講演レポート・動画 イベントレポート

HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2024-春-」講演レポート・動画 >  特別講演 [S-4] 「カスタマーサクセス」を実現させる人材育成方法とは? 〜顧客の成…

「カスタマーサクセス」を実現させる人材育成方法とは?
~顧客の成功に伴走する組織の作り方~

  • 杉山 真理子氏(株式会社アイ・ラーニング 代表取締役社長)
  • 渡辺 大祐氏(株式会社アイ・ラーニング サービスデリバリー本部 パートナーグループ)
特別講演 [S-4]2024.06.20 掲載
株式会社アイ・ラーニング講演写真

近年、サブスクリプション型サービスの普及とともに、顧客を成功へと導く「カスタマーサクセス」の取り組みが注目を集めている。カスタマーサクセスの実現には、営業をはじめとする各部門との情報共有と連携が大きなカギを握る。また、社員の意識変革とスキルアップも必要だ。本講演では、企業向け研修サービスを幅広く提供するアイ・ラーニングの杉山真理子氏と渡辺大祐氏が登壇。カスタマーサクセスが重要視される理由や求められるスキル、人材育成について語った。

プロフィール
杉山 真理子氏(株式会社アイ・ラーニング 代表取締役社長)
杉山 真理子 プロフィール写真

(すぎやま まりこ)日本IBMでSE、外資企業の研修事業責任者を務める。セールスフォース・ジャパン社で、デジタルを駆使した企業変革推進ワークショップを経営層やリーダーに提供するイノベーションセンターを執行役員として率いた。現在アイ・ラーニング社代表取締役社長。生涯リスキリングの精神で、米国経営大学院でMBAを昨年取得。


渡辺 大祐氏(株式会社アイ・ラーニング サービスデリバリー本部 パートナーグループ)
渡辺 大祐 プロフィール写真

(わたなべ だいすけ)新卒で大手百貨店入社後、国内店舗運営、海外店舗開発を通じ、国内外700人以上の人財マネジメントを経験。DX推進では業界初のECSaaSスキームをスタートアップ企業と実現し、コロナ禍では業界内外に波及。現在は経営大学院での学びを通じ「人を遺す」事業へキャリアチェンジし、企業研修運営を担当。


注目を集める「カスタマーサクセス」の重要性

アイ・ラーニングは1990年に創設以来、企業向け研修のプロとしてIT人材やビジネス人材の育成に携わっている。2018年から2023年の実績で受講者数は約15万人、取引企業数は約2,200社。新入社員受講者数は約2万4000人にのぼる。

集合研修、サブスク、e-ラーニング、プライベートの研修のほか、オープン研修を925コース提供。企業の要望に合わせたサービスを多岐にわたって展開しており、デジタル人材の育成に関しては「ソリューション提案力」「サービス提供力」「未来・イノベーションを生み出す」の三つを軸に、管理職・マネジャーや若手リーダーなど、さまざまなレイヤーに応じたプランを提供している。

アメリカを拠点に約30万部が発行され、世界で最も広く読まれているHR専門メディア「Manage HR Magazine」で、「Top 10 Sales Training Companies in APAC 2024」に選出。セールストレーニングにおいて、ソリューション・セリングとインサイト・セリング・アプローチを重視している点や、実践的で没入型のロールプレイング、マインドセットの変革などが高く評価されている。

講演ではまず、ハイパーコンペティションの時代の到来と、世界のDXの動向、カスタマーサクセスが今後必要とされる重要性について、渡辺氏が解説した。

「EPU(経済政策不確実性指数)の推移を見ると、2015年以降世界的に不確実性が高まっていることが分かります。社会や経済、政治の環境変化が全く予想できず、デジタルテクノロジーの加速度的進化により競争相手が想定外の異業種から突然現れるほか、顧客の嗜好や関心、判断基準が多様化するなど、業界という枠組みや確立された優位性が破壊されるハイパーコンペティションの時代になっているのです。

また、デジタル・ディスラプションとは『デジタルの技術によって既存のビジネスモデルや価値が創造的に破壊されていき、すべての業種においてスタートアップ企業による新しいビジネスモデルによる新規参入が起こり、既存企業は事業変革を迫られること』を意味します。

こうした社会の流れによって既存企業が淘汰され、新たなディスラプター(破壊的イノベーター)が出現する状況が生まれています。その代表事例としてNetflixやUberなどが挙げられます」

本講演のテーマ「カスタマーサクセス」の将来性は、どうなのだろうか。予測データによると、2029年までに市場規模が約2.7倍と、確実に成長すると言われている。その重要性が高まるなか、本当の意味での顧客起点が問われる時代になると渡辺氏は語る。

「これまで顧客は限られた情報を基に購入判断をしてきましたが、デジタル化の進行により豊富な情報の獲得が可能になる事で、顧客側が力を持つ時代になりました。企業にとっては売買契約時だけでなく、その後の満足度向上により継続性を高めていく、LTV(Life Time Value)の最大化が重要です。それができなければ、顧客が他の競合商品へと離脱してしまう。競争の激しい時代になっています」

講演写真

カスタマーサクセスに求められるスキル、育成のイメージ

続いて杉山氏が、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いについて解説した。

「企業にとって、カスタマーサクセスとカスタマーサポートはどちらも必要ですが、それぞれのゴールが異なるため、必要なスキルセットも異なります。カスタマーサポートのゴールは、お客さまからの問い合わせや問題を迅速に解決すること。KPIでいえば、顧客満足度や解決時間などが考えられます。

一方、カスタマーサクセスのゴールは、提供するサービスや製品を使ってお客さまの成功を実現することです。KPIでいえば顧客満足度以外に、チャーンレート(解約率)、利用率、ライフタイムバリューなどを指標とする企業が多いようです」

カスタマーサクセスはプロアクティブに動くことが一番重要であり、お客さまが問題を抱えないように先手を取って動かなければならないと杉山氏は語る。

サブスクリプション商品を提供している企業のカスタマーサクセスを想定した場合、主な支援内容はまず、要件定義、設計、導入であり、その後、運用定着化、契約更新と続く。では、それぞれの局面で成功するために、どういったスキルが求められるのだろうか。

「カスタマーサクセスに求められるスキルは大きく四つあります。適応力、共感力、創造力、問題解決力の四つです」

カスタマーサクセスの役割は、一対一でより深くお客さまに関わっていく「ハイタッチ」と、多くのお客さまにサービスを提供できるよう、テクノロジーを使うなどして効率的に関わっていく「テックタッチ・ロータッチ」に分けられる。どちらにも共通で求められるスキルに加えて、オンボード期、中堅期、シニア・リーダー期など、それぞれのフェーズによって、さらに異なるスキルが必要になってくる。

講演写真

「スキルを身につけるにあたっては、組織の意識改革が必要です。新しくカスタマーサクセス部門を立ち上げた企業の場合、これまで別の仕事をしていた人が担当者になることが多いでしょう。他部署から異動してきたとき、なぜカスタマーサクセス部門が必要で、どんなことを目指していて、仕事にどういう優先順位をつけて取り組まなければならないのかを理解し、自らの行動を最適化していかなければなりません。そのためには、意識改革が必要です」

担当部門に関係なく学んでいる人が多い「ロジカル・シンキング(論理的思考)」は、カスタマーサクセスにおいても必要なスキルだが、さらに「ラテラル・シンキング(水平思考)」も重要だと杉山氏は語る。

「カスタマーサクセスでは、お客さまに見えていない課題を掘り起こしていく必要があります。アイデアには決まった形がないため、選択肢を広げられるように、探す必要があります。その能力を鍛えるにあたっては、ラテラル・シンキングが重要です」

パターン別人材育成の事例三つ

次に、カスタマーサクセスのより具体的な育成事例を挙げて、両名が解説した。

(1) 製造業の会社に対して、デザイン思考やクリティカルシンキング、プロジェクトマネジメントなどのコースを提供し、社員全員がユーザー視点を身につけられるようにサポートした事例

渡辺:ユーザー起点の発想、デザイン思考の考え方は、現在多くの成長企業で導入されており、実際にイノベーションを起こした事例も多く出ています。これがカスタマーサクセスという分野になった場合、どのような点が重要でしょうか。

杉山:デザイン思考は、共感力を身につける上で大変重要です。デザイン思考の一番の特徴は、「見えない課題を探す」こと。カスタマーサクセスでは、お客さまが気づいている氷山の一角だけではなく、お客さま自身も気付けていない潜在的課題も見出せることが重要です。そのトレーニングとして、デザイン思考の考え方を身につけることが大切です。

(2) システムエンジニア(SE)がカスタマーサクセスマネージャー(CSM)に転身する際のオンボーディングとして、顧客志向の意識改革とコミュニケーション能力の向上を目指した研修の事例

杉山:カスタマーサクセスは自社製品についてよく理解し、社内と連携していかねばならないため、社外からの採用は難しい。そのため、別部署から異動して担当するケースが多くなります。ただ、同じ会社でも部門が異なれば、働き方が異なることも多いでしょう。SEの方がCSMのようなトレーニングを受けた場合、アレルギー反応があるのではないでしょうか。

渡辺:テクニカルスキルに優れている方から「なぜこんな教育を受けなければいけないのか」というネガティブな反応をされることはあります。そのため、研修での講義や実演などを通して、なぜそのスキルが必要なのかを体感することで、理解してもらうことが多いですね。

実際に研修を受講されたエンジニアのマネジャーからは、「技術職と営業職の立場で棲み分けがされていたので、現場で何を実践すべきかだけでなく、営業サイドとの相互理解の重要性を実感しました」とのコメントをいただきました。

また、別の研修を受講されたエンジニアのアシスタントからは、「今まで外部の研修を受けたことがなかったので、自社流・自己流でやっていたことや、お客さま起点ではなく、自社の都合で対応していたことが多かったと気付かされました」とのコメントもありました。

(3) ITサービス企業のカスタマーサクセスのリーダー育成として「品質・コスト・納期(QCD)」重視の企業文化からアジャイル的な顧客視点への転換を図るため、ビジョンを語る研修を実施した事例

渡辺:多くの企業がリーダー育成の重要性を感じながら、何から進めればいいのかわからない、どういうスキルが必要なのかわからない、といった課題を抱えていますね。

杉山:個人で優秀な人材が、マネジメントもうまくできるのか。スキルや経験のギャップを埋めることが重要な課題の一つです。

シニア・リーダー層のテックタッチ・ロータッチでは、目標管理や組織最適化を行う戦略的なマネジメントスキル、また、ハイタッチでは共創パートナー営業、ビジネスコンサルスキルが重要になってきます。

共通して必要なスキルは、ビジョン、コーチングスキルなどです。漠然とフィードバックをしても人は変わりません。行動に着目することで、メンバーの能力を高めてあげられるような指導力を持つことが重要です。

講演写真

質疑応答

ここからは、参加者から寄せられた質問に回答していった。

Q:当社はエンジニアが多く、顧客志向ではない社員が多い状況です。マインドや文化を変えていくには、どうすればよいでしょうか。

杉山:顧客志向でない方が多いのではなく、顧客志向を体現できていないだけなのかもしれません。まずはそういう機会を作ることが重要だと思います。

例えばチームビルディングやボランティアなど、何かチームで成し遂げていくようなものでもいいでしょう。研修では体験できないことも取り入れてみることで、自分たちの会社は社会にどう貢献していくのかという気持ちが醸成できるのではないでしょうか。

Q:当社では営業部門主導でカスタマーサクセスを進めていて、人事が介入しにくい状況です。営業以外のスキル強化も必要だと思うのですが、実行できていません。どのように進めればよいでしょうか。

杉山:カスタマーサクセスは、基本的に営業部門主導、もしくはサポート部門主導で行われることが多いでしょう。私は人材育成には縦と横のマトリクスがあっていいと思いますが、それぞれのLOB(Line Of Business)で必要なスキルを組織横断して横でつなぐことが、人事の一番の役目だと考えています。

営業部に必要なカスタマーサクセスのスキルセットは、他の部門に必要な場合もあるでしょう。横に必要なスキルセットを人事がドライブし、3年次研修や5年次研修、階層研修など、横で行うようにイベントに組み込んでいきます。

逆に採用のタイミングでオンボーディングしなければいけないときに人事部門主導で行うなど、縦の研修と横の研修を、役割分担を持って行うと、うまくいくのではないかと思います。どちらもゴールは一緒なので、経営の目線から見た場合に横軸と縦軸がうまく交差することが重要です。

  • この記事をシェア
  • X
日本の人事部「HRカンファレンス2024-春-」レポート
講演写真

[A]ワコールが取り組む自律型組織・自律革新型人材の育成 ~創業者から受け継ぐ想いと変革の両立~

講演写真

[B-7]NLP心理学を活かしたDX推進 自律性を高めるDX人材育成と、DXをクライアントビジネスに活かす秘訣

講演写真

[B]従業員の「心」に寄り添い、戦略人事を実現する「従業員体験」

講演写真

[C-8]新卒3年以内の離職率50%を0%にした三和建設の取り組み

講演写真

[C]川崎重工業が全世代のキャリア自律を支援する施策展開のポイント~従業員エンゲージメント向上の取り組み~

講演写真

[D-3]報酬・処遇制度見直しの最前線 - ジョブ型人事制度の更なる進化と「ペイ・エクイティ」の実現に向けて

講演写真

[D]モチベーション高く、いきいきと働き続ける環境をどうつくるのか 先進事例から考える「シニア活躍支援」

講演写真

[E]書籍『理念経営2.0』著者と、NECのカルチャー変革から学ぶ、これからの組織の在り方

講演写真

[F]「人的資本経営」推進プロジェクトはどうすれば成功するのか

講演写真

[G-2]事例で理解するテレワーク時の労務管理と人事考課 テレワークでもパフォーマンスを上げる具体的な手法

講演写真

[G]「対話」で見違える、個人と組織の成長サイクル ~キャリアオーナーシップ実践編~

講演写真

[H-5]個々人の“違い”を活かし、超えていくチームの築き方。

講演写真

[H]ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン先進企業は、過去10年に何をしてきたのか?

講演写真

[I]今後の人事戦略にAIという観点が不可欠な理由 ~社会構造の変化や働く意義の多様化から考える~

講演写真

[J]変革創造をリードする経営人材の育成論

講演写真

[K-7]全社のDX人財育成を推進する 人事が取り組む制度設計と育成体系のポイント

講演写真

[K]人事評価を変革する~育成とキャリア開発をふまえて~

講演写真

[L]いま人事パーソンに求められる「スキル」「考え方」とは

講演写真

[M]社員は何を思い、どう動くのか――“人”と向き合う人事だからこそ知っておきたい「マーケティング思考」

講演写真

[N-1]【中小・中堅企業さま向け】組織活性化に向けた次世代リーダー(管理職・役員候補者)の育成プログラム

講演写真

[N]人的資本経営の「実践」をいかに進めるか ~丸紅と三菱UFJの挑戦事例から考える~

講演写真

[O-1]キャリア自律を促進する越境学習の効果と測定方法~東京ガスの事例とKDDI総研との調査結果から探る~

講演写真

[O]従業員の成長と挑戦を支援! 大手日本企業が取り組む「人事の大改革」

講演写真

[P]「意味づけ」と「自己変革」の心理学

講演写真

[Q]従業員の全員活躍を実現する戦略的人員配置

講演写真

[R]人的資本経営とリスキリング~中外製薬に学ぶ、経営戦略と人材施策の繋げ方~

講演写真

[S-4]「カスタマーサクセス」を実現させる人材育成方法とは? ~顧客の成功に伴走する組織の作り方~

講演写真

[S]多忙な管理職を支え、マネジメントを変革する人事 ~HRBPによる組織開発実践法~

講演写真

[T]いま企業が取り組むべき、若手社員の「キャリア自律」支援 次代の変革リーダーをどのように育成するのか

講演写真

[U-4]ハラスメント無自覚者のリスクをいかに検知し防止するか 360度評価の事例にみる無自覚者の変化プロセス

講演写真

[U]事業の大変革を乗り越え、持続的成長に挑戦 CCCグループが実践する人事データ活用とタレントマネジメント

講演写真

[V]日本一風通しが良い会社へ コミュニケーションを軸にしたNECネッツエスアイの組織風土変革

講演写真

[W]真の「戦略人事」を実現するため、いま人事パーソンには何が求められるのか

講演写真

[X-5]NTT東日本とNECが挑戦する越境体験を活用したビジネスリーダー育成

講演写真

[X]事業成長を実現する採用戦略 競争が激化する市場で必要な取り組みとは


このページの先頭へ