。学生時代に、女性の労働や社会進出の変遷を研究していて、今後も研究を続けたいテーマだったため、その思いが実現できる現在の仕事に対するモチベーションは非常に高いという。

「職場で感じるジェンダーギャップや困りごとはないか」と尋ねられた平田氏はこう語った。

「感じることは二つあります。一つは女性管理職が少なく、自分が管理職になったときの働き方がイメージしにくいこと。もう一つは女性特有の心身の不調を男性上長に話す機会がないことです。私自身、月経の影響が精神的に出ることがあり、月に1週間はつらい状況が続きます。上長も聞きにくいとは思いますが、フラットに話せる雰囲気があるとうれしいですね」

ジェンダーエクイティは女性だけでなく、男性の働きやすさにもつながる

ダイバーシティの概念は変化している。ダイバーシティから始まり、ダイバーシティ&インクルージョンになり、最近では「DE&I」を掲げている企業が増えている。DE&Iとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)のことだ。

社会構造の不均衡がある中で、全ての人に同じ支援を行っても不均衡は持続する。そのため、個人のスタート地点の違いに着目した支援やサポートが必要だという概念だ。

では、女性におけるEquity(公平性)とは何だろうか。その答えを求め、伊藤氏は女性社員に働くこと、モヤモヤしていること、未来に向けて考えていることを聞いた。

働くことについては、「裁量をもって仕事をしたい」「社内FAで部署異動して仕事が楽しくなり、活躍したいと思うようになった」など、楽しくやりがいをもって働き続けたいという人が多かった。一方で「がむしゃらに働いてきたけれど自分に適した働き方がしたい」「家族や自分の時間を大切にしたい」という意見もあったという。

「こうした意見が出てくるのは当たり前のことです。これまでの男性社会では言えない雰囲気があったのではないでしょうか。企業はこうした声を聞いて実現する方向に行くべきだと考えています」

モヤモヤしていることについては「失敗が怖い」「自分のやりたいことがはっきりしない」「残業ができないから昇格を断ってしまう」という意見が出た。「育休後に働き続けられるのか不安」「後輩に指導できるのか不安」というぼんやりとした不安も多かったという。

一方で、未来については「もっと成長したい」「勉強し、働くことで社会に貢献したい」など、前向きで積極的な意見が多い。

こうした意見を踏まえて、伊藤氏は女性におけるスタート地点の違いとして、女性特有の健康課題、アンコンシャスバイアス、時間の制約、特性・傾向という4点を挙げた。そして、「個人的見解が多分に入っている」と断りを入れた上で、それぞれの内容とエクイティの実現への取り組みについて語った。

「一つ目の女性特有の健康問題は生物学的属性であり、男性は理解しにくく、女性同士でも状況が違うと共感が難しい部分もあります。企業は気軽に相談できるように周囲の理解を高め、仕組みを整えることが必要です。

二つ目のアンコンシャスバイアスは、誰しも思い込みがあることを理解し、相互理解を深めることでバイアスを取り除くことが重要です。すでに取り組まれている企業もあると思いますが、男女問わず共有するといいでしょう。

三つ目の時間の制約は女性に限りませんが、現状は女性に家事や育児の負担がかかりがちです。男女問わず価値観や事情を安心して話せる環境を整え、業務調整できると働きがいにつながると感じます。

四つ目の特性・傾向ですが、女性は抽象的な不安を口に出す傾向があります。理解してほしいのは、「自信がない・不安だ」と言っても「やりたくない」わけではないということ。応援しながらチャレンジさせる取り組みが必要です」

ここで参加者から、「女性は出産後に男性と同じように働くのが難しく、昇進を諦めるケースが多いと思います。なにか取り組みがあれば教えてください」という質問が寄せられ、伊藤氏は次のように回答した。

「特別な取り組みはしていませんが、当社では残業できないことを理由に昇格できないことはなく、短時間勤務のまま課長に昇格した人もいます。プロジェクトや組織において、上長や周囲と相談しながらアサインしています」

伊藤氏は次のように述べて、講演を締めくくった。

「ジェンダーエクイティを実現することは、女性の活躍をサポートするだけにとどまらず、結果的に男性含めあらゆる人が働きやすく活躍できることにつながると考えています。誰もがそれぞれの価値観や能力に合わせて活躍できる社会を、一緒につくっていきましょう」

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