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全社のDX人財育成を推進する 人事が取り組む制度設計と育成体系のポイント

  • 内田 直美氏(三井住友ファイナンス&リース株式会社 執行役員 ヒューマンキャピタル開発部長 兼 人事部部付部長)
  • 越田 愛佳氏(株式会社グロービス グロービス学び放題 編集長 兼 国内事業統括ディレクター )
特別講演 [K-7]2024.06.20 掲載
株式会社グロービス講演写真

AIをはじめとするテクノロジーの進化は著しく、それらを活用した新たなビジネスモデル創出を課題の一つに掲げている企業は少なくない。それに伴い、DX人財育成の対応も必要とされるようになり、経営から人事部門への期待も高まっている。環境変化に即して企業領域を拡大させデジタル化を推進してきた三井住友ファイナンス&リースでは、どのような考え方のもと施策を進めてきたのだろうか。また、どのようにDX人財を育成しているのだろうか。同社の内田氏が、デジタル先進企業を目指して取り組んできた施策について紹介。社会人の学びのプラットフォームを担うグロービスの越田氏が、そのポイントを探った。

プロフィール
内田 直美氏(三井住友ファイナンス&リース株式会社 執行役員 ヒューマンキャピタル開発部長 兼 人事部部付部長)
内田 直美 プロフィール写真

(うちだ なおみ)現三井住友ファイナンス&リース株式会社に入社後、法人営業やシステム開発部門・事務部門を経て人事部及びダイバーシティ推進部の業務に従事。昨年度より、ヒューマンキャピタル開発部の部長として、全社の人財育成に取り組んでいる。


越田 愛佳氏(株式会社グロービス グロービス学び放題 編集長 兼 国内事業統括ディレクター )
越田 愛佳 プロフィール写真

(こしだ あいか)人材系企業にて新規事業推進および出版・WEB企画、コンサルや代理店統括など経験後、グロービスに参画。動画学習サービス「グロービス学び放題」の国内事業および動画コンテンツ開発を中心に、デジタル系プロダクトの統括を兼務。研修講師、科目開発も行う。


「キャリア目標」と「学習習慣」の相関性

グロービスは、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」というテーマのもと、創業以来約30年にわたって日本の社会人教育のパイオニアとして、大学院、研修、アセスメントなど、幅広いソリューションを展開してきた。グロービス経営大学院の運営、人事研修・従業員向け研修・能力測定テストの提供、ビジネス書やウェブメディアによる発信のほか、ベンチャーキャピタルとして起業家を応援している。

8年前には、場所や時間の制約なく質の高い学びを得られる定額動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」をスタート。個人と組織の成長への寄与を目指したコンテンツは、ビジネスの普遍的な原理原則から最新トレンドまで幅広く、3000以上がそろう。DXなどテクノロジーに関するカテゴリには、経済産業省の提唱するデジタルスキル標準に完全準拠したコースも追加された。教材は、グロービスグループで培われた経営の実践知やコンテンツ設計力をもとに専門チームが開発を担う。

集合研修の前後やカフェテリアメニューなど、さまざまなシーンに合わせた活用も可能。受講者を確実に成長させるための管理機能が搭載されており、それぞれの学びの状況を測定、把握することができると、同社の越田氏は語る。

「当社で実施した『社会人・組織における学習実態及びデジタルリスキリングに関する意識調査』を紹介したいと思います。残念ながら、社会人の62%は学習習慣がなく、一週間に一回以上学ぶ人は17%という数字が出ました。一方、学習習慣のある人には、『キャリア目標を持っている』『スキルに対する課題に気づいている』『年収が高い』『役職が高い』という特徴が見られました。つまり、キャリア目標を持つ人ほど、スキルに対する課題意識があるために学習習慣が高い、という相関が分かります」

「DX・デジタル化と自社や自部門との関係性」の学びを期待している人事が約半数を占める一方、デジタルスキルに対して、社員の38%が「特に課題はない」、13%が「必要スキルの理解不足」、52%が「無関心・無理解」と回答している。人事は「DXやチームや部下のマネジメントについて学んでほしい」と考えているが、社員は「自分の仕事にすぐに役立つエクセル操作やコミュニケーション力・思考力を学びたい」と望んでいるという、両者の指向が噛み合っていない傾向がうかがえる。DX人財の育成にあたっては、このような意識のズレに対する工夫が求められると越田氏は語った。

講演写真

テーマや専門により自由に学ぶ「SMFLアカデミー」

次に、三井住友ファイナンス&リースの内田氏が、近年の人財育成について語った。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)は1963年に設立以来、時代の変化やニーズを先取りしながら、伝統的なリースビジネスの事業領域を拡大してきた。三井住友フィナンシャルグループと住友商事の戦略的共同事業のもと、メガバンクグループと総合商社が有する広範かつ強固な顧客基盤・ネットワークを活用できること、それぞれが有する得意領域の掛け合わせによる付加価値の高い金融サービスを提供できることを強みとし、通常の融資にはないリースならではのファイナンスサービスやスキームを提案。リースへの知見を活かした事業再編によって、幅広い金融機能を持つ事業会社へ変容を遂げた。さらに、「金融機能×事業展開×DX推進」による総合力を発揮し、社会課題の解決に挑戦し続けている。

グローバルマーケットでは、世界トップ2の航空機リース事業を三井住友銀行と共同で展開。また、航空機エンジンリース事業やヘリコプターリース事業に住友商事と連携して参入するなど、今後も成長が見込めるトランスポーテーション分野を一層強化している。

「当社は2030年に向けた経営目標の実現を掲げ、中期経営計画に取り組んでいます。人事部のミッションは『社員と企業の双方の成長へ貢献すること』です。 人財戦略には、経営戦略実現に向けた最適かつ機動的な人員配置、自律的な社員のチャレンジと成長を応援する企業文化の定着、社員のパフォーマンス最大化・プロフェッショナルの育成、という三つの柱があります」

人財開発・人財育成の方針は、「自律的なチャレンジキャリア開発の支援」「部門・部店の人財育成、カルチャーの醸成と推進」「学びを通して働きがいを感じ、持てる力を発揮する」。社員、各部門・部店、ヒューマンキャピタル開発部が相互連携することによって、人的資本の高度化を図っていく体制だ。

「具体的な育成施策の一つが『SMFLアカデミー』です。2022年、社内におけるラーニングプラットフォームとして立ち上げました。年齢や役職に関係なく、社員全員が学べる場です。階層別、戦略別、テーマ別のほか、事業戦略のニーズに沿った専門性の高い人財育成を目的とした『デジタルアカデミー』『グローバルアカデミー』も設置しました」

「SMFLアカデミー」では、階層別研修以外は基本的に公募制としている。社員自身が高度な専門性の獲得を自ら進んで目指す、自律型人財への進化を促す狙いがあるためである。全てを網羅するツールとして、「GLOBIS 学び放題」も活用できるようにし、全社員にアカウントを付与した。

「キャリア開発支援については、主体的にキャリアを切り開く機会として『SMFL Career Challenge』という公募制度を設けています。自ら異動を希望する部署に応募する仕組みです。

これを後押しする施策も行なっています。『Job Shadow』は、所属部以外の職場での一日業務体験です。2023年度は800名の社員が参加しており、コミュニケーションの活性化にもつながっています。『Job Format』は、各部の業務内容と求めるスキルをまとめた資料で、毎年更新して公表。各部の業務内容への理解を深め、中長期的なキャリアを考えることができます。『Job Forum』は、社内の幅広い業務理解を目的に実施している動画配信で、誰でも、いつでも簡単に視聴できます。自律的なキャリアを検討する機会と位置付けています」

三つのステージを踏んでDXを社内から社外へ

「デジタル先進企業」を目指す姿の一つに掲げ、デジタルをエッジとしたビジネスの変革に取り組んでいる同社では、DXソリューションを内製開発するとともに、営業、事務、コーポレートスタッフ、各部の社員による各現場でのデジタル技術の活用を段階的に推進してきたという。

ステージ1としてまずは、社内のRPAの活用やデータの管理効率化によって業務改善に取り組み、ステージ2では、取引の電子化や営業データの分析などによるお客さまのデジタル化・営業支援を進め、ステージ3では、内製サービスを活用したお客さまのDX支援によるデジタルビジネスを展開していく。現在では、独自開発した資産管理に特化したクラウドシステム『assetforce』を始めとするDXソリューションを提供し、各業界のビジネス変革をサポートしている。

「AI開発者やデータサイエンティストなど、経験豊富なエンジニアが多数在籍していますが、DX領域を専門部隊だけに任せず、全員がDX人財となって連携しながら事業を推進していくことは今後も欠かせません。そこで、2030年までに社員全員がDX人財になるという目標に向けて、DXパス・DXドライバー認証制度を導入しました。『GLOBIS 学び放題』内にある『ITパスポート動画』の視聴完了、もしくはMOS Excel、情報セキュリティマネジメント試験などのDX関連資格の取得を要件としたところ、すでに全社員の97.2%が認証されました」

このように、これからの時代は、社員一人ひとりが自分事としてDXに取り組む必要があると内田氏は強調する。DX人財育成を現場内包型、一体型に進めていくことは、企業文化の定着にもつながっていく。今後もDX人財のさらなる育成強化に向けて、新しい施策を計画しているという。

講演写真

最後に越田氏が、内田氏のプレゼンテーションの重要なポイントを三つ挙げた。

「まずは、キャリア開発と学びを繋げるための施策に力を入れていること。二つ目は、実際のビジネスと学びが密接にあること。それが経営計画や人材戦略の形として共有されています。三つ目は、デジタル人財だけがDXを学べばいいと考えずに、全社で一緒に取り組む方針のもと育成をしっかり設計していることです」

DXに興味や知識のない社員を後押しする工夫

続いて、ディスカッションが行われた。

越田:「SMFLアカデミー」を作った後に、社員のモチベーションや風土の変化は何かありましたか」

内田:2020年に「デジタル先進企業」というキーワードを打ち出したのですが、当社はもともとリース会社なので、社員の多くから「デジタルが必要なことは分かるが、デジタル先進企業とは何なのか」など、イメージがつかめないという反応が見られました。そこで、経営陣をはじめとして人事部からも、事業展開やDX推進について、社会価値や経済価値なども交えた説明を続けていきました。これによって社員の反応も変わってきたと思います。
さらに、「SMFLアカデミー」を立ち上げて内容を発表したことで、社員一人ひとりが目指すところやそれぞれのパスが可視化できました。日頃の業務の中でのDXの必要性も感じられ、自分事として学びたいと考えるようになっていったのは、大きな変化です。

越田:そのような、キャリアとの接続、業務との接続といった気づきは、学びをポジティブに捉える大きなきっかけになると思います。「SMFLアカデミー」の学習内容をかなり細かく作られていますが、策定プロセスや難しかった点などを教えてください。

内田:階層別研修などは従来から実施していたので、ブラッシュアップしながら内容を固めていきました。一番難しかったのは、デジタルの部分です。「デジタルアカデミー」と大きなお題目をつけたものの、誰に対してどういう内容を組み込むか、ということに非常に悩みました。専門部署にいるスキルの高い社員もいれば、デジタルと距離感のある一般社員もいるので、デジタルスキルの習熟の階層に応じて学ぶ要素をまとめるのに時間がかかりました。

越田:デジタル習熟度の違いは、他の企業様も悩んでいる点です。技術進歩は著しいため、自律的に学びを選択できる制度設計を敷いておくことが望ましいと考えています。社内での受講活性について、工夫された点、モチベーションの上げ方など、ヒントをいただけますか。

内田:経営陣や部門長といった上層部から学んでいくという、トップダウンの率先垂範が、会社全体、社員全体のモチベーションアップにつながったと感じています。それから、学びの進捗の可視化、課題の提示によって、目指すところやプロセスが把握できたことは、受講の後押しになりました。

社内のイントラや社内向けの発信の工夫も効いたと思います。これまで一方通行だったり、言葉遣いが硬かったりしていた点を改めたのです。分かりやすさや見やすさ、親しみやすさを大切にして、伝え方や見せ方を変えました。

越田:DXの学習推進のために工夫したことをお聞かせください。

内田:資格取得報奨金制度として、ITパスポートの資格を取得した社員には2万円の報奨金を支給しました。報奨金が学びのきっかけになり、その後も他の資格に挑戦したり学んだりといった好循環が生まれています。

また、学びのラインナップを充実させたことです。社内には専門の技術者も多いため、いろいろな講座を開催していますし、リスキリングも推奨しています。DXに限らず、興味あるテーマが用意されていて誰でも挑戦できる環境があれば、自ずと学びへの意欲も高まってくるものです。

越田:特にデジタル関連への学びに関しては、興味や知識がない人のために最初の一歩を後押しする工夫は大事だと思います。

最初の一歩にもなるような幅広いコンテンツを「GLOBIS 学び放題」では取り揃えていますし、学びによる知識レベルを確認できるアセスメントや、復習を促すレコメンドの機能も付いているため、学びのサイクルも回りやすくなります。法人向けの無料トライアルもありますので、ぜひお試しください。本日はありがとうございました。

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