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「幸せな職場」のつくり方
~従業員が幸せになれば会社が伸びる~

  • 前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)
東京基調講演 [A]2020.01.30 掲載
講演写真

ある研究によると、幸福度が高い従業員は創造性や生産性が高く、離職率は低く、利他的で組織を生かすようになるという。企業が従業員を幸せにすることは、どんな手段を取るよりも企業に利益をもたらす。ではどうすれば従業員を幸せにできるのか。「幸福学」を提唱する前野氏が幸せな職場のつくり方について解説した。

プロフィール
前野 隆司氏( 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)

(まえの たかし)1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。専門は、幸福学、感動学、イノベーション教育、システムデザイン、ロボティクスなど。『幸せな職場の経営学』(小学館)、『幸福学×経営学』(中外出版社)、『実践 ポジティブ心理学』(PHP新書)、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩文庫)など著書多数。


幸せな従業員は創造性が3倍で生産性は31%高く、離職しにくい

働き方改革、イノベーション、ストレスチェック、リーダーシップ、ワークエンゲージメント、マインドフルネス、健康経営……。今、日本企業はさまざまな課題を抱えている。前野氏は、これらの課題は全て「ウェルビーイング(well-being)経営」という考え方で捉えることができる、と語る。

前野氏によれば、「ハッピー(happy)」と「ウェルビーイング(well-being)」では意味が大きく異なる。「幸せ」を英語でいうと、一般的には「ハッピー」だが、ハッピーとは幸せよりも少し狭い意味の言葉で、「感情的な幸せ」を表す。しかし「幸せな働き方」というときには、「つらいこと、きついこともあるが、仕事にやりがいを感じて幸せに働けている」状態を指す。短期的には感情的にハッピーでないことがあっても、長期的な幸せが存在しているのだ。

「ウェルビーイングという言葉は、良好な状態、良いあり方という意味です。精神的に良好な状態を幸せといい、身体的に幸せなことを健康といいます。社会的に良好な状態とは、福祉が整った状態。ウェルビーイングを辞書で引くと『心と体と社会が良い状態であること』とあります。ウェルビーイングは、幸せよりもう少し広い意味を持ちます。最近よく聞かれる健康経営という言葉も、体のことだけではなく、ウェルビーイングを含んだものといえます」

「幸せ」は、心理学などの多くの分野で研究されている。研究の方法としては、多くの人にアンケートを取って、幸せか不幸せかを答えてもらうものが多い。ここで、前野氏は興味深いデータを示した。

「米国のディーナー博士らによる研究では、『幸せな従業員は創造性が高い』[Lyubomirsky, King, Diener]という結果が出ています。幸福度の高い従業員は創造性が3倍、生産性は31%高く、売上は37%高い。また、『幸せな従業員はうつになりにくい』こともわかっています。他の病気にもなりにくいのです。そのため、狭い意味の健康経営ではなく、もっと広い意味のウェルビーイング経営が求められるのです」

他にも「幸せな従業員は離職しにくい」「幸せな人は利他的」「幸せな人は健康で長寿」という研究結果がある。幸福度が高い従業員は 欠勤率が低く[George, 1989]、離職率が低い[Donovan, 2000]。また、幸せな従業員は他の従業員を助け、組織を生かそうとする。そして幸せな人は不幸せな人よりも7~10年長生きする傾向にある。

「このように、幸せになることはいいことだらけです。世界で幸せに関する研究結果が年間に約1000件発表されていますが、中には面白いものもあります。『時間を厳守する人よりも多少ルーズな人のほうが幸せである』というものです。寛容さがあるほうがいいということですね。最近、米国企業では従業員の幸福を考えるCHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)という役職も生まれています。皆さんもCHOを目指してみませんか」

5年ほど前、前野氏はフェイスブックに「企業経営で一番大切なことはもうけることでしょうか。働く人の幸せでしょうか」と投稿して議論を呼んだ。当時は、「企業である以上はもうけることが第一で当然」という空気だった。

「2003年のデータ(『収益結晶化理論』宮田矢八郎著/ダイヤモンド社)によれば、経営理念に『従業員の幸福』を掲げていた企業は2.4%しかありませんでした。しかし、今では企業は従業員の幸せを考えることが当たり前になりつつあります。世の中の空気が大きく変わったのです」

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「安心・健康・心」によるウェルビーイングの幸せは長続きする

近年、幸せに関する研究が盛んになっているが、なぜなのか。「主観的幸福度研究(Subjective Well-Being)」では、アンケートによって幸福度を計測する。前野氏は、このアンケートの精度が上がったことを理由の一つに挙げる。

「皆さんにただ『幸せですか』と聞いても、幸せを精度高く測ることはできません。なぜなら、短期的な幸せと長期的な幸せが混ざってしまうからです。しかし、1980年代~1990年代ごろに有効な質問の仕方がわかってきました。短期的な幸せと長期的な幸せに関して、別々に聞くのです。『人生において幸せか』と聞くと、長期的な幸せがわかります(人生満足尺度)。一方、今の感情だけを聞くと、短期的幸福が測れます(感情的幸福尺度)。他にも生活満足尺度など定評のある尺度が生まれ、有効なアンケートがつくられたことで成果が得られるようになり、ウェルビーイングの研究が増えていきました」

次に前野氏は、英国のネトル教授の研究を紹介した。幸せには「長続きしない幸せ」と「長続きする幸せ」がある。長続きしない幸せとは、金・物・地位など「地位財」による幸せのことだ。

「地位財とは、他人と比べられる財であり、幸せな気分になっても長続きしません。人の欲求に限りがないからです。もっと欲しいという欲求が生じて、すぐに幸福度が下がってしまうのです」

一方、長続きする幸せとは、安心、健康、心など、人と比較できない「非地位財」による幸せのことだ。最近はSDGs(エスディージーズ/持続可能な開発目標)の大切さが叫ばれているが、心も同じで、世の中は長続きする幸せを大事にする方向に転換していると前野氏は語る。

「長野県にある伊那食品工業株式会社は、年輪経営を提唱しています。業績は毎年少しだけ伸ばすことを考え、同時に従業員の心と体、社会の充実を図っていく。つまり精神的、身体的、社会的な幸せを重視する、まさにウェルビーイングの状態なのです」

人は「幸せの四つの因子」を満たすことで幸せが得られる

前野氏は、幸せの心的要因に関連するアンケートを1500人の日本人を対象に行い、その結果を因子分析して、「幸せの四つの因子」を導き出している。幸せは「幸せの四つの因子」を満たすことによって得られる。その第1因子は「自己実現と成長の因子(やってみよう因子)」だ。

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「自己実現とは、仕事でも趣味でも、小さなことでいいから何かを実現させることです。ではその反対は何か。やらされ感です。大企業で起きやすい感情といえます。日本企業で『やってみよう因子』を阻んでいるのは、マニュアルとルールです。安全・安心に進めようとして、どんどんルールをつくる。そうすると、やらされ感を抱くようになります。

従業員に自らやってみようと思わせる一つの方法は、理念を浸透させること。そして、従業員に本当にやりたいことを思い出してもらうことです。できるだけ本人に任せることが大事なのです。最近、エンゲージメントが注目されています。以前はトップダウンで仕事を割り振っても、人は働くと思われていました。でも次第に、人はやりがいがないとやる気を持てないということがわかってきた。そこで仕事のやりがいについて考えるようになってきているのです」

第2因子は「つながりと感謝の因子(ありがとう因子)」。誰かを喜ばせたり、応援したり、感謝を伝えたりすることだ。

「皆さんの会社では、人のつながりがあるでしょうか。従業員の幸せと働きがいを大切にする企業を表彰する『ホワイト企業大賞』を受賞した、徳島県にある西精工株式会社では、従業員に『月曜の朝に会社に行きたいと思うか』という質問をしたら、9割が行きたいと答えたそうです。人のつながりが感じられる人、いろいろなことに感謝できる人は幸せです。そんな人は視野が広いのですが、これもつながりの一つの証明といえます。そして、親切で利他的な人は幸せです。多様な友人を持つ人も幸せ。ダイバーシティ&インクルージョンの施策でも幸せになれます」

孤独は幸せの敵だと前野氏は語る。例えば、働き方改革による時短でコミュニケーションがなくなると、幸福度が下がる危険性があるという。従って、時短改革もコミュニケーションに考慮しながら行う必要がある。そして、第3因子は「前向きと楽観の因子(なんとかなる因子)」だ。

「自己受容できている人、自分のいいところも悪いところも好きな人は幸せです。これが高いと自己肯定感も高い。また、楽観的でポジティブな人は幸せです。ここでの楽観的というのはポジティブな楽観であり、準備をしっかり行い、心の準備ができている状態のことです。細かいことを気にしない人も幸せ。これもポジティブな意味でくよくよしないからです」

また、「楽観的な人は、視野が広くて幸せである」という研究結果もある。視野を広く持つことで解決策を見つけ、仕事もうまくいく。逆に悲観的な人は、視野が狭くて不幸せということだ。

「産業医と話をすると、うつも視野が狭くなっている状態だといいます。うつ病の治療で行われる認知行動療法は、いろいろなことを書き出して視野を広くする療法です。『幸せとは視野の広さである』といってもいいくらい、実は深い関係にあります」

最後の第4因子は「独立と自分らしさの因子(ありのままに因子)」だ。

「人と自分を比べ過ぎない人は幸せです。比べる人は幸福度が低いことがわかっています。そして他人と比べる財を目指してしまうと、不幸になりやすい。また自分らしさを持っている人、自分のペースを守る人は幸せ。これも視野の広さと関係しています。視野を広く持てれば、自分の悩みの小ささもよく見えてきます」

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本音で話し、互いに助け合うことが職場の幸せにつながる

ここで前野氏は幸せの四つの因子を分類して説明した。「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」の因子はどれも個人のあり方であり、強い自分であり、個人主義的なもの。一方の「ありがとう」の因子は人との関係性であり、周囲へのやさしさを持つことだ。

「強さとやさしさの両方を持っていることが幸せにつながるのです。調べてみると、幸せな人はこの四つの因子のすべてが高いことが多い。どれかが欠けると少し幸福度は下がります。一番不幸な人は四つとも低かった。スパイラルのようにダウンしてしまうのです」

調査によれば、日本人の8割は心配性遺伝子を持っているという。米国人は4割程度持っていない。そのため、日本人は「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」と考えるのが苦手な傾向にある。ではどうすればいいのか。

「互いに助け合うことです。信頼できる仲間がいると、助け合うことができる。そこで企業の理念について皆で話し合ってみてください。本音で話し合うと、家族のように互いに近づけます。幸せな職場のイメージとは、オープンで、ボトムアップがあり、協創があって、調和型のリーダーがいるネットワーク型のコミュニティーです。一方で不幸せな職場の典型とは、極端な軍隊型組織です。命令は絶対であり、人はただ歯車となっている。組織では役割分担が必ずありますが、その底辺では心がつながっていないといけません」

最後に前野氏は、幸福度を高める10の方法を紹介した。

  1. 夢や目標(できれば人生をかけてやりたいこと)を持つ
  2. ワクワクしトキメクことをする
  3. 対話、1on1 meeting、コーチングなど、傾聴し、批判しない、深い会話を行う
  4. 信頼できるパートナー、仲間、知人を持つ
  5. 深く感謝する
  6. 気遣い、思いやりのある、親切で利他的な行為を行う
  7. 幸せなように振る舞う(笑顔、上を向いて歩く、胸を張るなど)
  8. ポジティブな言葉を使う(ネガティブな言葉を減らす)
  9. 創造性を発揮するようなことをする
  10. 自分らしい強みを見つけ、強める

「従業員が幸福な企業は、自分たちが理想とすることを地道に続けています。決して特別なことをしているわけではありません。また、『幸せはうつる、伝染する』という研究結果もあります。でも不幸もうつりますから、それを防ぐには自分たちの幸福度を高めるしかないのです。皆で幸せな会社、幸せな社会を創っていきましょう」

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