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人事ガチャの秘密 -配属・異動・昇進のからくり

  • 藤井 薫氏(株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員)
特別講演 [A-5]2023.06.22 掲載
株式会社パーソル総合研究所講演写真

会社全体のパフォーマンス向上や働き方改革の推進などを目的として、配属・異動・昇進のあり方を見直そうとする企業が増えている。株式会社パーソル総合研究所では、2020年から3年間にわたって大手企業の人事責任者へのヒアリング調査を実施。調査結果をもとに、パーソル総合研究所の藤井薫氏が、書籍『人事ガチャの秘密-配属・異動・昇進のからくり』を著した。本講演では、藤井氏が「全員型タレントマネジメント」実現の観点から、人事ローテーション・異動配置施策見直しのヒントを解説した。

プロフィール
藤井 薫氏(株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員)
藤井 薫 プロフィール写真

(ふじい かおる)電機メーカーを経て、総合コンサルティングファームにて人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、ITベンダーにてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。2017年パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年より現職。


タレントマネジメントの中核は異動配置

パーソル総合研究所は、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げる人材サービスの企業グループ、PERSOL(パーソル)のシンクタンク・コンサルティングファームである。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供することで、人と組織の成長をサポートしている。

コンサルティングのほか、シンクタンク、ラーニング、タレントマネジメントの3事業を展開。シンクタンク事業は、主に人と組織、労働市場に関する調査・研究を担う。調査・研究成果は、HRMの根幹に関するテーマは「HITO」、トレンドは「HITO REPORT」という2種類の情報誌で発信しており、同社のホームページでも読むことができる。

パーソル総合研究所では、2020年から3年間にわたり、人事異動をテーマに大手企業の人事部にヒアリング調査を実施した。延べ86社に及ぶ貴重な調査結果を基に、藤井氏が書き上げた書籍『人事ガチャの秘密-配属・異動・昇進のからくり』は、日本企業の異動・配置にはどのような課題があり、どういった対応が必要なのかについて解説している。

「『人事ガチャ』は、『配属ガチャ』や『上司ガチャ』から連想した造語です。ガチャという言葉からは、ブラックボックスに対する一種の不条理感のようなものがイメージされます。企業に勤めていたら、誰もがこのような不条理を感じることがあるはずです。そのブラックボックスの一端を解き明かすことが、キャリア形成の参考になるのではないかと考えました」

調査のテーマを「タレントマネジメント」にしたのは、藤井氏自身が、タレントマネジメントの中核は異動配置だと考えているからだ。現時点で、タレントマネジメントについて学術的な定義が定まっているわけではないが、藤井氏は二つの定義に分けられるという。

定義1:経営戦略推進に向けて、各ポジションに最適なタレント(才能)を確保するマネジメント施策
定義2:一人ひとりのタレント(才能)を見える化し、経営戦略に沿った最適な活躍場所を提供するマネジメント施策

「定義1は、たとえば経営ポジションにふさわしい人は誰か、その人をどのようにそのポジションにつけるのか。いわゆる適所適材の配置が、狭義のタレントマネジメントであると言えます。定義2は、働いている従業員一人ひとりのタレント(才能)を見える化し、各人のタレントにふさわしい活躍場所を提供すること。いわゆる適材適所の配置です。より簡潔にいえば、タレントマネジメントの中核は、経営戦略に沿って適所適材・適材適所を行うことなのです」

講演写真

問題ないがゆえに放置されているミドルパフォーマー

3年にわたって行った調査のテーマは、2020年度が「タレントマネジメント」、2021年度が「一般社員層の異動配置」、2022年度が「管理職の異動配置」である。タレントマネジメントを前面に打ち出した2020年度の調査は、主に「経営人材・次世代経営人材」への取り組みが中心だった。

「調査では、タレントマネジメントの重点テーマについて聞いたほか、次世代経営人材の発掘・育成について、人材プール(次世代経営人材の候補生)への選出をどのような基準で、何歳ぐらいの人を、どのようにして行っているのかといったことを詳細にたずねました。さらにその後の育成まで伺っています。多くの企業が次世代経営人材の確保・発掘・育成をタレントマネジメント最重要テーマだと捉えていて、10年以上にわたって重点的に取り組んでいることがわかりました」

一方、一般社員層については、異動配置方針が「あると言い切れない」とした企業が大半を占め、異動がブラックボックス化していることが判明した。特に製造業では、明確な異動配置方針があると言い切れる企業は1割に過ぎなかった。また、異動案を人事部が作る企業は全体の約3割で、事業部に任せている企業が多い。

人事部は異動配置の重要性を十分認識しているものの、実際の運用にはあまり主体的に関わっていないこともわかった。理由としては、事業環境変化へ即応すべく、事業部主導の人事異動が増えていることや、人的資本経営への対応をはじめ、経営陣からの要請が増加・高度化して人事部が多忙を極めていることなどが挙げられた。

「一般社員に関しては、目立った問題がない限り事業部に任せている企業が多く見られました。特に、種類性質が異なる多くの事業部門を抱えている大手企業の場合、次世代経営人材と管理職の異動配置は人事部が検討するものの、一般社員層は各事業部門が担当していることが珍しくありません」

ただし、新卒採用した社員については、どの企業も入社後10年間程度は人事部として何らかの方針を持っているという。新卒で入社してくる若手社員を一人前に育てることは、各社に共通するテーマだ。異動配置方針は企業によって異なるが、若手の異動配置パターンは、典型的には次の6種類に分類できるという。

(1)10年間3部署・ジェネラリスト育成型
(2)10年間3部署・専門職育成型
(3)幅出しローテーション個別対応型
(4)ポジションニーズ優先型
(5)初期配置部署固定型
(6)手挙げチャレンジ型

「10年3部署型」は名称の通り、入社後10年間で3部署を経験させる企業だ。この方針を取る企業は、全体の3分の1程度にあたる。その中でもさまざまな職種を経験させるジェネラリスト育成型は少なく、たいていは専門職育成型だ。専門職育成型とは、職種を固定し、顧客や扱うサービスを変えることで仕事の幅を広げようとする異動が典型的で「幅出し」ともいう。その幅出しローテーションを定期的に行うわけだ。

「幅出しローテーション個別対応型」は、個人によって「幅出し」の異動のタイミングや回数を変えるやり方だ。部門裁量が大きくなり、運用しやすいので、こちらのパターンのほうが多くなる。

「ポジションニーズ優先型」は、人ではなくポジションが異動の起点になるパターンを指し、まず各ポジションの要員ニーズありきで、異動が起案される。

「多くの人事担当者は、ポジションニーズ優先型の中に、どのようにしたら育成要素を盛り込んでローテーションできるかということに心を配っています。実際には、ポジションニーズ優先型の異動配置が最も多くなっており、異動に育成配慮が感じられないと、社員から『うちの会社の人事異動は場当たり的だ』『育成を考えていない』と言われる原因になります」

また、中には、基本的に異動がない「初期配属部署固定型」、社内公募のような「手挙げチャレンジ型」を採用している企業も見られる。

このように若年層の異動配置方針を定めている企業は多いが、問題は30代半ばから40代前半、働き盛りの中堅層の異動配置方針が曖昧になっていることだ。この年齢層に対する人事部の関心は管理職候補を見つけて管理職を作ることに移っていくため、管理職候補以外の人たちには目が届きにくくなる。この層を、藤井氏は「目配りされないミドルパフォーマー」と呼んでいる。

「ミドルパフォーマーは、簡単に言うと人事評価が真ん中くらいの人です。本人に要求されている業績目標をほぼ達成していて、各職場の大切な戦力として機能している人たちです。働く人の多くがここにあてはまりますが、人事部から目配りされていないケースが非常に多いのです」

講演写真

藤井氏は、問題ないがゆえに放置されているミドルパフォーマーが、日常業務に追われて十分に専門性を深めたり広げたりする機会が乏しい結果として、40代半ば以降にローパフォーマー化することへの警鐘を鳴らす。

「調査では、同じ部署に5年いると、成長志向、学習意欲、キャリア自律意識の低下が見られます。俗にいうマンネリの状態です。また、40代半ばになって単純に疲れを感じてくる人や、昇格して期待値が上がることで、かつてと同じ成果を維持していてもローパフォーマーと評価される人もいます。そうなる前に専門性を広げたり深めたりすることが重要です。それには異動配置経験も大きな役割を果たします」

異動配置は「The 人事」ともいうべき人事部のコア機能

そもそも、企業はなぜ人事異動を行うのだろうか。藤井氏は、人事異動について、会社のニーズが高い多い順に六つの理由を説明する。

理由1 要員確保・要員適正化
理由2 ミスマッチ解消
理由3 不正防止
理由4 マンネリ防止・組織活性化
理由5 個人事情対応
理由6 キャリア開発・能力開発

「要員確保・要員適正化は、たとえば、新しく組織を作った場合の人員確保や、人員の過不足が生じている部署の調整などです。ミスマッチ解消については、日本の雇用慣行上不可欠です。正社員の場合、企業は数十年にわたって雇用し続ける責任を負っているわけですから、今の職場で長い間パフォーマンスが上がらない人がいれば、新たな活躍場所を見つける必要があります。不正防止は、大きな権限をもつ部署などでは必要なことです。マンネリ防止・組織活性化のほか、介護や育児、共働きなど個人事情への配慮も、以前より重要になっています。人事部としては、最後のキャリア開発・能力開発を第一目的にしたいところですが、なかなか優先順位が上がらないのが実状です」

実際の異動配置は、複数の目的の組み合わせで行われる。理由1~5による異動であっても、そこにどうにかしてキャリア開発の要素を織り込んでいきたい。藤井氏は、「ここが人事部の腕の見せどころ」と強調する。

藤井氏は次に、管理職人材について解説した。企業によって、課長昇進率はまちまちだが、登用適齢期はあるという。この適齢期から外れると、課長昇進の可能性はほとんどなくなる。また、企業の7割は、課長から部長へ昇進する確率が1~2割だ。多くの管理職は、40歳くらいで課長になり、部長に昇進することなくおよそ20年を課長として勤務することになる。20年課長をやっていた人が定年や役職定年を迎えてポストから外れたとき、専門職として通用するかどうかは疑問だと藤井氏は話す。人事部は、この間に専門性をブラッシュアップできるような異動配置を考えなければならない。

「管理職を、専門性の幅出しや能力開発のための異動対象にするかどうかは、企業によって二極化しています。ここは今後、注目されるポイントです。管理職の専門性という意味では、特に課長の段階で、マネジャーとスペシャリストを行ったり来たりするような異動施策を考えてもいいのではないでしょうか」

多くの課長は、課長になって20年間、そしてポストオフ後も5年~10年働く時代になってくる。ポストオフ後も踏まえると、専門能力の維持向上が非常に大きなカギになる。管理職であってもマネジメントのルーティン業務に埋没してはいけない。

「異動配置は『The 人事』ともいうべき人事部のコア機能であり、タレントマネジメントの要です。タレントマネジメントには二つの側面があります。経営戦略推進上のキーポジションに最適なタレントを配置すること、そして、もう一つは、社員一人ひとりに活躍場所、「嵌りどころ」を提供すること。この機会にあらゆるステージの異動配置施策を見直してください」

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