なぜ英語学習が続かない社員が多いのか? 自主学習意欲維持のコツからAIの活用まで
- 柴田 真一氏(神田外語大学 キャリア教育センター 特任教授)
ビジネスマンの英語学習では「続かない、話せない」という悩みがよく聞かれる。スコア重視、仕事での活用重視の企業側と、コミュニケーション重視の個人との間に思わくのズレがあるためだ。NHKラジオ「入門ビジネス英語」講師で、神田外語大学キャリア教育センター特任教授である柴田真一氏が、英語学習が続く目標設定の仕方、4技能の鍛え方、AIを活用したトレーニング方法について解説した。
(しばた しんいち)みずほフィナンシャルグループ、目白大学教授・英米語学科長を経て現職。ロンドン大学大学院MBA。専門は国際ビジネスコミュニケーション。欧州20年の海外勤務経験を活かし企業のグローバル人材育成に注力。近著に『英語は50の動詞で一気に上達する』(講談社)、『英文ビジネスeメールの教科書』(NHK出版)等。
スコアではなく「発信力アップ」に目標を置くべき
2015年に設立されたコーリジャパンは、人工知能(AI)と脳科学を融合した法人向け英語eラーニングを運営。提供するCOOORIは、人工知能を使って効率的な学習を可能にする、パフォーマンス言語学習プラットフォームだ。独自開発のAIは個人の習熟度と学習のクセを理解し、最大限の成果を出すために各学習者に最適なコンテンツを最適なタイミングで出題する。
本講演には、神田外語大学キャリア教育センターの特任教授で、NHKラジオ「入門ビジネス英語」で講師を務める柴田真一氏が登壇。まず柴田氏は、国際ビジネスコミュニケーション協会の調査結果を紹介。会社が社員に求める英語スキルは、「会議で議論」19.9%、「メールのやりとり」15.5%、「電話でのやり取り」15.5%。逆に、英語を学ぶ社員のモチベーションとなる要因(複数回答)は、「外国人と楽しく会話」48.3%、「海外旅行・出張で困らない」47.6%、「仕事のうえで必要」42.7%という結果だった。
「ビジネスマンの英語学習では『続かない、話せない』という悩みが多い。会社側は『会議や議論、メール、電話』における英語力が必要と言っていますが、本人は外国人と楽しく会話することが学ぶモチベーションと言っている。ここにギャップがあります。企業は『とにかく○○○点』と英語検定のスコアを目標にする。すると、目標スコアを達成して「もうこれでいい」となってしまう人、逆にスコアを達成できずに「自分は英語難民でいい」となってしまう人が増えるのです。ではどうすればいいのか。私は目標を“発信力アップ”に置くことを提案しています」
柴田氏は、日本人の発信力の弱さの例として、Eメールのライティングをあげる。外国人はレスポンスよく、速く返信してほしいのに、日本人は文章の間違いばかりを気にしている。学んだ後の自分の姿をイメージして発信力アップに取り組む姿勢が大切だ。会議においても発信力が付けば雑談にも参加できるようになり、印象も変わっていく。
また、国際ビジネスコミュニケーション協会による社員からみた英語力向上の課題についての調査結果では、「学生時代に学んでおくべきことが身についていない」29.8%、「時間がない」26.0%、そしてもっとも多かったのは「仕事で使う機会がない」50.4%だった。
「では、どうすればいいのか。当然のことですが、企業は英語を使う機会を提供すべきということです。社内に外国人社員がいれば交流できる場をつくる、研修の中でも英語を使って話す仕事場面をつくる。意図的にそのような場をつくらないといけません」
「読む→書く→話す→聞く」の4技能のサイクルが上達の近道
柴田氏は、英語力を向上させるには「読む、聞く、話す、書く」の4技能をバランスよく鍛えることが重要だと語る。ではどうすれば実践できるのか。
「私が提案したいのは、インプットから始めてアウトプットに入っていくやり方です。『読む(リーディング)→書く(ライティング)→話す(スピーキング)→聞く(リスニング)』の流れで4技能をリンクさせる。これらはつながっており、最終的にはサイクルになります。中でも発信力アップには「リーディング(読む)」が不可欠です。話す内容の引き出しを増やすためにも、リスニング(聞く)のための語彙力を付けるためにもリーディングは大事。リスニングに慣れてくれば、それをライティングやスピーキングの力へとつなげられます」
この流れでEメールを書く力を付けるには、「メールをたくさん読む」「使えそうなフレーズをストックしていく」「実際に書くときに使ってみる」ことが大事になる。メールが書けるようになれば、それを声に出せば会話となり、電話応対もできるようになる。
ここで柴田氏は、企業からの研修依頼の例を紹介した。あるリース会社から3時間の新人研修でリースに関する英語を教えてほしい、発話力をつけてほしいと依頼があった。そこで行ったのは「ひとまず英語にしてみる」→「英文アニュアルレポートを読む」→「レポートの文を使って英文をつくる」→「隣の人に説明する、質問し合う」という流れの研修だ。
「例えば、次の文を英語にしてみてください。『保有・管理機体数は300機を超えています。顧客基盤、財務基盤、機体管理を一元化しました』。難しい文章ですね。アニュアルレポートを見ると、こんな書き方をしています。
保有・管理機体数は300機を超えています。
At present, the number of aircraft owned and administered has exceeded 300, …
このまま覚えると話し言葉としてはちょっとおかしいので、Weで言い換えます。
We own and administrate more than 300 aircraft.
こういう言い方を『plain English=分かりやすい英語』といいます。難しい言い方をせずに平易な言い方にすることです。英語の話者の4分の3はノンネイティブと言われます。平易な言い方をすれば世界共通で理解しやすくなり、すべての人に伝わる言い方になります。『英語力が低いと思われないか』という人もいますが、私はそこで勝負しなくてもいいと思います。それよりも誰でも言いたいことが伝わることが大事です」
「顧客基盤、財務基盤、機体管理を一元化しました」の部分はWeに言い換えると次のようになる。
The company began to centralize the global client base and the strong financial position of the consortium and aircraft management capabilities…
↓
We centralized our global client base, financial position and aircraft management.
次に柴田氏は雑談力について語った。いったいどうすれば雑談力がつくようになるのか。ここでも4技能のリンクによる学びが効果的だという。
「例えば、あなたが外国人から次の質問を受けたとします。
Q: What’s the difference between sake and shochu?(日本酒と焼酎の違いは何ですか?)
ネットで検索すると、いろいろなお酒のサイトがあります。「Welcome to John Gauntner's Sake World!」というサイトを見ると、次のような説明がありました。
Q: What is sake?
Sake is a beverage fermented from rice, which is a grain. ….. Sake is not a distilled beverage, and is not even remotely related to gin, vodka or other spirits.
・リスニング
英文はGoogle 翻訳などの翻訳サイトにコピー&ペーストすると音声で読みあげてくれます。これで読み方がわかります。
・リーディング
下線部の言葉は調べると次のような意味になります。
fermented 発酵した、醸造した
distilled 蒸留した
not even remotely related to…とはほとんど関係ありません(…とは遠い関係すらない)
すると、先ほどの文は次のような意味になります。
日本酒は米という穀物を発酵させた飲み物です。日本酒は蒸留酒ではなく、ジンやウォッカなどの蒸留酒とはほとんど関係がない。
・ライティング ⇒ スピーキング
次にこれを自分で説明できるような簡単な英語にして、自分で文章をつくってみましょう。すると、次のようになります。
Sake is a fermented beverage like beer or wine. Unlike sake, shochu is distilled.
日本酒はビールやワインのような発酵飲料です。日本酒とは異なり、焼酎は蒸留されます。
お酒について調べていると次のような情報も出てきます。こうした内容は雑談で使えます。
Natto is fermented soybeans.
納豆は発酵大豆です。
こうした流れで作業をしていくと、徐々に4技能について覚えていきます。一石四鳥で覚えられ、内容も忘れないようになります。特に自分の好きなテーマについて、こうした引き出しを増やしていくと雑談力は自然と鍛えられます。すると外国人との会話も楽しくなっていくのです」
また、柴田氏は、4技能の勉強にはNHK番組の活用が有効と語る。語学力の世界基準であるCEFRでみると、「ラジオ英会話」はB1、英検2級レベル、「入門ビジネス英語」はB2、英検準1級レベル、「実践ビジネス英語」はC1、英検1級レベルであり、レベルに合わせた学習が可能だ。
「能動的な自主学習をしていくと、動詞・形容詞を覚えて表現力がアップし、それにより発信力の向上を実感できます。すると英語そのものに興味を持てるようになり、より勉強が面白く、楽しくなる。結果として英語検定のスコアもアップしていきます」
AIを活用して「効率的・効果的」なトレーニングを実現
次に柴田氏は、AIを活用した効率的・効果的なトレーニング方法について語った。前述のアンケートの英語力向上の課題についての質問で「時間がない」が26.0%と上位にあったように、どのように学習の時間をつくるかがビジネスマンの英語学習の課題だ。柴田氏によると、効率的・効果的なトレーニングを行うポイントは三つだと言う。
「一つ目は、すきま時間の有効活用と習慣化です。スマートフォンを使って通勤時間やスキマ時間でパーソナライズ学習を行います。復習のタイミングをAIで計算して習慣化していきます。二つ目は、リーディングを優先させること。インプット量がアウトプット量を左右します。まずはリーディングで語彙力を増やす。三つ目は、効率よく学べる良質な教材とAIの活用。雑談力をつけるには話題性ある学習コンテンツが効果的です。これが最適&最短のやり方だと思います」
最後に協賛のコーリジャパンの神成氏が登壇し、同社が提供する企業向けのAIを搭載したEラーニングソリューションについて解説した。同社のサービスでは英語学習を成功させる五つのポイントが基軸となっている。一つ目は、人工知能(AI)× 脳(認知)科学だ。
「AIの得意分野はデータ分析です。そこで各ユーザーの学習データをAIが分析し、記憶の忘却に基づく最適な復習を支援します。パーソナライズ学習では100人に対して100通りのパターンをつくり、AIが最適なコンテンツを選びます」
二つ目は、膨大な学習データの分析だ。同社は学習のクセ、間違えるパターン、学習時間など7万時間以上の学習データを持っており、それをパーソナライズ学習に活かしている。三つ目は、英語教授法に基づく学習法だ。出題パターンをAIが毎回選んで問題を出してくれる。
「四つ目は、グローバル人材に必要な最強の題材による学習です。例えば、シェアリングエコノミー、オリンピック、人工知能の最前線など、話題のもの、興味深いものといったテーマを扱います。また、頻出語も多く学びます。五つ目は、ヒューマンアプローチです。AI学習と言っても、人によるアドバイスも大事。講師や学習アドバイザーが的確なアドバイスを行い、それによりモチベーションも維持できます」
最後に神成氏が「学習の習慣をつけることが結果につながります。忙しい中で効率的・効果的な学習を実現するためにお手伝いしたい」と述べて、講演を締めくくった。
[A-5]なぜ英語学習が続かない社員が多いのか? 自主学習意欲維持のコツからAIの活用まで
[A]「幸せな職場」のつくり方 ~従業員が幸せになれば会社が伸びる~
[C-1]世界114ヵ国、130万人の「英語能力ビッグデータ」から見えた、次世代リーダーを育成するヒントとは
[C-5]いまから、人事が準備すべき「仕事と介護の両立支援」とは~2025年問題に向けて~
[C]自律組織・自律人材をどう実現するか
[D-5]クライアント事例から学ぶ 事業戦略から落とし込む教育体系構築の具体策
[D]今なぜ「エンゲージメント」なのか ~人事リーダーと共に考える、その意義と可能性~
[LM-1]多様性の実現がゴールではない ~ダイバーシティを「イノベーション」と「企業価値向上」につなげる~
[E-5]リーダーシップOSを組み換える~経営リーダーの土台をつくる6つの“C”~
[E]1on1×HRテクノロジーで、社内風土改善と離職防止を実現 ―全業界で役立つ東京ベイ有明ワシントンホテル1年の取り組み
[F-5]本質から知る社員エンゲージメント~カギは診断後のデータ活用にあり~
[F]人事の「未来像」――激変の時代における人事の存在意義とは
[G]戦略人事の先にある「これからの人事」
[LM-2]『日本の人事部 人事白書2019』から読み解く「育成」「組織活性化」の現状と課題
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[K-2]変革の時代を勝ち抜く「しなやかな組織」をめざして ~成長し続ける組織をつくるポイントとは~
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