【中小・中堅企業さま向け】組織活性化に向けた次世代リーダー(管理職・役員候補者)の育成プログラム
- 樋口 麻央氏(TOMAコンサルタンツグループ株式会社 特定社会保険労務士 人材開発コンサルタント)
「管理職層のマネジメント力が不足している」「次世代リーダー候補を育てられていない」など、多くの企業がリーダー育成に関してさまざまな課題を抱えているが、他の業務に忙殺され、後回しにしている企業は少なくない。しかし、組織活性化のためには次世代リーダーの育成は必須であり、企業には育成プログラムの設計、実施が求められている。特定社会保険労務士として人事・労務に係る幅広い経験を持つTOMAコンサルタンツグループの樋󠄀口麻央氏が、次世代リーダー育成の必要性やプログラムについて語った。
(ひぐち まお)2011年TOMAコンサルタンツグループ株式会社入社。給与計算・社会保険手続等から、労務相談や就業規則作成等の人事コンサルティングまで、人事・労務にまつわる幅広い経験を積む。最近では、人材離れを防ぎ、人材育成をするためのサービスを提案し、わかりやすく親身なコンサルティングで好評を博している。※樋口の「樋」のしんにょうの点は1つ
人事労務における課題の把握と人材育成
TOMAコンサルタンツグループは1982年に創業、「日本一多くの100年企業を創り続け1000年続くコンサルティングファームになります。」をビジョンに掲げる企業だ。税務/会計、事業承継、組織再編、相続、人事/労務、経営/財務、業務改善、IT活用など、幅広くワンストップサービスであらゆる経営課題の解決とビジョン実現、持続的な企業成長を支援している。また、管理職の研修やフォローアップ、役員候補者研修なども行っている。コンサルティングノウハウを活かした研修パッケージが用意されているだけでなく、各企業の状況に合わせたカスタマイズが可能だ。
各グループ法人を合わせた社員数は200名で、有資格者も多数在籍。毎月1000件以上の顧問先を支援してきたノウハウをもとに、コンサルタントからそれぞれの企業に適した研修プログラムを提案している。
講演の冒頭で樋󠄀口氏は、昨今の人事労務における課題について語った。令和5年「人事の課題と未来」に関するアンケート(労政時報。以下「アンケート」という)によると、採用・人材確保、人材育成、人事管理、評価、処遇、企業風土改革・職場環境改善など、数多くの課題があるという。また、課題を把握する手段としては、「従業員サーベイ」「管理職へのヒアリング」「労使懇談会」が上位に挙がった。ただし、うまくいっている企業ばかりではない。
「従業員の課題を吸い上げるため、目安箱を設置したり、申告制度を導入したりしている企業がある一方で、何もできていない企業もあります。まずはきちんと従業員サーベイを実施することが重要です」
人材育成に関する課題で特に重要だと考えられているのが「管理職層のマネジメントスキルの向上」「次世代幹部候補の育成」「職場における人材育成力の強化」である。しかし、取り組まない、やり方が分からない、といったケースが多いのが実状だ。取り組めていない理由の1つは、人手不足。解消するために生産性向上や会社の魅力向上に取り組んでいる企業もあるが、結果につながらないケースも多い。
「労働時間の制約という課題にも直面しています。法令遵守への対応などに苦慮しているため、人材育成の時間をとれていないのです。一方で、企業成長や新たな価値創出のためにコツコツと人材戦略を進めた結果、人材確保や業績向上につながっている企業も出てきています」
近年、国は「人的資本経営」を推進。人をコストではなく経営における投資対象と捉え、中長期的な企業価値向上を目指す時代が到来しているが、ここでも他の課題が多すぎて手が回らない、という企業が多いのが実情だ。
「人事労務・人材育成・人的資本経営のどの視点で見ても、人事担当者・経営者は手が回っていません。アンケートによるとその理由は、『マンパワー不足』『業務過多』『業務の専門化』などが挙げられるようです」
では、具体的にはどのような理由が寄せられているのだろうか。
「マンパワー不足、業務過多に関しては、『人事関連の法改正が多い』『人事労務の業務は専門的なのでスキルを身につける必要があるが、時間がかかる』『人事の役割が年々増えている』『業務が属人化しており、生産性が低下している』『各分野の専門家が不足している』といった声があります。
業務の専門化については、『部署間の人材交流が少なく、専門的になりすぎている』『部門間の連携が取りにくく、仕事をシェアすることが難しい』『ノウハウが蓄積されていない』など、多くの課題があります」
人事労務における多くの課題を並行しながら解決することは非常に難しい。まず、何から取り組めばいいのだろうか。樋󠄀口氏は「多くの企業で重要だと考えられている、『人材育成』の問題から取り組んでほしい」と話す。
早急に次世代リーダー候補を育成する必要性がある
実際、「次世代リーダー候補が育たない」という課題を、多くの企業が抱えている。育成が進まなければ、具体的にどのような問題が生じるのか。
「経営層が発信したことを管理職が理解できず、その場だけの話になってしまっていることがよくあります。これでは一般社員まで経営層の考えが伝わらず、会社のことを理解できません。そうすると、『会社は自分を理解してくれない』と社員が考えるようになり、離職してしまうことも考えられます。さらに組織内のコミュニケーション不足などの悪循環を生み、組織の停滞につながっていくこともあります」
そのような事態を避けるためにも、「会社の次代を担う管理職や将来の役員候補者」である次世代リーダーの育成は、大変重要だ。経営の持続性、安定性、組織の成長といった観点からも大きなポイントと言えるだろう。
次世代リーダーは、「組織活性化」にあたっても重要な役割を担うと、樋󠄀口氏は言う。組織活性化に明確な定義はないが、一般的には「共通の目標を達成するために、社員一人ひとりが主体的・自発的に他者との協働を進められる状態を生み出し、維持すること」とされている。組織活性化を実現する上でも、次世代リーダーの選抜・育成についてしっかりと検討しなければならない。
「ただし、いまの仕事で素晴らしい成果を上げている人が、必ずしも次世代リーダーとしての役割を果たせるわけではありません。優秀な社員や自己完結できるような社員は、人に仕事を任せず、自分で抱え込んでしまうことが多い。そのような人が管理職を務めると、部下に大事なことが伝わらず、結果として優秀な部下が離職することにもなりかねません」
では、組織活性化を実現する次世代リーダーとはどのような人物なのだろうか。樋󠄀口氏は、「ビジョンを持つ」「チームをリードする」「変革を推進する」「リスク管理能力がある」「学習意欲が高い」の5つを挙げた。
また、次世代リーダーに必要な要素として、「経営教育」「実戦的な経験」「強みと弱みの理解」を挙げた。細かい能力やスキルとして、例えば問題解決力、コミュニケーション力、マネジメントスキルなどを挙げていくと際限がないため、この3つはぜひ押さえておきたい要素だと樋󠄀口氏は語る。
「1つ目の『経営教育』は、財務や戦略人事など、基本的な経営知識やスキルを身につけていること。2つ目の『実戦的な経験』は、経営に関連するプロジェクトへの参加や研修でのワークなどを経験していること。3つ目の『強みと弱みの理解』は、フィードバックや評価などによって、必要なスキルや知識を補っていること。次世代リーダーの選抜方法は、組織の文化や目標によって異なります。次世代リーダーに必要な要素を洗い出し、さまざまな評価方法を組み合わせて、組織に適した方法を選択することが重要です」
次世代リーダー候補の育成プログラムの内容と実施手順とは
では、次世代リーダー向けの育成プログラムとはどのようなものか。当然ではあるが、次世代リーダーに求められる役割は一般社員とは異なる。次世代リーダーの役割とは、個人の業務を磨き上げるだけではなく、組織の成果を最大化することだからだ。
「中小企業では、プレイングマネジャーと呼ばれるような、マネジメント能力だけではなく、専門業務に優れていて成果を出す人材を次世代リーダーに選抜するケースが多い。しかし、それではマネジメントの知識やスキルが不足したままになってしまうかもしれないので、注意が必要です。マネジャーとしての視点を養うためには、次世代リーダー専用の研修を実施することが重要です」
研修では、経営の知識をカバーしたプログラムの設計が重要だ。具体的には、一般的な経営の機能として経理・財務、法務、人事・労務、技術開発など。加えて経営企画、開発・製造、プロモーション、営業・販売、アフターサービスなどを学べるプログラムが求められる。
ただし、これら全てを次世代リーダーが習得することはなかなか難しい。優先すべきは、経営に関する基本知識の習得と経営感覚を養うことだ。
「経営・リーダーシップ、コンプライアンス、組織、人事労務、財務などの知識がリーダーには必要であることを多くの企業が理解していますが、そのための研修を受講することなく役員になってしまったというケースがよくあります。本来であれば、候補者のタイミングで研修を実施するべきです。
研修を受けるメリットとしては『次世代リーダーとしての知識や経営感覚を学ぶことができる』『実践的な経営イメージとゴールが描ける』『次世代リーダーとしての自覚が芽生える、自信がつく』などがあります。また、研修は一度受けて終わりではなく、定着と実践のためのフォローアップが重要です。『インプット・アウトプット・振り返り』のサイクルを続けることで、次世代リーダーに必要な知識の習得と定着を促すのです」
研修後のフォローアップは、例えば1週間あるいは2週間に1回の頻度で、受講者が振り返りシートに記入。その内容に対して上司がコメント、フィードバックを行う、というものが考えられる。
社内で実施することも可能だが、外部の企業にフィードバックを行ってもらうことを樋󠄀口氏は推奨する。社員の本気度が増し、より重要に捉えてしっかりと定着していく傾向があるからだ。
「この講演をきっかけに、ぜひ自社における次世代リーダー育成の方針を考えてほしい」と参加者に対してメッセージを送り、樋󠄀口氏は講演を締めくくった。
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