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人手不足時代を乗り切り組織活性化を実現!
ミドル・シニアを「戦略的」に活用するため、人事がなすべきこととは

  • 野田 稔氏(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
大阪基調講演 [OD]2020.01.31 掲載
講演写真

高齢化が大きな社会問題となっているが、企業においても社員の高齢化が進んでいる。ある年齢に達すると、早期退職制や役職定年制などによって中心的役割から外されるケースは多いが、一方で、若手社員を中心とした編成ではイノベーションが生まれにくいことが課題となっている。今後はミドル・シニア社員を有効に活用することが求められそうだが、そのために企業は何をすればいいのか。長年にわたりミドル・シニアについて研究してきた、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究所教授・野田稔氏が語った。

プロフィール
野田 稔氏( 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。専門は組織論、組織開発論、人事・人材育成論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。大学で学生の指導に当たる一方、企業に向けて組織・人事領域を中心に、幅広いテーマで実践的なコンサルティング活動も行う。ニュース番組のキャスターやコメンテーターなど、メディア出演も多数。


ミドル・シニアがイノベーションに欠かせない理由

年齢を基準に人材を扱うことは、多くの国では差別にあたり、違法行為となる。多くの企業が定年制度を設けている日本は、世界でもマイナーな存在といえるだろう。世界一の長寿国である日本は今、そういった旧来の制度の見直しも含めて、大きく変わらざるを得ない状況にある。

また、従来のビジネスモデルの賞味期限が切れかけているため、イノベーションが期待されるが、イノベーション自体が目的化してしまっていると野田氏はいう。

「イノベーションは、目的ではなく手段です。今までの手法ではどうにもならないから、なんらかの社会的価値を産み出したい、困りごとをなんとかしたいと考え、いろいろなものを組み合わせてみる。そのうちに面白いものができて、それがソリューションになり事業になった、というのがイノベーションです。

日本企業は、イノベーションを手段と捉えて新しい価値を生み出し、既存のビジネスモデルを大きく変えなくてはなりません。そのために必要なのがイノベーター。そういうと若い人、テクノロジーに詳しい人をイメージしがちですが、イノベーションとは必ずしも科学技術の革新を必要としません。イノベーションの定義は新結合。新しい価値が生まれれば、古いもの同士の組み合わせでも、立派なイノベーションになるのです」

イノベーションを起こすのに一番重要なのは問題に気がつくことだ、と野田氏は語る。「なんとかしなくてはいけない」「変えたほうがいい」という思いからひらめきが生まれ、そこにいろいろな知恵が加わってイノベーションは起きる。そのため、イノベーターは問題発見者といえるだろう。

しかし今の若い人は、問題解決力に優れていてレスポンスが速く、情報収集も正確だが、問題発見力が弱い傾向が見られる。例えば、問題に直面すると「世の中はこんなものだ」と受け止めてしまう。一方、ミドル・シニアには、高い問題意識を持つ人が多く、イノベーターに適しているが、ソリューションには弱い。そこで野田氏は、若い人とミドル・シニアがタッグを組むことを提案する。

「イノベーションを起こすことは一人では難しく、必ず誰かのサポートが必要です。チェンジエージェントという、上手に導いて支えてくれる存在が求められますが、これはまさに、ミドル・シニアの得意とするところ。イノベーターとチェンジエージェントが機能し、イノベーションが起きるようなシステムへと組織を見直すべきだと思います。このとき重要なのは、ミドル・シニアにはイノベーションは起こせない、手伝えない、無理だ、という固定概念を捨てることです」

イノベーションを起こす際に必要になる、さまざまな人材を野田氏は挙げた。まずは、0から1をつくる「起業人材」。そういう人に触発されながら、1のアイデアを10へと事業化する「やんちゃ人材」。10になった事業を100へと大きくする「体育会系人材」。そして、既存の事業を支えて縁の下でイノベーションをサポートする「おっさん人材」。このような人材ポートフォリオの中で、その人の適性に合わせて年齢に関係なく最適な配置をしていかなければ、イノベーティブな組織は成り立たないという。

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脳科学の観点による「能力ピーク」を活用する

最適な配置のためには、イノベーティブな会社になることを念頭に置いた“職務・職域開発”が重要になる。ミドル・シニアに対しては、どのような職務・職域開発を行えばいいのか。野田氏は脳科学の観点から解説した。

「黒川伊保子さんという科学者の本によると、3歳までは自分の周りで起こったものを、良いことも悪いことも、目で見たもの、肌で感じたこと、食べたもの、聞こえたもの、全てを脳の中に受け入れます。6歳までは“神の脳”といわれていて強い回復力があり、この段階でどのように生きていくのかが決まるそうです。14歳ぐらいが大きな転機で、五感情報全てを記憶し、だんだん大人の脳になっていきます。そのときに、自分が見たいものや聞きたいものだけを選択的に記憶するというフィルターがかかって、生涯の基軸となるそうです。

21歳で脳の部位が揃いますが、このときが記憶力の最盛期。しかし、出力機能がまだ開発されていないため、知識をまとめるとか、ふさわしい言葉に置き換えるといったことが入力機能に追いついていません。そのために、たくさん苦しむのが30代です。ただし、膨大な知識の整頓に惑うと出力機能が鍛えられていくため、徹底的に惑った方がいいとされています。30代は、失敗をたくさんした方がいい世代なのです」

49歳は、生殖の時代から別の人生に切り替わる転機だ。物忘れが始まるが、「今生きるのに直接必要ないものは捨てる」という脳の断捨離による現象でもある。断捨離をして最適化され、不要な入力を切り、出力の成熟度を上げて総合的判断力が高まり、56歳がピークになる。60代は回路の抽象度が上がって直感が身につき、ヒューリスティックスが研ぎ澄まされ内的世界が充実してくる。脳の出力最大期は84歳まで続いていく。

「脳科学によって証明された、50代や60代で迎える総合的判断力や直感力のピークを、企業は生かせていないのではないでしょうか。役職定年ほど、もったいないことはありません。それぞれの人材の一番おいしいところを、企業は食べ逃している。このように話すと、人事部の方からはよく『そうは言っても、シニア世代がいつまでもいると、若い社員にチャンスを与えられません』という意見が返ってきます。既存の仕事の中に留まらずに、イノベーティブな新しいことに取り組みたいのであれば、そのような考えは捨てなければならない。発想の転換が必要です」

のちのち脳の力が強まるために、30代には大いに惑わせたいが、それによる大失敗は企業として避けたい。そこで、脳の総合的判断力の高い50代や60代と一緒に取り組むようにしてみる。お互いの能力が最大限に発揮されることになるからだ。また、50歳ぐらいになると世代継承性に興味を持つことがキャリア論の中で語られているため、若い世代と組むことはより望ましいと言えそうだ。このように、脳の構造に合わせて職務を与え、チームを組ませることはイノベーションや、高い生産性に結びつくと考えられる。

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中高年のキャリア自律に不可欠なのは「周囲からの期待」

しかし残念ながら、中高年にはキャリア自律ができていない人が多いように感じると野田氏はいう。どう克服すればいいのか。

「この世代が入社した時代には、会社がキャリアの面倒を見てくれる傾向が強かったことは事実です。しかし現在は、当時と違います。このギャップを徹底的に埋める必要があります。キャリアとは、過去の単なる積み上げではなく、働くことを通じて志を実現する成長のプロセス。キャリア自律を目指して努力するなら、自らの可能性を信じる必要があります。可能性が信じられない人は努力できない。動機付け理論によると、努力は実るという予想があるから人間は努力し続けられるのです。

しかし、一人だけで可能性を信じ続けられるほど人間は強くありません。他人の期待が欲しくなります。周りから期待されて、それが自らを信じる気持ちの支えとなって努力して成長すると、さらに周りが期待してくれる、という好循環が生まれます。これがキャリアの望ましいプロセスです。ミドル・シニアについて『自分から変化しようとしない』『新しいことを学ぼうとしない』という声をよく耳にしますが、それは社内の期待が低すぎるから。期待をかければ、ミドル・シニアも自分の可能性を信じて努力できます」

世代ごとに周りから期待される内容と成長のポイントがある、と野田氏は語る。キャリアテーマが各世代にあり、それに沿った期待が本人の成長を後押しする。50代60代のキャリアテーマは「自分の席を自分でつくること」。席をつくるのは組織内だけではなく、社外に求めて複線型キャリアをつくる方法もある。それまで身につけた能力や人脈をどう生かすのか、しっかり位置付けていく視点が重要になる。

例えば、社員育成の改革が求められていると感じたある人は、社内にキャリアカウンセリング室を設置した。その後、活動が社外へも広がっていき、企業内キャリア開発の元祖と言われるまでに成長。定年退職後も自分の椅子があるという。

「ミドル・シニアは一度やる気を出しても、続かないケースが少なくありません。原因は不安です。日本人は元来、将来に対する不安感が強いのですが、不安を解消するには『自分は役立っている』といった自己効力感、『私は次の試練も乗り越えられる』といった自己信頼感が必要です。

独自に調査したところ、自分の能力に対する信頼、人脈に対する信頼、ありたい姿がイメージできるという希望、この三つの要素が不安を払拭することが分かりました。三つの中で一番弱いのが、自分の能力に対する信頼です。具体的には、自分が今やっている仕事しかできる気がしない、という気持ちです。さらに分析してみると、やらなくてはいけないことが非常に多くて頭がいっぱいになり、虚心坦懐に自分を見つめる心の余裕がなくなっている人が非常に多いことが判明しました」

そこで、野田氏は、自分の能力の再確認を図るプログラムを作成した。まずは、小学校の高学年から中学生になるまでの間に夢中になっていたこと、没頭していたこと、得意なこと、すなわち原点のCANを明確化。さらに現在の状況、すなわち大人のCANを明確にして二つのCANを組み合わせ、30~40の要素に分解する。それを元に他者が「あなたにはこんな可能性がある」と新たなキャリアを見つけ出す。自分の可能性の広さや忘れていた可能性に気づくことができ、不安が解消され、前向きなマインドセットに変わるという。

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「自分の能力は限られているという視野を外せば、能力が大きく発揮される例はいくつもあります。例えば、ある陶器メーカーの話ですが、その会社には40代後半から50代で、能力は非常に高いのに、それが発揮できるような仕事を与えられていない人が多くいました。そんな現状を変えようと、誰も手がつけられていない仕事を探してみると、3桁ものアイデアが集まりました。新しいプロジェクトチームを組んで進めてみたところ、成功して新たなポストに就く人も出てきました。一度自分の枠を外してみると、いろんな可能性が見えてくる、ということです。もちろん、イノベーターになれる可能性も生まれます」

「ミドル・シニアに期待をしていないこと」「ミドル・シニア本人にキャリア自律の自覚がないこと」。この二点を変えると、ミドル・シニアの活躍の場は格段に広がっていく。それによって日本の企業も強くなっていく、と野田氏は講演を締めくくった。

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