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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2022-秋-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [J] 学び続ける組織 -個人の学びが組織に広がるサイクル-

学び続ける組織
-個人の学びが組織に広がるサイクル-

<協賛:リ・カレント株式会社>
  • 宮間 三奈子氏(大日本印刷株式会社 取締役)
  • 安藤 史江氏(南山大学経営学部 教授)
パネルセッション [J]2023.03.30 掲載
リ・カレント株式会社講演写真

組織学習は個人の学習の総和と考えがちだが、実際にはそこにシナジーが発生し、他者に広く伝達・共有されて初めて学習が生まれる。どうすれば個人の学びを組織に波及させられるのか、そして学び続ける組織がつくれるのか。リ・カレント株式会社のプロデュースにより、組織学習の専門家である南山大学の安藤氏、大日本印刷の宮間氏が登壇し、個人の学びが組織に拡がるサイクルについて語った。

プロフィール
宮間 三奈子氏(大日本印刷株式会社 取締役)
宮間 三奈子 プロフィール写真

(みやま みなこ)1986年、大日本印刷株式会社入社。研究開発部門、新規事業開発部門、本社の採用・人材育成部門と幅広い分野を経験。2021年取締役就任。2014年、人材開発部部長。2018年、執行役員。2021年、取締役に就任し、人財開発部・ダイバーシティ推進室を担当する。


安藤 史江氏(南山大学経営学部 教授)
安藤 史江 プロフィール写真

(あんどう ふみえ)東京大学大学院経済学研究科企業・市場専攻博士課程単位取得退学。博士(経済学)を東京大学より取得。南山大学経営学部専任講師、准教授を経て現職。専門は、組織学習論、組織変革論、経営組織論。主著に『組織学習と組織内地図』(2001,白桃書房)、『コア・テキスト組織学習』(2019,新世社)など。


リ・カレントでは「リーダーシップ×フォロワーシップ」の相乗効果により、チームワークを最大化させることを目的に、個人能力開発と組織開発支援のサービスを提供。取引実績は380社以上を数え、組織開発を通して日本中の「働く」を「働楽」に変えることを目標に事業を行っている。

具体的には、各階層別研修の中にリーダーシップとフォロワーシップ発揮のための能力・スキルトレーニングを組み込むなど、職場におけるチームワーク実現に向けた、現場重視の実践支援を展開。人事組織課題に合わせて、担当者の想いや経営現場の声をヒアリングしつつ、中長期を視野に企業人事とコラボレーションしながら、既存の研修の枠に留まらない学びを創造している。

学び続ける組織をつくるための理論、「組織学習論」とは

はじめに安藤氏が、組織学習について解説した。組織学習論とは、内外環境の変化に適応・先取りするために、組織が行う学習活動に関する理論だ。

「組織学習は、『知識の獲得→情報の移転→情報の解釈→組織の記憶』という四つのフェーズからなるサイクルを何度も回転させることにより、組織の知識や価値観、ルーティンを変化させていくプロセスです(フーバーモデル)。現代ではこうした基礎理論を応用するとよい場面が、以前より多く認識されるようになっています」

組織学習の成果は、短期と長期で異なる。短期では、目標と実際の行動とのギャップを正しく見極め、改善や効率の向上を図っていくことを目指す。近年注目されるのは、環境変化(高い不確実性)の中で、選択・淘汰のプロセスを生き残り、適合を目指す長期的な成果だ。短期的な成果と長期的な成果で求められる組織学習の内容は異なるが、どちらも生き残りには不可欠であり、クルマの両輪といえる。

安藤氏は、組織学習の成果を組織生態学の自然淘汰モデルに例える。

「長期的にみたとき、自然淘汰で多くの種の中から生き残っていくのは、決して、『より強いもの、優れたもの』ではありません。新たな環境に、『適応したもの』だけが生き残ります。組織学習も長期的に生き残る確率をあげることが目的といえます」

では、生き残りに必要な学習にはどんなものがあるのか。組織学習には大きく二つのレベルがある。一つ目は低次学習(シングル・ループ学習)で、「結果」と「行動」の間で学習をループさせる。二つ目は高次学習(ダブル・ループ学習)。「結果」と「行動」、「行動」と「価値前提」というダブルのループで学習する。

「『行動』→『価値前提』の工程において、学習内容が時代に合っているかを確認し、新しいものに置き換える組織のアンラーニングを行います。このプロセスの説明には、先に紹介したフーバーの組織学習サイクルより、マーチ=オールセンによる『個人の信念→個人の行為→組織の行為→環境の反応』の組織学習サイクルのほうが当てはまりがよいと考えられます」

アンラーニングによってまず「個人の信念」が変化し、「個人の行為」が変わっていく。それが組織内の他者に共有されることによって「組織の行為」が変わり、そこから影響を受けた「環境の反応」が起こる、というのが、マーチ=オールセンによる組織学習サイクルの流れだ。しかし、この組織学習サイクルは「役割制約的な学習」「傍観者的学習」「迷信的学習」「曖昧さのもとでの学習」といった障害により、途切れやすい状態にある。「たとえば、組織メンバーが活発に学習する組織でよく見られる残念な例が、個人の行為と組織の行為をつなぐリンクが切れやすいことで、組織学習を実現したい組織には、それを防ぐ工夫が必要」と安藤氏は語る。

一方、「個人の信念」と「個人の行為」間が切断されて生じる「役割制約的な学習」を招かないためにどうすればよいのか。

「組織内に心理的安全性を確保し、特に上司と部下間の信頼関係を醸成することが必要です。心理的安全性がなければ、最初のリンクが途切れてその後の組織学習プロセスが展開されないばかりか、『無力感の学習』が起こる恐れがあります」

また、「環境の反応」と「個人の信念」間を切断する「曖昧さの下での学習」を招かないためには、学習の素地としての「吸収能力(absorptive capacity)」、柔軟性や内省力も育成する必要がある。吸収能力とは、それがあって初めて新たな知識を吸収できるものだ。

さらに「個人の行為」と「組織の行為」間の切断である「傍観者的学習」を防ぐには、たとえば、モチベーションや価値、必要性の共有など、「知識移転」の促進条件を整えることが重要になる。具体的には、コミュニケーションの頻度やネットワークの密度を高めることなども有効な手段の一つである。また、組織の中心にいるほうが、有益な情報が多く集まりやすいため、学習者をそのような役職・部署に配置する方法もある。

講演写真

最後に安藤氏は、個人の学習と組織の学習の違いを解説した。

「組織メンバーは個人の学習からはじまるものの、個人学習の単純な総和ではなく、プラスにもマイナスにも、シナジーが発生します。他者に広く伝達・共有されて初めて組織の学習となり、そこには共有された組織目標のもとで行われる、組織ならではの学習があります。また、組織には長い年月や人員の入れ替わりを経ても、受け継がれる学習もあります。組織内での物事を解釈するモードの違いは組織行動の違いを生みます。そのため、個人の学びを組織の学びに転換するには、より建設的な行動を促す解釈モードへの転換を図る必要があります」

学び続ける組織へ。DNPの人材育成事例

次に大日本印刷(DNP)の宮間氏が登壇し、同社の人事制度改革について語った。講演内では、宮間氏による事例について安藤氏の解説が添えられた。

「社員の方々が最大限、力を発揮できるように配慮されている研修であり、大変よい内容であると感じました。非常に手厚い内容で、研修を受けっぱなしにするのではなく、研修をきっかけに上司と部下で信頼関係を構築する形になっています。この点は学びの促進に有効です」

また、安藤氏は、上司が事前に自分の部下が「なぜその研修を受けなければいけないか」ということを学ぶことは、知識を組織として共有する土壌づくりに貢献していると語る。

「せっかく自分たちが学んでも、職場に帰った時に上司が旧態依然としたことをやっていると価値も半減します。その意味で組織も同じように変わらなければならない。企業が本気だという態度を示すことは大事なことです」

また、安藤氏は「組織全体での学びの結実を左右するのが組織の解釈モードである」と指摘する。だからこそ、なるべく多様なアイデアを受け入れる姿勢を組織全体で示すことが重要だ。

「いろいろなアイデアが出てきた時に、過去のデータに基づいたもの、既存の考え方の延長線上にある無難なものばかりを選んでいては、せっかくの学びも生きません。『失敗覚悟で挑戦する』『型破りな人が活躍できている』といった様子が見えると、社員に『人を大事にしようとしている』『会社は本当に多様性を生かそうとしている』と感じてもらえる。研修をきっかけにそうした風土づくりへつなげているように感じました」

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