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変革の時代を勝ち抜く「しなやかな組織」をめざして
~成長し続ける組織をつくるポイントとは~

  • 高瀬 美佳子氏(TDCソフト株式会社 取締役 常務執行役員)
東京特別講演 [K-2]2019.12.24 掲載
TDCソフト株式会社講演写真

変革の時代を勝ち抜くには、曖昧ではない明確な戦略が必要になる。TDCソフトは企業の変革に際して「高付加価値化」「モデル変革」「新規分野の売上構成比率20%」という戦略を掲げた。その目標達成に向けた手法には、柔軟かつ機動的に動ける「しなやかな組織運営」が背景にある。「しなやかさ」が強さを生む組織運営のポイントを高瀬氏が語った。

プロフィール
高瀬 美佳子氏( TDCソフト株式会社 取締役 常務執行役員)
高瀬 美佳子 プロフィール写真

(たかせ みかこ)大学卒業後、メーカーに勤務後、英国にてMBA取得。その後欧州にて、日経企業向けの人事・労務のコンサルティングに関わる。帰国後はIT企業に経営幹部として参画しIPOを実現。多くの外国籍社員と働く中で、多種多様な価値観を経験する。現在は、IT企業にて主として新規事業分野推進を担当。


変革の目標は「売上の20%=50億円」を稼ぐ新ビジネスの立ち上げ

TDCソフトは東証一部上場、独立系の総合的システムインテグレーター企業だ。金融系事業、公共系・法人系事業、ソリューション系事業など幅広い事業のシステム構築を手掛けている。高瀬氏は同社の歴史から説明した。

「私たちは1962年に創業し、IT業界で事業を始めて57年になります。TDCという名前は東京データセンターの頭文字です。以前はデータセンターの仕事をしていましたが、その後ソフト開発へ事業を拡大し、現在に至ります。おかげさまで社員数も業績もほぼ右肩上がりで成長してきました。ここ最近は仕事が多く、社員がいるだけ売上も伸びるという状況にありました」

しかし、同社は2020年の先に備える必要があるとして、2015年から組織改革に取り組み始める。理由は今の状況では成長は長く続かない、という予測からだ。

「2015年、次期の中期経営計画を立てる時でした。仕事も順調だし、このモデルで当分成長できるのではないか、という意見も社内にはありました。しかし、現場から『これ以上長時間仕事をするのは無理だ』『何ヵ月も働き続けることは難しい』『新しいことに取り組む時間が無い』という声が出ていました。計画を立てた頃に東京オリンピックの開催も決まり、2020年までは景気がよさそう。しかし、そのあとはどうなるのか。IT業界にも新しい技術が入ってきており、この先も変化のスピードについていけるのか、などの不安要素も見えてきました」

IT業界を取り巻く社会環境の変化には、「人口減少」「働き方改革」「技術革新」などが挙げられる。特にIT業界は、人材活用においてブラック業界の代名詞のように言われていたこともあった。

「確かにIT業界は、長時間労働が当たり前の世界でした。ソフト開発は必ず納期を守らなければいけない仕事なので、どうしても残業が増える構造的な問題を抱えています。いまだに労働集約型であり、人手でモノをつくる業界です。本来は創造性の高い知的な作業であるべきですが、まだまだ作業としての人手を必要としている。そのような中で働き方改革が進み、長時間労働の上限規制も始まり、現場は新たな対応に追われました」

講演写真

新しい技術は創造的破壊を生むといわれる。これまでも企業の栄枯盛衰があったと高瀬氏はいう。カメラフィルムのメーカーであるコダック社は時代の変化に乗り遅れて、会社はなくなってしまった。

「フェイスブック本社の企業看板の裏には、サン・マイクロシステムズの社名看板が残されています。この場所は以前、サン・マイクロシステムズの本社でした。マーク・ザッカーバーグは戒めとして、この看板を残したそうです。企業には栄枯盛衰があります。3年前に中期計画を立てるとき、『本当にこのままでいいのか』と考えました。これまでの仕事のやり方はある程度成功体験に基づいたものでしたが、業績がよいうちに次の事業のタネをまかなければならない。そこで3年前から、新たな挑戦ができる体制づくりを始めました」

同社は営業本部の中にイノベーション営業部をつくったが、結果としてうまくいかなかった。理由はコア組織とギャップがあったからだ。

「コア事業組織は、市場も明確でデータや情報もあり、予算も大きい。それに対して、新規事業組織は、市場は不明確でデータや情報もなく、予算は小さい。世の中で事業のタネが見つかっても、具体的な実行にはなかなかつながりませんでした。それまでの組織構造のままでは難しい、というのが結論です」

そこで2019年にスタートした新中期経営画では、新たに「高付加価値化」「モデル変革」「新規分野の売上構成比率20%」と明確な目標を掲げ、組織体制を大幅に変更した。

「新規分野の売上構成比率20%は、言うのは簡単ですが実践はなかなか難しい。当社の売上は約250億円で、その2割は50億円。これだけの規模のビジネスを3年以内につくれというのは大変高いハードルです。そこで、組織内にビジネスイノベーション本部という部隊を新たに設けて、アイデアを見つけ、各部門に広げていく形式を取りました。ただし、ビジネスイノベーション本部の人員は15名。手探りでのスタートでした」

新組織が目指すのは、柔軟かつ機動的に動ける「しなやかな組織運営」

新たな組織を、どうすれば20%の売上を実現する組織に成長させられるのか。そこでさまざまな運営における工夫が行われた。

「新しい組織には、一人でいろいろなことができる多能工タイプ、また、新しいことを面白がるタイプの人を集めました。また、管理面では皆が動きやすくなるように、ゴールに向かうためのプロセスは個人に任せることにしました。そのうえで個々が何をしているかを、だれもがわかるように情報共有を徹底したのです」

新組織のビジョンは「ぶれない軸を持ち、柔軟かつ機動的に動ける、しなやかな組織運営を目指す」。ミッションは、「会社の将来を見据えて、顧客のシーズを先取りし、新たなビジネス機会を創出する」と決まった。

「次の会社の価値を見つけることがゴールですから、それをどうやってつくっていくかを自分たちで見つけることがテーマです。しかし、現実はそんなに簡単ではありません。このような挑戦はまったく初めてで、人も少ないので、小さな仕事から大きな仕事まで皆がいろいろなことをやらなければなりませんでした」

講演写真

また、新組織の行動基準では、「他人の意見は否定してはならない。必ず良い点を探し違う視点のアドバイスをする」「常に部門ではなく、会社の利益の最大化を意識して判断を行う」「自主自立の実践」「視野を高くもち、たくさんのシーズを見つける努力をする」「楽しく仕事をする」「仲間を助け合い、チームで対応する」「『メリ・ハリ』をもって対応し、『アソビ』時間を持てるようにする」を掲げた。

「アソビとは自分の幅を広げたり、視野を広げたりするための活動のことです。できるだけ仕事を効率化して、アソビの時間を持てるように活動する。時短で長く働けない状況下で、創造性のある仕事をしていくには工夫が必要です」

そもそもシステム開発とは、顧客の課題を営業が聞き出し、それをどう解決するかをシステムで考えていくものだ。そこには非常にあいまいな相談から、明確な相談までいろいろなオーダーがある。前例のない仕事を行うときには、世の中にないシステムをつくることになる。何度もやり直しをしながら完成させるものも多い。だからこそ、システム開発には常に進化が必要だと高瀬氏は語る。

「ソフト開発の手法にアジャイル開発というものがあります。アジャイル(Agile)は『素早い』『機敏な』という意味です。アジャイル開発とは、大きな単位でシステムを区切らずに、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進めるものです。従来の開発手法に比べて期間が短縮されることから、アジャイル(素早い)と呼ばれています。

例えば、ある会社では合併があったため、システム統合に取組みました。結果的に12年かかり、当時最先端だったシステムも、現在のビジネス要件には不十分なシステムとなってしまいました。こうした仕事のやり方を変えようとする動きがあります。米国ではこのアジャイル開発の手法を組織論に応用する動きもあります。そのような考えを導入しないと、企業も時代の変化についていけないのです。今回のしなやかな組織づくりでは、こうした考え方もベースの一つとなっています」

「新組織×コア組織」を契機として、事業部が面でつながる双面型組織へ

次に高瀬氏は、具体的な取り組みを紹介した。創造的な仕事をするには、心に余裕をもって取り組める環境が必要だ。そこで同社は、次のような連鎖をイメージして、施策を考えた。「心理的安全性の確保→オープンマインド環境→作業の可視化→助け合いによる全体パフォーマンスの向上→考える時間を多くつくることができる」という流れだ。

「心に余裕が生まれれば、周囲と話をしようという気持ちになります。多能工は自分で何でもやりがちですが、まずは情報を共有してもらう。私も『困ったことがあれば発信しようよ』と常に言っています。そして作業を可視化すれば、互いにサポートが可能な状況ができる。するとパフォーマンスが向上し、考えるための時間が生まれる。こうした好循環をつくるために、さまざまな施策を打っています」

その一つがThanksカードだ。これは自分がもらった情報に対して「いい情報だったよ」とカードで感謝の言葉を贈るものだ。このやり取りは、他のメンバーも知ることができる。また、業務自動化(RPA)も積極的に進めている。請求チェック・契約更新などの定常的な作業、レポート作成などの社内的な作業、調査・催促作業などの人がやりたくない作業、残業チェックなどの締め切り作業は、極力自動化している。このようにして始まった新組織だが、取り組みの成果はどうなのか。

「新組織が全社の組織課題・事業課題に立ち向かえる、しなやかな組織に育ちつつあります。当社では勤務管理表を付けていますが、昨年度は業務の時間を10%減らすことに成功しました。今後も作業の時間を減らし、創造的な業務にあてていきたい。そして、『新組織×コア組織』で相乗効果を生み出したいと考えています。一つの事業部門だけではできない仕事もたくさんありますから、互いに働きかけながら協業を生んでいく。また組織を、事業部が面でつながる双面型組織へと成長させることがこれからの目標です」

講演写真

最後に高瀬氏は参加者にメッセージを伝えて講演を締めくくった。

「組織改革は『マインド』『ワークスタイル』『時間』と複数の要素が絡みながら進むものです。変革期には、組織の変革リーダーに内外からさまざまな圧力がかかります。しかし、圧力は期待の裏返しでもありますから、使命を背負っている人にとってはモチベーションにもなります。とはいえ、新組織には早めに成果を示せるようなゴールをつくってあげることも大事。しなやかに圧力をかわしながら、自他の変化を楽しめる組織づくりを目指しましょう」

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