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1on1の質向上と実施データ活用で実現する、
朝日生命のエンゲージメント向上施策の実態

  • 二宮 裕一郎氏(朝日生命保険相互会社 人事部 人事部働き方改革 推進課長)
  • 皆川 恵美氏(株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者)
特別講演 [D-3]2023.06.22 掲載
株式会社KAKEAI講演写真

1on1ミーティングに取り組む企業が急増している。朝日生命保険相互会社では、2021年度より職員の成長・キャリア自律支援によるエンゲージメントと生産性の向上を目的に1on1ミーティングを全社で展開。同時に1on1支援ツール「Kakeai(カケアイ)」を導入した。同社での1on1ミーティングの質向上の事例と人的資本経営の可視化に向けたデータ活用と見えてきた示唆について、同社人事部働き方改革推進課長の二宮裕一郎氏に、株式会社KAKEAIの皆川恵美氏が聞いた。

プロフィール
二宮 裕一郎氏(朝日生命保険相互会社 人事部 人事部働き方改革 推進課長)
二宮 裕一郎 プロフィール写真

(にのみや ゆういちろう)1999年朝日生命入社。福島支社、本社営業総局等を経て、2011年より青森支社にて営業所長を経験。2015年以降、本社にて営業職員の就業規則、営業職員チャネルの営業戦略策定に従事し、2021年4月より現職。時間を意識した業務運営や生産性向上、業務効率化、エンゲージメント向上、働く環境の整備等、全社の働き方改革推進を担当。


皆川 恵美氏(株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者)
皆川 恵美 プロフィール写真

(みながわ えみ)東京大学卒業後、2002年株式会社リクルート入社し、商品企画を担当。その後、株式会社セルム・PMIコンサルティング株式会社にて管理職育成・組織開発コンサルティングに携わった後、2010年から株式会社ミナイー代表取締役。人事制度構築や組織活性化等のプロジェクトに従事。2018年KAKEAIを共同創業。


朝日生命が1on1ミーティングを導入した理由

1on1クラウドシステム「Kakeai(カケアイ)」の開発・運営を行う株式会社KAKEAIは、日本企業として初めて、世界のHR テクノロジースタートアップ30社に選出。次世代HRテクノロジーサービスとして、国内だけでなく、海外からも注目されている。1on1ミーティングとは、業務の指示・判断を目的とした会議ではなく、部下の成長やモチベーションを支援するための定期的な面談のこと。「Kakeai」は、職場における継続的な1対1のコミュニケーションを支えることに特化したサービスであり、1on1ミーティングや連続的な面談で発生しがちな物理的・心理的な負担を減らすことができる。上司と部下、双方のコミュニケーション力やマネジメント力へ依存することなく、対話の質を引き上げられるのが特徴だ。

株式会社KAKEAIが掲げるパーパスは「あなたがどこで誰と共に生きようとも、あなたの持つ人生の可能性を絶対に毀損させない。」である。現場で働く人の視点に立ち、1on1ミーティングや面談をはじめとする、職場の1対1コミュニケーションの掛け違いを世界中から無くしたいとの思いが込められている。

「Kakeai」は、全世界で、従業員数名の企業から数万人の企業、病院、学校、保育園、介護施設、飲食店、研究施設など、あらゆる組織、あらゆる職種で利用されている。本講演では、2021年度に同サービスを導入した朝日生命の事例が紹介された。

朝日生命では、2018年度から「イキイキと働く、そして成長する。」をスローガンに掲げ、働き方改革の取り組みをスタート。イノベーション、ダイバーシティ、ES(働きやすさ)の三つの視点で取り組みを進めている。KPIは、生産性指標と職員満足度(Asahiエンゲージメントスコア)だ。

「当初は、長時間労働の改善や働く環境の整備に主眼を置いていましたが、2021年度以降は職員のエンゲージメント向上にも注力をしています。働き方改革の浸透による生産性向上のフェーズと位置付け、従業員の成長・キャリア自律を促す1on1ミーティングの全社展開を開始しました」

講演写真

二宮氏は、1on1ミーティングを導入した理由として、(1)個の成長、(2)エンゲージメントの向上、(3)人材の多様化を挙げた。朝日生命には50代以降の職員が多い。10年後を見据えたとき、先輩職員の英知を次世代にしっかり伝えていくことも必要だと考えたという。

エンゲージメントを高め、職員が自発的、主体的に職務に取り組める環境をつくるためには、所属長との信頼関係が大切だ。価値観や生活環境が異なるメンバーが活躍し、成果を上げていくためには、上司が部下の話を聞き成長を支援する仕組みが必要だと考えたという。

「このような背景を踏まえ、1on1ミーティングの定着と浸透を図ることを目的に、シンプルな操作で日時設定や対話の事前準備から質向上のサイクルを作ることができる『Kakeai』の導入を決めました」

1on1ミーティングの定着、実施、質向上を進めるにあたっての必須要素

2021年度の導入期は、上司から部下に対する業務の進捗確認は頻繁に行われている一方、部下の話を傾聴する場が少ないという課題があり、1on1を導入。並行して、上司向けの傾聴スキル・コーチング研修を行った。

2022年度は、上司ごとのバラつきをなくし、全体として1on1を定着させていくことを目指した。具体的には、1on1の実施状況をKakeaiで把握するとともに、上司の傾聴スキルやコーチングスキルを更に高める研修や好事例の社内共有、Kakeaiの操作方法の勉強会を実施。また、経営層のコミットメントを高めることにも注力した。

2023年度は発展期と位置づけ、より1on1ミーティングの質を高めていくことを目的としている。1on1ミーティングの上司役の拡大に加え、上司向けの継続的な研修を実施。部下の意識醸成にも注力している。また1on1強化月間を設け、PDCAを回しながら1on1ミーティングの質の向上を図っている。

「1on1ミーティングと並行して、職員のエンゲージメントを測定するために、2021年度から、エンゲージメントを調査するための計測ツールを社内に導入。1on1ミーティングの効果を、エンゲージメントスコアで図りながら、全社にフィードバックしています。

1on1ミーティングは、あくまでも部下の成長支援が目的。やること自体を目的としてしまうと形骸化する恐れがあります。そこで、1on1ミーティングの効果を計測するため、1on1ミーティングとセットでエンゲージメント計測ツールも導入しました」

次に二宮氏は、1on1ミーティングの定着、実施、質向上を進める必須要素として「上司の傾聴、コーチングスキル」「経営のコミットメント」「運営するための効果的なツール」の三つを挙げた。

「この三つは、1on1ミーティングを全社に展開していく中で必須の項目だと感じたものです。一つ目の上司の傾聴やコーチングスキルについては、継続的な研修でステップアップを促しました。当社では一人につき、3回の研修を行っています。1回目は、上司役が1on1ミーティングを実施するための基礎編。2回目は、6ヵ月ぐらい経った後に実施する、コーチングスキルを学んでもらうための応用編。そして3回目は、1年後の発展編。ここでは、さらなるコーチングスキルやフィードバックのスキルを学びます」

二宮氏は、経営のコミットメントについても述べた。「上司は日々の業務が忙しいため、1on1ミーティングの実施を全社で徹底することが困難です。そこで経営層が1on1ミーティングの必要性を認識し、部下との対話を通じて生産性向上につながるという意識の醸成を図りました。具体的には、全国のマネジメント層を集めた会議で、人事担当役員がなぜ1on1ミーティングが必要かを説明。その上で、全社に1on1ミーティング実施の指示を出しました。並行して1on1ミーティングの実施状況の報告と好事例の発信も行いました。」

1on1ミーティング自体は、上司と部下がいればどこでもできる。しかし、継続的に運営するにはツールが必要だ。

「1on1ミーティングの日時の設定、時間の設定、当日の話題のテーマ設定はもちろんのこと、30分間という限られた時間で1on1ミーティングの質を上げるには、効果的なツールが必要です。Kakeaiは、そのための機能が充実しています。」

使い勝手の良さと確かな効果「Kakeai」

二宮氏はデモ画面を掲げながら、Kakeaiが具体的にどのように役立っているかを説明した。

「Kakeaiのいいところは、部下が1on1ミーティングで上司に話したいトピックを、部下自身が事前に設定できることです。当社固有の業務課題をKakeaiの中に設定することもできるので、職員にとってもテーマ設定しやすいシステムです」

ここで皆川氏が、Kakeaiの特徴であるアイスブレイクについて説明した。

「アイスブレイクは、あらかじめ選んでいたトピック以外の話題です。上司と部下が互いに画面上でサイコロを振り、『学生時代にやっておけばよかったと思うことは』といったランダムな内容に沿って対話を進めていきます。はじめは『必要ない』と言っていた人も、一度使うとお互いの意外な側面の発見になり、何度もサイコロをふりたくなります」

講演写真

朝日生命でも利用しており、二宮氏は「アトラクション的なアイスブレイクを利用して1on1ミーティングをスタートさせることにより、後々の1on1ミーティングが非常に話しやすいムードになる」と述べた。

そのほかの役立つ機能として、当日のやりとりをメモに残してお互いの認識の確認や振り返りができるメモ、リモートワークでもブラウザで1on1ミーティングができるビデオ通話などが紹介された。中でも上司へのフィードバックがデータで示され、上司自身で振り返りができるデータは好評だという。1on1ミーティングに対する部下からのフィードバックを画面で俯瞰することができるため、次の1on1ミーティングの質の向上に向けて役に立っているという上司の声が紹介された。

講演写真

Kakeaiは、事前準備→スムーズな実施→データで改善方向をつかむ→実施状況を把握して現場支援のサイクルを回すための特許とテクノロジーで、1on1ミーティングの定着と質の向上のためのツールとして役に立っている。

ここで皆川氏は、エンゲージメントと生産性の向上に1on1がどのように寄与しているかを語った。

部下からは、「雑談やラフなコミュニケーションがしやすくなった。これまでには知らなかった面を知ることができ、お互いの理解が深まった」「1on1という話す場があるので、何かあったら1on1で解決すれば良いので安心」といった声が聞かれるという。

また、マネジャーの声としては、「普段おとなしい人が、1on1で話してみると驚くほど深く思考していたり、良いアイデアを持っていたりする。それがわかったら、上司は実行しやすい環境づくりを後押しするだけ」「メンバーの特性や強みを早く・深く知ることができて、成果につなげられ、業績目標も120%達成と、組織にも貢献できている」などがあるという。

二宮氏からも、朝日生命で1on1ミーティングを行った職員の感想が紹介された。

部下側の感想には「興味を持って聞いてもらえた」「親身になって聞いてもらえた」「励ましの言葉で肩の荷が降りた」「前向きな姿勢や協力的な姿勢を示してくれた」「真摯に受け止めてくれた」などがあったという。

上司からは、「1on1はあくまでも所属員の成長が目的だと心がけるべき」「何でも話ができるようにフランクに接することを意識」「コミュニケーション頻度を上げていくことが重要」などの声が聞かれた。

「これまでは画一的なアドバイスでしたが、部下の状況に応じたアドバイスに変えることができています。30分の1on1ミーティングの場が、傾聴する場、成長支援の場になっています」

続いて、朝日生命が2022年12月に行った全職員の意識調査の中から、1on1ミーティングについての回答が紹介された。「新しい行動につながる気づきが得られたか」「上司との信頼関係は高まったか」という質問に対して、1on1ミーティングを実施した回数が多い職員ほど、「新しい気づきを得られた」「信頼関係が高まった」と回答。「自身の成長実感」「自身の生産性向上の実感」についても、同様の結果だった。このことからも1on1ミーティングを定期的に開催することが、一人ひとりの成長と、エンゲージメント向上につながっていることがわかる。

講演写真
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最後に二宮氏が今回の講演を振り返った。

「上司の傾聴やコーチングスキルの向上、1on1ミーティングを全社でやっていくのだという経営層のコミットメント、1on1ミーティングを運営していくためのツール。いずれが欠けても、1on1ミーティングはうまくいかないということを痛感しました。今後もそれぞれを高めつつ、特にツールについては、KAKEAIの協力も得ながら、質の高い1on1ミーティングを行っていきたいと考えています。個の成長を果たし、生産性を向上し、職員のエンゲージメントの向上を図りながら、当社の持続的な発展につなげていきたいと思います」

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