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NLP心理学を活かしたDX推進
自律性を高めるDX人材育成と、DXをクライアントビジネスに活かす秘訣

  • 荒川 明夫氏(プライマルカラーズ 代表/情報処理推進機構(IPA) 非常勤職員/立命館大学 OIC総合研究機構 助教)
  • 二階堂 忠春氏(一般社団法人日本NLP能力開発協会 代表理事/立命館大学ビジネススクール 教授)
特別講演 [B-7]2024.06.20 掲載
一般社団法人日本NLP能力開発協会講演写真

企業が競争優位性を高めるためには、予測困難な変化に対応するための自律型DX人材の育成が急務である。自律型DX人材の育成には、スキルの習得だけでは不十分であり、実践まで想定した育成が求められる。本講演では、NLP心理学のスペシャリストで日本NLP能力開発協会代表理事(立命館大学ビジネススクール教授)の二階堂忠春氏が、協会の協力講師で、企業のDX推進を支援するプライマルカラーズ代表の荒川明夫氏と共に、NLP心理学を活かした自律型DX人材の育成について解説した。

プロフィール
荒川 明夫氏(プライマルカラーズ 代表/情報処理推進機構(IPA) 非常勤職員/立命館大学 OIC総合研究機構 助教)
荒川 明夫 プロフィール写真

(あらかわ あきお)東京都出身。デジタルマーケティングを主軸にコンサルティング事業を展開。展示会やセミナーの企画・運営、広報業務支援事業を経て、現在は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進支援、広報・マーケティング部門の研修等、非IT事業者に向けてITコンサルティングおよび研修事業を行っている。


二階堂 忠春氏(一般社団法人日本NLP能力開発協会 代表理事/立命館大学ビジネススクール 教授)
二階堂 忠春 プロフィール写真

(にかいどう ただはる)仙台市生まれ。東北大学法学部卒業、南カリフォルニア大学MBA。東北電力、PwCコンサルティングを経て現職。2009年米誌「ニューヨーク・タイムズ」にコミュニケーションの専門家として紹介される。NLP心理学に基づく、コーチング・交渉・プレゼン等のスキルをテーマに研修を実施。大手企業の階層別研修に従事。


DX推進の基盤には、目的意識や知識の壁を越えるための、対話による共通理解が必要

東京に本部を置く一般社団法人日本NLP能力開発協会は、NLP心理学に基づく各種ヒューマンスキルを高める人材育成・研修教育活動を全国に広く届ける活動を行っている。NLP(神経言語プログラミング)とは、心理学と言語学の視点から人の思考やコミュニケーションのパターンを理解し活用する学問で、企業のダイバーシティ&インクルージョンを推進し、エンゲージメントの向上に有効なアプローチである。

日本NLP能力開発協会の代表理事である二階堂忠春氏は、立命館大学ビジネススクール(MBA)で組織行動学とリーダーシップの授業を担当しており、教育機関とも連携している。コーチング技術をNLPと融合し、企業の人的資本を高めるために階層別コーチング研修を開催するなど、NLPをビジネスパーソンのヒューマンスキル向上に応用し、メンバーの行動変容を実現している。また、米国NLP協会より「認定NLPコーチ」資格を発行できる日本唯一の教育団体として認められており、これらの活動を通じて、NLP心理学を活用した人材育成に取り組んでいる。心理学をベースにした学問と、企業活動のDXは関係が薄いように見えるが、組織の中で人がどのようにビジネスの成果を出していくかという点で、関連の深い分野である

冒頭に、協会の協力講師で、企業のDX推進を支援するプライマルカラーズ合同会社代表の荒川明夫氏が、日本のDXの現状について、2020年に経済産業省が発表した「DXレポート2」を示し、日本でDXが進まない原因について語った。

講演写真

「『DXレポート2』では、企業内外における各ステークホルダー間の対話不足が明らかになりました。具体的には、経営層、事業部門、IT部門、そして外部関係者の間で、コミュニケーションが十分に行われていませんでした。DXの目的が理解できない、DXの進め方がわからないといった問題が、それぞれの役職や立場によって適切に議論されていなかったのです」

経営者に明確なビジョンがないと、経営者とビジネス部門の担当者の間に目的意識の壁ができる。現場の担当者は、具体的な目標や経営者の意図が不明確なまま、任された業務を遂行することになるだろう。したがって経営者とビジネス部門の担当者は、コミュニケーションを通じて会社の業務プロセスにおける課題や解決策、会社全体の目標を明確にする必要がある。

DX推進においては、経営者やビジネス部門と、ITに詳しい情報システム部門の間に知識の壁ができる。この壁を取り払うためには、業務に詳しい人がITの知識を深め、ITに詳しい人は業務の理解を深める必要がある。ITの専門家でなくても、最低限のデジタル知識を身につけ、情報システム部門やベンダーとの対話を通じて共通理解を持ち、その基盤の上でDXを推進していくことが求められる。

「デジタル知識を深めるというのは、プログラミング言語を覚えるとか、内部のネットワークのイントラを構築できるということではありません。例えば、IoTの機能やクラウドの仕組みについて、ちゃんと理解しているレベルでいいのです。知識の壁とは、言葉の意味を知っているか否かです」

組織にDXを浸透させるためには、人の意識を変える必要がある

これまで組織内でITに詳しい人は、システムを構築する役割だけを果たしてきた。しかしこれからは、ITに詳しい人が業務プロセスや経営組織運営に関心を持ち、オペレーションの知識を身につけることで、建設的なコミュニケーションが可能となるだろう。

経営層・事業部門・IT部門の連携を進展させた次に組織が直面するのは、業務にもITにも詳しくない人がぶつかる言語と技術の壁である。「ITは苦手」「ITはわからない」と主張する人から、DXの推進に対して反発が生じた場合、ITに抵抗感を持つ層に対しても徐々にITを浸透させ、業務が効率的に運営される仕掛けや仕組みを設計することが必要である。

「DXを阻むものは“人”です。組織の中でDXを浸透させるためには、人の意識を変えるしかありません。企業は、ITリテラシーの底上げと明確なビジョンの打ち出し、そしてDXに至るまでのプロセスの周知を考え実行するべきです」

これらのさまざまな壁を打破するために必要なのが、自律型DX人材である。彼らは、各業務をつなぐ橋渡し的な役割や、業務の通訳的な機能を果たす。各業務に従事する人が他部門の業務を理解し協力することも重要だが、各部門間をつなぐブリッジ役の存在が、組織全体を横断的に統合したDXの推進を可能にする。

DXに至るまでのプロセスは、Digitization(デジタイゼーション)→Digitalization(デジタライゼーション)→Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション=DX)がある。単なる電子化であるデジタイゼーションから、各業務にデジタルを取り入れて改善するデジタライゼーションまでは、多くの企業が取り組んできた。しかし次の段階であるデジタルトランスフォーメーション(DX)には至っていない。

「As Isの現状の課題解決と、To Beの目標達成に向かうための組織変革に同時に取り組むのがDXです。既存の事業から新規事業へと広げていく。それを意識すれば、デジタル化を目的にすることなく、DXの推進ができると考えています」

As Isの課題解決アプローチは、個別最適化の取り組みとなり、既存のビジネス構造やITシステムがイノベーションの足かせとして残る恐れがある。現状から将来のビジョンを予測するフォアキャストと、将来のビジョンから現状を振り返るバックキャストの二つの視点から見たときに生じる溝をどのように埋めるか。ビジョンが現状と適切に結びつくかどうかを考えることが重要であり、この視点がDX推進の勘所である。

このアプローチは、ヒューマンスキルを持ち合わせた自律型DX人材が、企業内外の多様性あるステークホルダーと効果的なコミュニケーションを図り、目標達成に向けて巻き込んでいくことで、その実効性を高める。

NLP心理学はデジタルとビジネスをつなぐOSの役割を果たす

講演写真

荒川氏の講演を受け、二階堂氏が、組織全体のビジョンを共有できる自律型DX人材について説明した。

自律型DX人材の育成とその活躍という観点では、ビジネススキルとデジタルスキルが重要な要素となる。会社内には、ビジネスのスペシャリストとデジタルのスペシャリストが存在する。これら二つの人材の間にある溝を、自律型DX人材は埋めることができる。

自律型DX人材には、ビジネスとデジタル両方のスペシャリストの共通言語を持ち、ヒューマンスキルを活用しながら、組織の目標や目的に向けてビジネスを推進していくことが求められる。

「デジタル技術を活用してビジネス・トランスフォーメーションを起こしていく人材こそが、自律型DX人材なのです」

続いて、「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」(独立行政法人情報処理推進機構(IPA))をもとに、DX人材に必要な素養について解説が行われた。

IPAの調査によれば、DX人材に必要な素養は「課題設定力」と「主体性・好奇心」である。具体的には(1)不確実な未来への創造力、(2)臨機応変/柔軟な対応力、(3)社外や異種の巻き込み力、(4)失敗したときの姿勢/思考、(5)モチベーション/意味づけする力、(6)いざというときの自身の突破力だという。

現在多くの企業では、これらの能力が低い人材の育成課題に直面している。そこで二階堂氏からは「各メンバーの行動変容が重要であり、それを達成するためにはNLP心理学のアプローチが有効である」との話があった。

NLPは、1970年代半ばにアメリカで体系化された行動変容を促す実践コミュニケーション心理学である。当時の研究者たちはハイパフォーマーの行動を分析し、その人がどのように言葉を使い、思考し、感情を表現し、行動するかをベンチマークとして捉え、効果的なコミュニケーションモデルとして可視化した。

「私は、NLP心理学がデジタルとビジネスをつなぐOS的な要素を持つと考えています。その理由は、Neuro-Linguistic Programming(NLP)が神経・言語・プログラミングの三つの要素をカバーしているからです。これらの要素を適切に扱うことで、人のモチベーションに影響を与え、組織内のステークホルダーとの調整や合意形成が可能になります」

自律的DX人材の育成には、抽象度のコントロール(チャンクアップ/ダウン)が有効

ここで二階堂氏は、「当協会の研修先のある企業では、自律型人材が部門間での縦割り意識や軋轢(あつれき)を克服し、ビジネス上の成果を上げたケースがあります」とし、具体例を述べた。

「例えば、ある研修先企業の営業担当者は、DXと直接関連した業務を担当していませんでした。しかし、社内のビジネスプラットフォームを提供する部門では、デジタル技術を活用していました。そこでNLP研修を受講した営業担当者が合意形成・コミュニケーションのスキルを活用して、自身のリソースとして他部門のデジタル技術をとらえ、デジタル部門の人材を巻き込むことにより、クライアントに新たな付加価値を提供することに成功しました」

この取り組みは、クライアント企業にとって有益な成果をもたらし、組織のリソースを効果的に活用できた好事例である。組織の心理的安全性が高く、風通しがよい場合は、このような意思を持って行動する人材が育ちやすい。しかし縦割り型の組織や、上司と部下、経営者と各階層間の齟齬がある場合は、こういった人材が自然と育つことは少ない。

人間が言語を用いる限り、コミュニケーションには限界が存在する。しかし、「NLP心理学の技術を用いることで、この限界を克服することができる」と二階堂氏は話す。具体的に用いるのは「チャンク」という考え方だ。チャンクとは、人の思考や感情をより正確に理解し、調整・合意するための、抽象度の概念レベルのことである。抽象度を上げることを「チャンクアップ」といい、抽象度を下げ具体性を高めることを「チャンクダウン」という。

チャンクアップは、複数の人が異なった意見を持って対立している場合に有効だ。例えば、「事業拡大」と「合理化・縮小」という対立する意見が出た場合、チャンクアップした上位目標(メタ目標)として「経済環境の変化に適応した事業の継続」を示すことで対立を解消し、合意形成に至る可能性が高まる。

チャンクダウンは、事象を具体化することで正確性を担保したい時に有効だ。例えば上司から「あの資料、もっとクオリティを上げてほしいんだけどなぁ」と言われた際に、部下はどの資料のことか、何と比較しているのか、具体的にどのようにクオリティを上げればいいのか、何か別の選択肢があるのかなど、NLPスキルの一つである質問技法(メタモデル質問)を用いることで、改善点を明確にできる。

講演写真

DXには、要件定義というプロセスが存在する。システムエンジニアなどの専門家が要件定義を進める際、チャンクダウンした質問ができないと、後々大きな問題が生じるケースがある。またチャンクアップも同様に重要であり、これらのNLP心理学の技術を適切に用いることで、組織内の多様なステークホルダーの意見調整を図り、DXの課題を解決することができる。

人とのコミュニケーションには限界がある。その事実を踏まえて、NLP心理学の技術を活用することで、組織内外の関係者との合意形成を効果的に行うことが可能となる。また、As Is(現状)と、To Be(目標)を明確に理解し、その間のギャップを埋めるための具体的な行動計画を立てることも重要だ。メンバーの行動変容を促し、このような行動をとれる自律型人材を輩出し、組織エンゲージメントを高めるためにも、NLPを活用したヒューマンスキル向上が有効なのである。

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