講演レポート・動画 イベントレポート

HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2024-春-」講演レポート・動画 >  特別講演 [C-8] 新卒3年以内の離職率50%を0%にした三和建設の取り組み

新卒3年以内の離職率50%を0%にした三和建設の取り組み

  • 松本 孝文氏(三和建設株式会社 執行役員 大阪本店次長 RiSOKO/HuePLUS ブランドマネージャー(兼務))
特別講演 [C-8]2024.06.20 掲載
三和建設株式会社講演写真

採用、定着が困難とされる建設業界において、7年間で社員数が2倍近くの規模となった三和建設。中でも新卒社員の離職率は、2020年採用以降0%を継続維持している。経営陣・社員を巻き込んで、今後あるべき企業像や社員像についてディスカッションしながら進めてきた自社のプロジェクト「教育寮(ひとづくり寮)」は、同社の新事業「HuePLUS」として、同じ課題を抱える企業の課題解決に貢献している。新卒3年以内の離職率50%から、社内改革を経て0%の成果を得るに至った取り組みについて、三和建設執行役員の松本孝文氏が講演を行った。

プロフィール
松本 孝文氏(三和建設株式会社 執行役員 大阪本店次長 RiSOKO/HuePLUS ブランドマネージャー(兼務))
松本 孝文 プロフィール写真

(まつもと たかふみ)某中堅ゼネコン新卒入社後、建築施工管理⇒建築設計を経験し2010年に三和建設株式会社に入社。 営業本部に配属後2013年に大阪本店次長、2018年にRiSOKO ブランドマネージャーに就任、2023年にはHuePLUS ブランドマネージャーに就任し両ブランドのマネージャーを兼務。


“ひとづくり寮”は、「つくるひとをつくりあう、みんなの寮」

冒頭に、三和建設大阪本店営業グループの廣嶋優丞氏から同社の紹介があった。三和建設の創業は1947年。本年78年目となる建設会社である。本社は大阪だが、東京と大阪に拠点があり、売り上げ規模は東西合わせて160億円。社員数は197名で、うち3分の1が女性社員である。創業時よりBtoBの取引が多く、サントリーが所有する京都府城陽市の清涼飲料水製造工場や大阪府三島郡のウイスキー蒸溜所のほか、ニチレイフーズ、杉村倉庫、淀川製鋼所、パラマウントベッドなども同社が手掛けている。

三和建設は、Great Place To Work® Institute Japanが発表する「働きがいのある会社」ベストカンパニーを7年連続(2015-2021)で受賞。2017年には、人を大切にする経営学会が発表する「日本で一番大切にしたい会社大賞」の審査員特別賞を建設業で初めて受賞した。「WOMAN’s VALUE AWARD2019」では、優秀賞に選出。経営理念に掲げる「つくるひとをつくる」を体現した「ひと本位主義」の経営が評価された形であり、これらは全て苦しい時代を経て、経営陣と社員が一体となり変革を続けてきた結果だという。所有資産のほとんどを売却することになり、社員の解雇も行った時代から、「つくるひとをつくる」を掲げるに至った経緯は、森本尚孝社長の著書『人に困らない経営』(あさ出版)に詳しい。

続けて、同社執行役員の松本孝文氏より、50%あった離職率を0%にできた取り組みについて説明が行われた。松本氏が現在ブランドマネージャーを務める事業は、機能倉庫と呼ばれる特殊倉庫の設計・施工を提供する「RiSOKO」と、企業の“ひと”に関する課題を解決するための寮づくりソリューションを提供する「HuePLUS」である。

この「HuePLUS」こそが、同社が試行錯誤を経て離職率0%に至ったプロジェクトそのものである。冒頭、松本氏は、2018年に口コミサイトに書き込まれた自社の評価を紹介した。そこには「若手の定着率がとても低い」「いくら採用してもほとんど定着しない印象」と記載されていた。厳しい指摘だが、松本氏は「確かに6年前を振り返ると、このような口コミがあってもおかしくない状況だったと思う」と認めた。同社では「ひとづくり寮」の導入が始まってから、徐々に離職率が改善していったという。

「『ひとづくり寮』は、『つくるひとをつくりあう、みんなの寮』をコンセプトにした教育寮です。新入社員が1年間共同生活を行い、横のつながりと知識を育みながら、三和建設の未来を担う人材として成長することを目的としています。社員にとってのあるべき寮とはなにか、女性社員を中心としたプロジェクトで、ワークショップを織り交ぜながら計画を進めています」

講演写真

トップダウンからボトムアップへ―経営理念を全社員で共有

ここで松本氏は「ひとづくり寮」以前の状況について語った。2008年、4代目社長に就任した森本氏が、「新たなる成長を目指して」という冊子を社員に配布した。冊子には、それまできちんと明文化されていなかった「経営理念」「使命」「価値観」「ビジョン」が記載されていた。そのとき初めて、どういう会社にしていきたいかが、社員に共有されたのだという。

「2011年には、さらにブラッシュアップをかけました。このあたりが、トップダウンからボトムアップへ組織の切り替えを行ったきっかけです。2013年には、経営理念『つくるひとをつくる』を明確に定義しました」

このときも、「コーポレートスタンダード」と題した冊子を発行し、全社員に共有。コーポレートスタンダードは、毎年更新され、現在も発行されている。変更や新規追加を繰り返し、初年度は50ページ程度だったものが、現在は150ページほどのボリュームになっている。同2013年には、経営理念や会社の方針をきちんと全社員に伝えるため、全社会議「SANWA SUMMIT」を始めている。コロナ禍以前は東京と大阪の全社員が一堂に会して開催。コロナ禍では、全員が同じ時間にZoom上に集まって実施した。

現在、なくてはならないツールの一つに、社内日報システム「SODA」がある。社長をはじめとする全社員に記載義務・閲覧権利があるSNSタイプの日報システムで、社員は日々の業務を開示・共有している。システムでは、双方向のコミュニケーションが可能で、現場における課題や悩みを全社員と共有できる。そのためタイムリーにアドバイスや対応を行え、円滑な業務運営や社員の孤立防止に寄与しているという。

「社長の日報に対しても社員が、提案を書き込めます。社員200人程度の会社なので、ある程度顔と名前は一致するのですが、会ったことのない社員もいます。しかし、日報には顔写真もついており、見ればその人がどのような活動をしているかが、分かります。内定者も書き込めるので、内定段階からどのような人か、事前に知れるようなシステムです」

採用にも力を入れ、2015年からは「成長型・理念共感型選考」という選考プロセスを取り入れている。「成長型・理念共感型選考」とは、就職活動期間において、応募学生と同社が密接にコミュニケーションを取り合い、お互いのマッチング度を徹底的に確認するものである。

TOP LIVEと名付けた一次選考は、企業理念・事業を知るための1DAY開催。二次選考は、応募学生一人ひとりに社員が関わる合宿型の2DAYS。三次選考は、通い方式の3 Weeks 。将来、三和建設で働くビジョンを描くための重要な期間として、応募学生の都合のよい時間に来社して何でも質問できる期間にしている。そして、社長との1on1面談が最終選考となる。

「じっくり時間をかけてお互いを知ることで、 “こんなはずではなかった”という入社後のミスマッチを極力減らしたいという目的があります。三次選考のプレゼンテーションで、私のやりたいことは三和建設になかったと話す学生もいますが、結果的にはマイナスではありません。事前に分かるのは、お互いにとって良いことだと考えています」

2017年には、社内大学「SANWAアカデミー」を開校。アカデミーでは、専門能力や総合能力の向上、専門分野の知識習得、業務に必要な資格習得などの支援を行っている。開催は第三水曜日の午後、1コマ50分の4コマである。

「以前は対面で行っていましたが、コロナ禍以降オンライン開催になったことで、参加しやすくなりました。受講者が社員であるだけでなく、講師も全員社員であることが大きな特徴です。社員が講師を担当することで、講師自身が成長できるだけでなく、全社的な知識・経験・技術の共有が可能です」

“ひとづくり寮”で手に入れたものは、卒寮生がつくる“三和建設の未来”

このように、「ひとづくり寮」以前にも、さまざまな取り組みを行ってきたが、社員数は横ばいのままであった。2012年に入社した3人のうち1人が離職し、2017年に入社した8人のうち5人が離職した。2012年から2017年を合計すると、32人の入社に対して残った人数は11人であった。定着率は34%。6年間で21人が離職していることをコストで考えた場合、平均2年での離職とすると1人当たりの採用および雇用コストが1200万円となり、合計2億5000万円ほどが流出したという。

「新卒採用の取り組みを強化した結果、採用力は向上したのですが、定着に大きな課題がありました。離職の理由は個別にあるとは思いますが、建設会社特有の事情として、『配属された作業所における、孤独感や不安感があるのではないか』と思い当たりました。この若手の孤独や不安を解消できないか考えていたところ、以前あった寮の効果を社内で見直そうという話が持ち上がったのです」

ここで参加者へのアンケートが行われた。テーマは「新たに社員寮を所有するうえで感じるハードルはどんなことですか」。選択肢は(1)初期投資費用(工事費など)、(2)維持管理、運用費用や手間、(3)新卒世代にうけない、(4)社員間の公平性を欠く、(5)そもそも対象社員数が少ないまたはいない、(6)特にハードルを感じない、の六つ。回答は、(1)(2)(3)の意見が多く、80%を占めた。当時の同社でも同じような意見だったという。

「発端は、『SODA』の社長の日報でした。会社から歩いて10分ぐらいの敷地を入手できたので、独身寮を兼ねた社員用のワンルームマンションを建てる予定があるということでした。これを寮にしてはどうかというプロジェクトが立ち上がったのです」

ワークショップ方式でプロジェクトが進む中で見えてきたのは、「ただ単に居心地の良い寮を建てるのではなく、三和建設の経営理念を体現する空間をつくることが大切だ」「三和建設の未来を考える場所にしよう」という考えだ。結果として、コンセプトは、「つくる人をつくりあう、みんなの家」に決定。コンセプトを叶えるしかけとしては、論理を生み出す空間づくり、部屋に戻るまで人に顔を合わせるきっかけづくり、必要以上に部屋にこもらない仕組みづくりの案が出て、自然な強制が共生を生み出していくという仕組みができあがった。

講演写真

寮は2017年9月に着工し、2018年3月に竣工(しゅんこう)。寮建設にかかった費用は、土地取得、設計、家具も含めて、およそ2億2000万円。「ひとづくり寮」以前の6年間で流出した採用・雇用コストは、2億5000万円である。

「新卒入社の社員は、1年間の入居を必須としています。東京採用も大阪採用も、全員大阪に集まって1年間一緒に生活します。運営は1年目が中心です。ひとづくり寮をきっかけに,
社員は増加しています。ひとづくり寮以前の定着率が34%。その後の同じ6年間で、入社人数53人のうち離職者は8人。定着率は85%になりました」

「ひとづくり寮」以前の5年間と、「ひとづくり寮」以後の5年間で社員数と売り上げが上がった。それだけでなく、経常利益率も2倍になったという。どのような効果があったのだろうか。同社が2023年に、実際に寮生活を経験した社員にアンケートをとったところ、入寮前の寮制度の受け止めとして、「肯定的42.86%」「どちらでもない28.57%」「否定的・不安28.57%」だった。しかし、寮経験後は「肯定的97.26%」「どちらでもない2.86%」「否定的2.86%」という結果が出た。寮生活で得たものとして「同期との信頼関係、絆」「個性を理解して人間関係を構築する力」「人間力成長」「多様性をきちんと受け入れる勉強ができた」との回答もあった。

「自分が今まで生まれ育ってきた環境や文化と、全く異なる環境で育った人と同じ屋根の下で過ごすので、けんかをすることもあるようです。しかし、寮で1年過ごすと、人として必要なことや社会人として必要なことを得られた、という意見がほとんどでした」

寮や同期の存在について聞いたところ、「嫌だと思っていた同期との生活が、かけがえのない時間」「今では『他には代えられない、特別な存在』になった」「同期は頼もしい存在」「同期はライバルであり理解者」との回答があった。

「本年3月の卒寮生は45名。この45名がつくる“三和建設の未来”こそが、私たちが“ひとづくり寮”で手に入れたものなのだと思います。これからが非常に楽しみです」

三和建設は、自社の「ひとづくり寮」の経験が、同様の問題を抱える他社の課題解決に貢献できるのではないかと考え、「HuePLUS」の事業を立ち上げた。「HuePLUS」とは、「寮」という建物づくりを通じて、人に関する課題解決を図っていく事業であり、「定着・育成」に関するソリューションブランドである。

「企業の社員に対する住宅関連の福利厚生としては、寮、一般社宅、家賃補助などが考えられます。これらと『HuePLUS』が大きく違うところは、自律性を担保しつつ、共同生活エリアも充実させることで、コミュニティーをつくっていくという考え方。企画・計画の段階で、社員を巻き込んでワークショップを行い、経営陣にプレゼンテーションすることもあれば、寮運営のサポートを行い、寮に住む人たちのコミュニティーづくりに積極的にかかわることもあります。社員寮の建設・運営を通じて企業の人材課題を解決する、全く新しいソリューションといえます」

本講演企業

  • この記事をシェア
  • X
本講演企業

日本の人事部「HRカンファレンス2024-春-」レポート
講演写真

[A]ワコールが取り組む自律型組織・自律革新型人材の育成 ~創業者から受け継ぐ想いと変革の両立~

講演写真

[B-7]NLP心理学を活かしたDX推進 自律性を高めるDX人材育成と、DXをクライアントビジネスに活かす秘訣

講演写真

[B]従業員の「心」に寄り添い、戦略人事を実現する「従業員体験」

講演写真

[C-8]新卒3年以内の離職率50%を0%にした三和建設の取り組み

講演写真

[C]川崎重工業が全世代のキャリア自律を支援する施策展開のポイント~従業員エンゲージメント向上の取り組み~

講演写真

[D-3]報酬・処遇制度見直しの最前線 - ジョブ型人事制度の更なる進化と「ペイ・エクイティ」の実現に向けて

講演写真

[D]モチベーション高く、いきいきと働き続ける環境をどうつくるのか 先進事例から考える「シニア活躍支援」

講演写真

[E]書籍『理念経営2.0』著者と、NECのカルチャー変革から学ぶ、これからの組織の在り方

講演写真

[F]「人的資本経営」推進プロジェクトはどうすれば成功するのか

講演写真

[G-2]事例で理解するテレワーク時の労務管理と人事考課 テレワークでもパフォーマンスを上げる具体的な手法

講演写真

[G]「対話」で見違える、個人と組織の成長サイクル ~キャリアオーナーシップ実践編~

講演写真

[H-5]個々人の“違い”を活かし、超えていくチームの築き方。

講演写真

[H]ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン先進企業は、過去10年に何をしてきたのか?

講演写真

[I]今後の人事戦略にAIという観点が不可欠な理由 ~社会構造の変化や働く意義の多様化から考える~

講演写真

[J]変革創造をリードする経営人材の育成論

講演写真

[K-7]全社のDX人財育成を推進する 人事が取り組む制度設計と育成体系のポイント

講演写真

[K]人事評価を変革する~育成とキャリア開発をふまえて~

講演写真

[L]いま人事パーソンに求められる「スキル」「考え方」とは

講演写真

[M]社員は何を思い、どう動くのか――“人”と向き合う人事だからこそ知っておきたい「マーケティング思考」

講演写真

[N-1]【中小・中堅企業さま向け】組織活性化に向けた次世代リーダー(管理職・役員候補者)の育成プログラム

講演写真

[N]人的資本経営の「実践」をいかに進めるか ~丸紅と三菱UFJの挑戦事例から考える~

講演写真

[O-1]キャリア自律を促進する越境学習の効果と測定方法~東京ガスの事例とKDDI総研との調査結果から探る~

講演写真

[O]従業員の成長と挑戦を支援! 大手日本企業が取り組む「人事の大改革」

講演写真

[P]「意味づけ」と「自己変革」の心理学

講演写真

[Q]従業員の全員活躍を実現する戦略的人員配置

講演写真

[R]人的資本経営とリスキリング~中外製薬に学ぶ、経営戦略と人材施策の繋げ方~

講演写真

[S-4]「カスタマーサクセス」を実現させる人材育成方法とは? ~顧客の成功に伴走する組織の作り方~

講演写真

[S]多忙な管理職を支え、マネジメントを変革する人事 ~HRBPによる組織開発実践法~

講演写真

[T]いま企業が取り組むべき、若手社員の「キャリア自律」支援 次代の変革リーダーをどのように育成するのか

講演写真

[U-4]ハラスメント無自覚者のリスクをいかに検知し防止するか 360度評価の事例にみる無自覚者の変化プロセス

講演写真

[U]事業の大変革を乗り越え、持続的成長に挑戦 CCCグループが実践する人事データ活用とタレントマネジメント

講演写真

[V]日本一風通しが良い会社へ コミュニケーションを軸にしたNECネッツエスアイの組織風土変革

講演写真

[W]真の「戦略人事」を実現するため、いま人事パーソンには何が求められるのか

講演写真

[X-5]NTT東日本とNECが挑戦する越境体験を活用したビジネスリーダー育成

講演写真

[X]事業成長を実現する採用戦略 競争が激化する市場で必要な取り組みとは


このページの先頭へ